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北極圏ひとりぼっち
ある夏、私は一人フェリーに乗り込み、ノルウェーのロフォーテン諸島へ向かっていた。
少し前までロフォーテン諸島なんて知らなかった。
確か、本かWEBで美しい風景写真を見て行きたいと思い立ったのだった。その風景が「アナ雪」のモデルになったというのは後から知った。
いずれにしてもそこは北極圏。日本からの道のりはまあまあ長い。
日本からノルウェーは直行便が無いため、カタールのドーハで乗り継いでオスロへ向かう。オスロでもう一便乗り継ぎ、北極圏のボードーという街へ。
おもちゃのような民家が建ち並ぶボードーで一泊し、翌朝、港からフェリーで約3時間、ロフォーテン諸島のMoskenesという港に到着。
そこからさらにバスで10分ほど走ったところに、目的地のReine(レーヌまたはレイネ)という美しい漁村があるのだった。
ロフォーテン諸島、世界地図で見ると、やや物怖じしそうなぐらい遠い。
とはいえ、乗るべき物に乗りさえすればあとは運んでもらえるし、飛行機やフェリーは時刻表でも調べてあったので難なくクリア。
ところが、フェリーの着くMoskenesでちょっとした問題が。
事前にチェックした時刻表では、フェリーの到着時間に接続しているバスが無かった。ただでさえ便数が少ないのに、そんなことってある?
もし本当にバスが接続していない場合、港で次のバスを数時間待つか、目的地のReineまで1時間以上歩くことになる。
が、それは現実的ではない。
こればっかりは現地に着いてみないと分からない。最悪タクシーを呼べばいいかな、と成り行き任せにしておいた。
そしていよいよ現地に着いてみれば、やはり公共のバスは居なかった。
フェリーから降りた人々は各自ツアーバスや個人の車に乗り込み去っていく。しばらくウロウロするうちに、どうやら私だけが取り残されていた。
初めての北極圏。
8月だというのに気温は10度、ウルトラライトダウンを羽織って丁度いい。
港の周囲は高い山に囲まれ、港といってもターミナルのような建物も無ければ案内所も無い。あるのは舗装された埠頭と駐車場だけだった。
こんな所にタクシーを呼ぼうにもどうすれば良いのか…。
途方に暮れかけたその時、駐車場の向こうにレンタカー屋の看板を掲げたちっちゃい小屋が見えた。人影もある。とりあえず行って、タクシーのことを聞いてみよう、と小屋へ向かった。
小屋に辿り着いて扉を開けると、カウンターにはブロンドヘアに青い目の何ともさわやか北欧青年が立っている。
顔はF1レーサーのキミ・ライコネンをマイルドにした感じ?(いや、あれはフィンランドの方ですけど)。
突如現れたちっちゃい東洋女が片言の英語で何と聞いたのか、自分でもよく覚えていない。ただ、Reineに行きたいということは伝えた。
すると、青年はどうやらこう言っている。
「もうすぐ店を閉めて僕もReineに行くから、乗せてってあげるよ。だけど14時まで待ってくれる?」
なんと、救世主あらわる!!
はるばるやってきた極北で、ライコネン似な青年が車で送ってくれるとは!
いや待てよ、そんな簡単に見知らぬ人の車に乗ってしまってよいものか?
という思いもよぎったものの、北欧フィルターを外せばどう見ても田舎の素朴なおにいちゃん。いや、背は高いけれど、こう見えて学生さんかも?
それに聞き逃してはならない。彼は「なんとかクローネ」とも言っていた。つまりは有料、タクシー代わりの小遣い稼ぎだ。
金額もイメージ的にはタクシーの初乗りぐらい。お金を取るからにはきちんと送ってくれるよね?と、ここは青年のお言葉に甘えることにした。
14時までの約15分ほど、何もない港をブラブラしつつ、早速不安になってきた。
乗せてってくれるってホントかな。もしかして都合よく聞き間違えただけだったり?
とは言え、北極圏の山道を1時間以上歩くなんてメンタル的にもムリ!
ここはひとまず待つしかない。
そして14時。
小屋のほうを見ると、青年は約束通り店じまいをして外へ出て来た。
よかった…!
彼が向かう車のほうへ私も向かうと「この車ね」という仕草をしている。
私はホッとして車の元へ行き、助手席へ乗り込んだ。(つづく)
▲北欧の天気予報はまるでクリスマスツリー。
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