【一条工務店】施主とハウスメーカーの経済学
こんにちは、HIBI HOMEです
突然ですが、営業さんや設計士さんと話していて
「結局自分で設計士さんにあれこれ指示しちゃってるな~」
「最初からこういうことを提案してくれたら良いのにな~」
って思うことはないでしょうか?
もちろん、真に優秀な担当の方であれば
顧客の求める最高のものを提案してくれる確率は高くなりますが
ヒトの振る舞いの構造的に、なかなか理想の行動をとってくれないときがあるんです
今回は、施主とハウスメーカーの経済学と題して
そのあたりを解き明かせるような内容に出来ればと思っています
経済学って?
お金の話?と思うかもしれませんが
経済学という言葉は非常に広い意味を持っていまして
国富論を書いた経済学者のアダム・スミスは
「富の性質と動機の研究」
と定義しています
今回の話は、この定義内の動機に関わるお話で
経済学の中でもゲーム理論という分野の知見を使って
考察していきたいと思います
ゲーム理論は
複数のプレイヤーが関わる意思決定や相互依存的な振る舞いを
数学的なモデルを用いて研究する学問のことです
複数のプレイヤーというのは
家づくりで言うと「施主」と「設計士 or 営業」のような登場人物のこと
相互依存的な振る舞いというのは
施主の好みに合わせて設計士が提案内容を変えたり
設計士の提案によって施主が採用有無を判断したりと
お互いがお互いの行動に影響を与える様子を表します
このように、家づくりにおける施主と担当者の関係は
ゲーム理論で説明できるんじゃないかという気がしてくるわけです
ゲーム理論で解釈できると何が良いかというと
お互いがベストを尽くそうとしてもお互いの理想状態になりえないような構図があることを理解できるようになります
すると、そのような状態になっても無駄に悩んだりせず
理想的な状態に向かって戦略的に行動できるようになります
少し、抽象的な話で分かりにくいと思うので
ここで一旦、ゲーム理論の有名な構図を紹介します
囚人のジレンマ
ある罪を疑われ刑務所に入れられている囚人Aと囚人Bがいました
看守は囚人Aと囚人Bを個別に呼び出し、こう言いました
「お前らはこのまま黙秘していると2年の禁固刑だ」
「ただし、お前が自白するなら、相方を5年の禁固刑にし、お前を釈放してやる」
「ただ、両方が自白した場合は2人とも3年の禁固刑だ」
「2人で相談はできない。今すぐ決めろ。」
このような状況で、各囚人はどのような行動を取るでしょうか?
結論から言うと、彼らは両方とも自白することを選び、2人とも3年の禁固刑になってしまうのです
この話を聞くと
「2人とも黙秘しておけば2年で済んだのに~」
って思いますよね
でもそんな理想状態には理論上なかなかならないということなんです
このお話を、囚人のジレンマと呼びます
囚人に限らずとも、囚人のジレンマ状態になることはよくあり
いわゆる理想状態を達成できる確率はものすごく低いとされています
ライアーゲーム The Final Stageのエデンの園ゲームも
ゲーム理論的に言えば囚人のジレンマを人間が攻略できるかを描いたものだと言えます
とりあえずライアーゲーム面白いですよね(世代の方伝われ~)
映画はNetflixで公開されているので、これを見ると、理想的な状態を達成するのがいかに難しいことか、イメージしやすくなるんじゃないでしょうか
各プレイヤーの趣向
ゲーム理論では、お金や禁固年数など、いろんな指標が人の価値の尺度として用いられます
では家づくりにおいて、各プレイヤーの価値の尺度が何なのか、一旦整理しておきましょう
施主
家のオシャレさ
影響度:強
目に見えてかつイメージしやすいので施主が重視しやすいです
家の利便性
影響度:中
間取りから想像できる範囲では、重視されやすいポイントではあります
家の性能
影響度:弱
住んでみないと実感できないことが多いため、重要ではあるものの比較的軽視される傾向にあります
費用の安さ
影響度:中
顧客にとって安いことは重要ですが、嬉しさ度合いは状況によります。予算オーバー気味ならコストカットできることは嬉しいですが、予算が余ってる場合はコスト削減の意識は弱まる傾向にあります
不安の少なさ
影響度:中
人による、というのが正直なところ。不確定要素を排除したいがために安全寄りな選択をすることがあります
営業・設計士
売り上げ・利益の大きさ
影響度:中
本来、総額が大きくなることは会社の業績に直結するため重要です。
しかし一条工務店の場合、営業の成果は契約棟数で決まるようなので、高額な家を建てるかどうかはあまり気にしていない営業さんもいそうです。設計士さんも、顧客あたりの報酬が一定と思われるので、総額を無理に増やそうとするインセンティブはあまりないかもしれません
クレームが起きない
影響度:高
会社や個人の業績にも絡みますし、単純にトラブルは誰もが避けたいものです
図面の修正回数・量が少ない
影響度:中
決して口には出さないですが、心の中では修正機会を減らしたいのではと思います
お客さんが喜ぶ
影響度:中
本来これが重視されるべきですが、お客さんの喜びのピークは仕様検討中ではなくもっと未来にあるため、必ずしも最優先される項目ではないと想像します
ゲーム理論的にハウスメーカーが言い出せないこと
「それちょっとダサいですよ」
例えば、施主がデザインのことをあれこれ考えた結果
「こんな組み合わせも良いんじゃないかと思いますがどうでしょうか?」
と設計士さんに相談したとします
今回は、設計士さんから見ると好きではないデザインだった場合に
それがダサい/あまり良くないとはっきり言えるかをゲーム理論で考えてみたいと思います
ゲーム理論では、以下の表を使用して各プレイヤーがどんな判断をするか推定することを頻繁に行います
設計士が選べる行動は「ダサい」というか、「良いですね」と噓をつくかです
施主側は、性格上その人が意見を素直に受け入れられるか、不満を持つかの二択で考えることにします
※本来は選択肢に「行動」を持ってくることが多いのですが、設計士から見て相手の将来の振る舞いが読めないときは「性格」のようなものでも良いこととします
こうすると、表のようにお互いの発言や性格の組み合わせで4つのパターンが発生しうることが分かります
それぞれのパターンで、施主の気持ちと設計士の気持ちを見ていきましょう
①施主が素直で、設計士が「ダサい」と言った場合
設計士の正直な発言により、微妙なデザインの案が却下され、それより良いデザイン等の仕様となることから、結果的には施主にとって満足度の高い選択ができるでしょう。施主は意見を否定されても素直であるため、不満は小さく、むしろ最終的に良い選択ができたことを喜ぶはずです(→◎)
一方設計士の立場では、たまたま相手が素直に意見を受け入れてくれた場合
クレームなども特に発生せず、最終的に施主さんが喜んでくれるので
そこそこ喜びは大きいはずです(〇)
②施主が素直で、設計士が「良いね」と言った場合
施主は設計士のお墨付きをもらえるため不安感が減少し、自分で決められたことも含めて満足することが多いと思います。ただし、①のように本来もっと良い提案を受けることもできたかもしれないという点が少しだけマイナスです(→〇)
設計士は、肯定的な発言によってほぼ確実にトラブルを回避することができます。また、施主さんもある程度満足されるので、仕事をやりながらの喜びもそこそこあると考えられます(→〇)
ここで重要な点は
①と②のどっちになっても設計士は満足があまり変わらないということです
※家のクオリティや施主の満足度は変わるかもしれないのに、です
③施主が短気で、設計士が「ダサい」と言った場合
想像に難くないと思いますが、トラブルの原因になることが想定されます
この発言自体がトラブルにならなくても、施主さんにストレスを溜めさせたり、将来の施主側の提案の幅を狭めてしまったりする可能性は大いにあるでしょう
この場合、施主にとってもマイナスですし(→×)
設計士にとってトラブルは一番避けたいことのため、最悪な展開と言えます(→×)
④施主が短気で、設計士が「良いね」と言った場合
③で発生していたトラブルが避けられ、その後の打ち合わせも比較的スムーズに進められるでしょう
施主(→〇)も設計士(→〇)も②と同じ満足度を得られます
③と④を見比べると、短気な施主に対する設計士の最適な戦略は
「良いですね」と嘘をつくこと
ということがわかるでしょう
では、施主さんが素直に意見を受け入れてくれるか、少し不満げになるかわからない状態では
設計士はどんな行動を取るでしょう?
素直な施主に対してはどちらの発言でも満足度は似たようなものでした
短気な施主に対しては、「良いですね」と言うのが最適でした
ということは
相手の反応が読めないときはとりあえず「良いですね」と言っておくことが
間違いのない判断になるのです
これはすなわち
ダサいものをダサいと言えない構図になっている
ということなんです
「あなたの場合床暖房・さらぽかは不要ですよ」
全館冷暖房システムは、各部屋を閉め切って生活するタイプの家庭や、窓の配置等により温度ムラができそうな家では効果的ですが
基本ドアを解放気味にして生活したり、設備費用や光熱費を極限まで切り詰めたい家庭にとっては
一条工務店の床冷暖房はあっても使用しないものになってしまう可能性があります
ある程度家の広さや間取り、断熱性能等が決まってきたとき
場合によって「床暖房やさらぽかは必要ない」と言える設計士さんはどれくらいいるでしょうか?
先ほどと同じように表の4パターンで考えてみましょう
設計士さんの取りうる選択肢は「必要ない」と言うか「黙っておく」かです
施主さん側は「エアコン冷暖房だけでの過ごし方を熟知しているか」「よく知らないか」です
①施主はよくわかっていて、設計士が「必要ない」と言った場合
設計士に必要ないと言ってもらえれば
施主は自身を持って床冷暖房なしという選択肢を選ぶことができるでしょうし
この時点で知識が十分にあれば
仕様検討中もエアコン冷暖房が実現できるようにするための最大限の努力ができていることでしょう
また、住宅完成後も、施主が持つノウハウを駆使して快適に暮らせるので、施主的にはコスト的にも快適性的にも大満足になります(→◎)
一方設計士側は
施主さんが喜んでくれることはGoodですが
会社としては売上も下がりますし
床暖房を外すなどは稟議にもなりかねないので
生産性が微妙な判断をしていることになります(→〇)
②施主はよくわかっていて、設計士が「黙っている」場合
床暖房が標準で付いている商品の場合、それをあえて外そうとする施主はあまりいないでしょう
そんなこんなで床暖房を採用することになっても、性能や快適性が落ちる判断ではないので
結果的に住み始めてから①と同等程度の快適性で暮らせることになります
強いて言えば、固定資産税が若干高くなるという点くらいでしょうか
ちなみにさらぽかは、施主の自己判断で採用有無を決められるでしょう
(→〇)
①と②を比べると、設計士にとっては②にもっていった方が売り上げも増えてイレギュラー対応もしなくて済んでしまうのがポイントです
③施主はよくわかってなくて、設計士が「必要ないといった」場合
このようにアドバイスされた施主は
「変な提案をしてくるな」と思うでしょう
特に、全館床暖房は施主が一条を選ぶ大きな理由の一つなので
「それを外すなんて考えられない!」と思うお客さんもいるはずです
また、結果的にアドバイス通り床暖房やさらぽかを外したとしても
エアコン冷暖房の高気密高断熱住宅的な使い方を理解していなければ
「夏暑かった」・「冬寒かった」といった不快な生活を強いられることになるでしょう(→×)
設計士側も、自分が意図しない生活の仕方をされた結果
不評につながるリスクが高まります(→×)
④施主はよくわかってなくて、設計士が「黙っている」場合
設計士が何も言わなければ、施主は少なくとも床暖房、あわよくばさらぽかを採用してくれることになるでしょう
結果的にエアコン冷暖房と、冷暖房方法が2種類選べるわけですから
1択しかないよりは何かしらの方法で丁度良い暮らし方を見つけてくれる確率は高くなりますし
床冷暖房はエアコン冷暖房よりもドアの遮蔽や断熱の弱い箇所の考慮を必要としないため、空調がうまくいきやすいはずです(→〇)
設計士的にも、大きなトラブルを抱えるリスクが最も低い方法であると言えます(→〇)
③と④を見比べてわかるのは
設計士からすれば床暖房・さらぽかは不要などと言うと
自分の首を絞めるリスクがあるということです
また、①②の比較においても設計士目線で「いらない」提案をするメリットは特段ないことを考えると
施主がエアコン冷暖房のうまい使い方を熟知しているかどうかわからないときは
とりあえず「不要とは言わない」選択肢を選ぶのが間違いないという判断になってしまうのです
その他
上記の2例以外にも、ゲーム理論的に設計士が理想的じゃない振る舞いをするケースはいくつも考えられます
一個一個説明が大変になってきたので
ここからはタイプ別にまとめていくことにいたします
■取りやめ・引き算設計系
「建具はなし、もしくは引き戸の方が良いですよ」
他多数
引き算の思考が大事なのは言わずもがなですが
床暖房の例でもあった通り
やめる系の提案はなかなかしづらいものです
なぜなら、取りやめるものには本来何かしら役割があったはずで
それをやめるということは施主側に一種の割り切りを求めることになるからです
もちろん施主にとってはそれがなくても困らなかったり、我慢できるから取りやめるわけですが
他人である設計士が施主の価値観を完全に理解したり、我慢を強いるような提案をするのは結構難しいと思います
そのため、より施主側が積極的に引き算の意識を持たなくてはならないのです
■合理的すぎ/ジャストを攻めすぎ系
「エアコンは6畳用エアコン最小限で1台で十分ですよ」
「お住まいの地域だと二倍耐震、対水害住宅仕様はいらないですよ」
普通の提案ではオーバースペックになってしまうようなとき
理屈では丁度良いものが分かっていても、それで万が一失敗して施主が不満を持つ、といったことは避けたいはずです
そのため、合理的だけど世間の非常識的な提案は、なかなかできないのです
個人的な感覚ですが
一条工務店の施主さんは8畳用のエアコンを採用している人が多いイメージです
これには、Q値的に本当に8畳用が必要な家庭と、念のため6畳用じゃなくて8畳用にした家庭が混ざっているはずで
後者の割合は結構高いんじゃないかな~と想像します
■施主のワクワク奪う系
「規格住宅にするのも悪くないですよ」
「そのデザイン飽きますよ」
家づくりを検討すること自体も、家づくりの楽しみの一つですよね
ですから、施主の自由度を下げるような発言や、価値観を否定するような発言はなかなかできません
特に厄介なことは
人がどうしても、長期的な喜びよりも短期的な喜びに目がくらみやすく
短期的な喜びが実際よりも長続きすると考えがち
という点です
設計士は施主よりも経験豊富なため、長期的な目線を持ちやすいですが
その目線のアドバイスは、いくら的確であっても、施主さんに共感してもらえなかったり、不満を抱かれかねないのです
このようなお客さんからの不評を避けたい傾向がが強いと
設計士さんからもなかなか良いアドバイスができなくなってくるということです
■ビジネス上言えないから察して系
「来月はまだキャンペーン終わりませんよ」
「稟議案件だけどSNSで公開してOKですよ」
「提携外業者の方が安いですよ」
「ネット銀行の方が金利低いですよ」
その業界の慣習やビジネス構造を熟知している人にとっては分かるし
営業さんも設計士さんもわかっているけど
会社の損になっちゃうから言わない
というパターンです
もうこれは、施主がどこかから自力で情報を獲得するしかありません
こういうところを自力で判断できるようにするために、やはり施主は勉強が必要であると言えるでしょう
理想的な状態に持ち込むにはどうしたらよいか?
客観的な質問をする
設計士さんが施主のことを忖度するようなシチュエーションを作ってしまうと
比較的守りに入った意見しかもらえない可能性があります
設計士さんの本音を引き出すには
施主自身に対して発言する構図を避けるような構図になるよう
質問できれば良さそうです
例えば
「設計士さんが自分を家の仕様を選ぶとしたらどうしますか?」
といった言い方が考えられますね
自分の理解度を共有する
ゲーム理論というのは、プレイヤーがお互いの状況を完全に理解できないときに
どういう行動を取ることになるかを考察する学問です
これによって悪いことが起きるのを避けるためには
設計士にとって施主がどんな知識量を持っていて
根拠に基づいて物事を言っているか
等が分かるように日常のコミュニケーションをしていくと良いと思います
逆に、デザインや高気密高断熱住宅の暮らし方に自信がない場合は
知識や自信のなさをさらけ出してしまった方が
設計士さんもそれに合った提案をしてくれると思います
大事なのは設計士から見て
わかっているのかわかってないのかよくわからない施主にならないことです
やりたいことを施主から提案する
前述の通り、設計士からは思い切ったことは提案しにくい傾向にあります
そのため、やりたいことがあったら施主側は遠慮なく話題に出してしまった方が基本的には良いです
特に、引き算系のデザイン案は施主側から提案していく必要があるでしょう
寛容になり、その雰囲気を出す
設計士は
施主さんが自分の提案を受け入れてくれるか
変な顔をされないか
これらを常に意識して意見を考えているはずです
そのため、正直な発言に対する寛容さが施主さんからにじみ出てくれば
思い切った提案はしやすいと思います
逆に、恐いお客さんには無難な提案しかしなくなるでしょう
さいごに
ゲーム理論をもとに考察してわかることは
理想的な提案をしてくれないのは、営業さんや設計士さんにスキルがないからとは限らなくて
施主自身が担当者の力を引き出せていないからかもしれないということです
経済学的に、彼らの力を最大限引き出す方法は
施主自身の情報をできるだけ与えてあげることです
そのほかの一条工務店分析シリーズはこちら↓
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