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後世に恥じぬ栄光を掴む【岩倉高校】

JR上野駅入谷口の目の前の好立地に校舎を置く「岩倉高校」

「使節団」を率い海外視察で欧米諸国の近代化を学び、JR東日本の礎となる鉄道会社を設立させ、日本の繁栄に大きく貢献した「岩倉具視」に因んだものである。学校の校章は岩倉家の家紋「笹竜胆」と鉄道のレールを組み合わせたデザインである。

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故に「運輸科」では一般教育もさることながら、鉄道教育が非常に充実しており、流動する鉄道ビジネスの他、サービス介助・シュミレーターを使用する専門実務等を行い鉄道のスペシャリストを教育することが出来ることでその業界・知るものとしては大変有名な学校である。

だが岩倉高校は鉄道だけではない。

野球部はかつて、1年生時の夏の甲子園で全国制覇を果たした「KKコンビ(桑田真澄・清原和博)」を擁し全国最強の名に恥じない強さを誇っていた「PL学園」を打ち破り全国制覇を成し遂げている。

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1984年第56回大会の選抜甲子園。夏に全国制覇を果たしたPL学園はもちろん優勝候補の最右翼。だが、そんな大会で“打倒・PL”を果たしたのがこの大会で春夏通じて甲子園初出場を果たした岩倉高校であったのだ。

1983年の秋季明治神宮大会を制した岩倉高校であったが、当然このPL学園を打ち破れるかどうかと言われれば難しいという前評判であった。

●1983年秋季東京都大会
1回戦 岩倉 10 - 2 城西
準々決勝 岩倉 4 - 0 日本学園
準決勝  岩倉 3 - 2 日大三高
決勝      岩倉 3 - 2 法政第一 
●第14回明治神宮野球大会
1回戦 岩倉 2 - 1 大牟田
準決勝  岩倉 5 - 4 土浦日大
決勝      岩倉 5 - 0 京都商業 

スター選手を擁さない岩倉高校は、エース・山口を中心とした守り勝つ野球。
打線は確実に後ろへ繋いで行き、チャンスは逃さない。
一方のPL学園も危なげなく選抜出場を果たすと、決勝戦まで「甲子園連勝記録」を着実に伸ばし「20」を打ち出していた。

初戦「岩倉」は広島県の「近代福山」との1戦を制すると、2回戦は秋田県の「金足農業」では終盤まで点を取り合いながら8回裏に2点を奪い逃げ切り成功。
だがこの試合、肝心の守備陣が4失策。エースの山口も乱調と安定感を欠き、次の1戦が非常に危うく感じ取られてしまうことは確かだった。

準々決勝では、後にこの年の夏に全国制覇を果たす茨城県の取手二高。名将・木内監督率いる取手二高との1戦は終盤まで1点を追う展開となるが、8回表に連続タイムリーが飛び出し見事逆転勝利を果たす。

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準決勝の岩手県の大船渡戦は1‐1で迎えた9回裏に2番・菅沢が左翼ポール際へサヨナラ本塁打。毎試合ヒーローが代わる「全員野球」と、当時全国に出場するようなチームでは大変珍しい「ノビノビ野球」でPLの待つ決勝戦へと進出した。

迎えた決勝戦。後に分かることだが王者PL学園は前夜、岩倉高校の研究をしていたことに対し、岩倉は宿舎でトランプをする等、非常にリラックスした状態であったという。PL学園は世間の印象、及びその実績と誇りから負けられないという責任感を強く感じていたことは言うまでもないだろう。

試合は互いに譲らぬ投手戦となる。4番清原が送りバントをする等、徐々に緊迫感が増した試合は、8回裏。2番・菅沢がこの試合攻略に苦しんでいた桑田のカーブを叩くと、待望の1点を掴み取り勝負有り。

エース山口は粘り強く投げ抜き、8回時点で協力PL打線を1安打に沈める完封勝利で見事「全国制覇」を成し遂げたのであった。
岩倉が大金星を挙げると同時に、1981年の春の選抜から続けてきたPLの甲子園での連勝記録を20で止めた瞬間でもあった。

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余談ではあるが、PL学園はこの年の夏の甲子園では再び決勝まで進出するが、先述した茨城県の取手二高の前に敗れ準優勝で終えた。
「取手二高」「岩倉高校」のこの2校はノビノビ野球と称されるように、プレッシャーを感じることなく普段以上の力を発揮した試合に呑まれてしまった形となった。

随分と時は流れ岩倉高校は予選で上位まで進みながらも長く甲子園から遠のく。
だが野球部の積み重ねた歴史は、プレーする選手たちは諦めていない。
深紅の大優勝旗は今も彼らが帰ってくる日を待ち続けているに違いない。

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「成敗は天なり、死生は命なり、失敗して死すとも豈後世に恥じんや」

今を生かされている存在としては、
全ての人は、未来の礎になるわけですから、
未来の子どもたちに、恥じない言動を、
大切にする必要があるでしょう。

遺徳に因み校名に名付けられた「岩倉具視」の言葉である。

あの日、「岩倉高校野球部」が成し遂げた快挙はただ実績と名誉だけが後世に語り継がれるものではない。
時代に反した野球への取り組み。野球を、試合を楽しむ意義。
本質を教えてくれたようにも思える。

夏の大会終了後、PL学園の桑田は、敗れた取手二高のエース・石田に会いに茨城に出向き、こう尋ねた。

「なんであんなに野球を楽しめるんですか?」

●第56回選抜高校野球大会
【1回戦】
岩倉   100 020 100=4
近大福山 000 000 020=2
【2回戦】
金足農 000 100 201=4
岩倉  000 103 02×=6
【準々決勝】
岩倉  200 000 020=4
取手二 003 000 000=3
【準決勝】
大船渡 001 000 000 =1
岩倉  000 001 001x=2
【決勝】
PL学園 000 000 000=0
岩倉   000 000 01×=1

記事参照:https://www.asagei.com/excerpt/100993


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