朝、僕の隣で君が寝ている。僅かな面積の下着しか身につけていない美しい君のくびれが、はだけた毛布から顔を覗かせている。まだ起きる気配はなく、すやすやと寝息を立てている。それはもう寝入った子どものように。 僕は後ろから優しく抱きしめたあと背中に軽いキスをしてベッドから出る。幼い子どもを寝かしつけるように静かに。ベッドのそばに落ちている下着以外の服を着て、君が目を覚ますまでに朝食を作ろうと考える。カーテンを開けたいが、君が目覚めないようにそのままにしておく。カーテンの向こうには
市門の先の井泉の傍に一本のリンデの樹がある その木蔭で何度も甘い夢を見た 僕はその幹にいくつもの愛の言葉を刻み込んだ 嬉しいときも悲しいときも 気づけばその木のもとへ行ってしまうのだった 今日の真夜中の旅立ちに その木の前を通らねばならなかった 暗闇の中しっかりと眼を閉じた すると梢が僕に呼びかけるようにざわめいた 「おいでなさい、お若いの、ここで休んでおゆきなさい」 正面から吹く冷たい風が顔に当たり帽子を飛ばされた しかし僕は振り向かなかった 今はもうあの場所から遠く離れて
やっぱり君は変わらんなと思ったり 君も少しは変わったねと思ったり 君は相変わらず変わってるなと思ったり 僕らは死ぬまでずっとこんな話題で 酒を飲み語り合うのだろうなと思って それがしょうもないことのようにも 本気でいいと思えることのようにも感じられて そんな時間にときたま 人間やってるなぁと思うのである
久しぶりに1人で見る景色はあの日までのいつもとは違っていて またはあの日までのいつもが特別でこっちが元来の景色だったりして 少し笑えてくることもある なんとなく寂しくなることもある ああ人間はこうやって生きていくのだろうと思ったり ああどうやって生きていけばいいのだろうと思ったり それでも久しぶりに食べた神座の煮玉子ラーメンは美味しかったり 遅延で人が溢れかえった 大阪駅のホームにて
好きな季節がもうすぐやってくる 少し肌寒くなってきて 半袖半ズボンでは少し震えてしまう ヒートテックで毛布に包まると気持ちがいい季節がもうすぐやってくる 春が終わるとき 毛布をクリーニングに出したかどうか思い出そうともせぬまま 今年も押入れから出してベッドに放る お風呂上がりにそのまま毛布に入るとまだ暑くて やっぱりいらないとなる そんな中途半端な季節 その季節が終えるとやっと 好きな季節がやってくる 白く冷たい季節が そしてまたひとつ としをとる
朝起きて初めて身体に入れる水分が スパークリングワインだったとき 私は大きな幸せを感じる 缶で売られているスパークリングワインを 三口分だけワイングラスに注いで ベッドに座り壁にもたれかかって飲む 寝起きで空きっ腹の身体には アルコールがよく沁みる 部屋の掃除をして本を読む1日にするには これが不可欠な行為であることは 間違いないだろう
私は民藝に興味がある それは特に難しいものではない どう生きるか そのなかにどのような美しさがあるか それをとことん突き詰めた人たちの生きた証である ある人は言った コンビニ弁当や惣菜を皿に移さずプラスチックの容器からそのまま口に運ぶ 私はこんなにも地に落ちていたのかと 料理を作る気力がなくても 美しく食べることはできる 普段何気なく使う道具に何を選ぶか それはその人の生き方ときっと繋がっている