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interview01 『お酒のつくり手であり、お酒と人の「つなぎ手」でもある』
大野で働いて暮らす同世代に話を聞く企画。
最初にお話を聞かせてもらったのは、「花垣」で有名な南部酒造場さんの蔵人である増渕菜々子さん。
(蔵人:酒蔵で日本酒造りに従事する人)
増渕菜々子さん
・埼玉県出身の24歳。(2024年6月現在)
・大学時代と社会人1年目は東京で過ごす。2022年の秋から大野へ。
・酒造りの時期(秋〜春前)は大野に、夏は関東で暮らす。
ななちゃんとは、私がスタッフをする荒島旅舎という宿に、来てくれたことがきっかけで知り合いに。酒造りの話をする姿がとっても魅力的で、話を聞いてみたいと思っていた。
インタビューを通して、
今まで言語化できなかったななちゃんのかっこよさを一つ見つけられた気がした。そして、自分の日本酒への眼差しが変化したのも感じた。
なぜ、酒造りの世界へ?
酒造りで日々どんなことを感じているのか?
ななちゃんへお聞きした。
自分の手でつくったものを自分の言葉で伝えたい
ななちゃんが酒造りに興味を持ったのは、大学3年生の時。
酒蔵の1dayインターンがきっかけだったそう。
「日本の魅力が"日本酒"という形で1本にぎゅっと表現されていることにすごく惹かれました。」
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「海外に住んでいたこともあり、もともと日本の伝統文化に強い憧れを抱いていたんですよね。就活時期のたった1日のインターンですが、日本の自然と向き合い、人の手で国酒をつくる生き生きとした醸造家たちの姿にかっこよさを感じて、日本酒を学びたいと思ったんです。」
※国酒とは日本を代表するお酒であり、「日本酒,本格焼酎,泡盛,本みりん」の4種類の総称。
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そこからすぐに酒造りの道へ進むのではなく、ななちゃんは新卒では東京のデザインの会社に入社。
「かっこよさも感じつつ、やっぱり酒蔵に勤めるのってすごく怖くて。
力仕事もあるし、女性が1人もいない蔵もたくさんある。」
酒造りに対して、かっこよさや憧れだけじゃなく、「恐れ」も持っていた。笑顔でいつも楽しそうな部分しか知らなかったから、そんな話を聞いて少しななちゃんを身近に感じる。
入社したデザインの会社では、アプリやWebサイトの設計図を作っていたそうだ。
「純粋に絵を描くことも、アプリやwebサイトの構成を考えることも好きだったので、それはそれですごく楽しかったんです。」
「でも、いつかは酒蔵で学びたいと思っていました。」
そんな思いから、地方の酒蔵を訪問したり、毎日職場の近くの酒屋さんに通い、お酒の種類や製造工程を勉強していたそうだ。
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「勉強し始めてから、前のめりになって友達に日本酒の面白さを伝えることが多くなりました。でも伝えるときに、蔵元や酒屋さんに教えてもらったことをそのまま言うということに不甲斐なさを感じていました。やっぱり、自分の手でつくったものを自分の言葉で届けられるってすごくかっこいいなと思って。」
酒造りは力仕事。やるなら若いうちだと決心し会社をやめ、南部酒造場さんの季節雇用に応募したそうだ。
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数ある酒蔵の中で、なぜ南部酒造場さんだったのか。
「きっかけは友人の喜んでいる姿でした。」
日本酒をセレクトして友人との宅飲みに持っていった時に、特に喜ばれたのが「花垣のにごり」だったそう。
「友人の『美味しい』って飲んで喜んでいる姿が、あったかくて。なんかいいなって思って。」
「美味しいって思えるお酒をつくる蔵って沢山あるけど、自分の身近な人たちを幸せにする日本酒をつくる蔵っていいなと思いました。」
そんなきっかけから、南部酒造場さんへの想いが生まれたそうだ。
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地域の魅力を凝縮したものをつくるという仕事
2022年の10月、晴れて南部酒造場の蔵人となったななちゃん。
「1年目はメモをとり、覚えて、杜氏の背中についていくのにただただ必死でした。」
(杜氏:酒造りの最高責任者)
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1年目は序盤の工程である洗米を担当。
2年目からは、全ての日本酒のもととなる「酒母」をつくる重要な工程を担当しているそうだ。
「酒母は、日本酒の赤ちゃんのようなもの。
時間ごとに温度をはかり、状態をみたり、香りをかいできちんと発酵しているかを確認します。」
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洗米や酒母以外にも、さまざまな工程を先輩蔵人たちと共に学んでいるななちゃん。自分の担当以外も、見たいと思った工程は学ばせてくれるそうだ。「ここは、学ぶ背中を押してくれる環境です。」
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とはいえ、
初めての環境。
初めての酒造り。
想像していたものとのギャップはなかったのだろうか。
「やっぱり泥臭い仕事ももちろんあります。半分以上は洗い物の作業です。でも、私はそういう泥くささも含めて”かっこいい”と思って来たので、ギャップみたいなものはなかった。」
さらに、
「初めて自分達で作った日本酒を飲んだ時、
『自分と、蔵の人達と、自然の力でできたものがこうなるんだ』
と感動したのを覚えています。
想像していた以上のやりがいが酒造りにはありました。」
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「日本酒は地域の魅力を凝縮したものだと思っています。
日本の技術と文化、そして地域の環境全部が表現されています。」
と、ななちゃんは話す。
"地域の環境全部が表現されたもの"とはどういうことなのか。
「例えば、同じお米の品種や酵母を使っていても、お酒を造る土地が変われば、仕込むときの水も、地形も、気圧も変わってくる。当然できるお酒も変わってくる。
作り手側も、杜氏の流派があったり、作る人の手や蔵についている酵母もあるためつくる人達によってお酒は変わります。」
だからこそ、地域の環境が日本酒に表れる。
酒造りは究極的に地域の産業なんだとハッとさせられた。
私自身も日本酒はよく飲む。
でも、好きだけど知らないことは意外と多い。
例えば、年によってお酒の味わいが違うのはなぜ?と疑問を持っていた。
今思うと、日本酒を工業製品に近い目線で見ていたのだと思う。
でも、工程や発酵しているさまを見させてもらったことで、
日本酒は、むしろ工業製品とは逆で「工芸品」に近いものだと感じる。
例えば、漆器のように、気温や水、お米などの環境と職人の知恵と技術でつくられるもの。だからこそ、微細な変化も生まれるし、むしろその変化を楽しむことができる。
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「自然の工程と人間の手を添えた形での品物、愛おしいな〜って思う。」
そう言って笑顔を見せるななちゃん。
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一方で、そんな、愛おしく、地域の魅力でもある日本酒には課題もある。
つくり手の枠を超えて「つなぎ手」でもあること
「日本酒の消費量は減少傾向なんです。」
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データを見ると、消費量はこの50年で約1/3にまで減っているのがわかる。
お酒だけじゃなく、酒蔵の数も少しずつ減っている。
そんな現状がある中、日本酒の魅力を伝えていくにはどうしたら良いのか?
「酒蔵側もオープンにしていくことが必要だと思います。」
ななちゃんはそう話す。
例えば、製造工程やつくり手の環境を知ってもらうこともその一つ。
工程を知ることで、私のように日本酒に対する見方が変わる人が確実に増える。
暮らしや環境を知ってもらうことで、未来の担い手が増えることにつながるだろう。
だからこそ、酒蔵側がオープンにしていくことは、日本酒の魅力を伝える一手となる。
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ななちゃん自身も、酒造りの魅力を伝えていくような取り組みをしている。
例えば、webメディアでの発信。
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つくり手の環境ややりがい、苦労したことなどがななちゃんの言葉で語られている。酒造りを志す人の後押しとなるものだと思う。
他にも、季節雇用を活かして夏は東京へ行き、つくり手として売り場で日本酒の魅力を伝えている。
「夏場は東京の酒販店で学んでいます。お客さんの顔が見えるし、イベントに参加できる機会も沢山あります。」
お客さんにとって、普段会うことのできないつくり手から、お酒の話を聞けるのはとても嬉しい。
お店としても、スタッフとしてつくり手がいるということは珍しいことらしく、ななちゃんは貴重な存在である。
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そんな話を聞いていると、私から見たななちゃんは
日本酒や造る現場を身近なものにしてくれる「つなぎ手」だ。
「つくる現場」と「売り場」
「つくり手」と「それを志す人」
つなぐことで魅力を伝えている。
そして、無理に「つなぎ手」であろうとしているのではなく、
"学びたい"から、"日本酒が愛おしいから"がななちゃんの根底にある。
そんな姿がかっこいいと私は思う。
「つくり手」という枠を超えて「つなぎ手」でもあるななちゃん。
これからもどんな新しい世界をつないでくれるのかとても楽しみ。
おまけ:取材風景
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ななちゃんの休憩スポット、屋上。この日は晴れて、荒島岳がよく見えた。
なんでこんな爆笑してたんだ、、??笑
文:山本響(地域おこし協力隊) 写真:桑原圭さん