朝からかき氷(創作/シロクマ文芸部)
「かき氷を食べに行きたい!!」
社内の昼休みにみるSNS。そこには映えるおしゃれなかき氷の数々。
カラフルでPOPなかき氷もあれば、抹茶にあんこという純日本風のものまで。店内の様子も実にバラエティーにとんでいて、目が離せない。
かき氷といえば、私が子供の頃、ばあちゃんが「特別だよ」って、高い戸棚の上から降ろしてみせてくれた、手動のかき氷器が衝撃的だった。
「え?!もしかして、近所の店にある小さいカップのじゃなくて、
ガラスの器にワンサカ盛られた、カフェ的な奴が食べれるのか~!」
と、目の中のキラキラがとまらない。
しかし、我が家は大家族のため、小さいかき氷器で山盛りかき氷をつくろうとすると、かなりの椀力を要することに……。
小さい子供だった私は私なりにできることをしようと、かき氷器の下に受けているガラスの器をクルクルと回すお手伝いをしたのだが、ばあちゃんは、全員にかき氷を手渡す頃には手がグラグラ。おまけに氷も足りなくなってしまって、ばあちゃんの分は、結局、みんなの分より少なくなってしまうのだった。
近所で売っていた氷みつ。家族のみんなは、イチゴにレモン。カラフルな色を楽しんでいたが、最終ランナーのばあちゃんは、思い出したように冷蔵庫に走り、ばあちゃん専用の牛のマークの練乳缶を取り出し、氷にかけ、一気にパクついた。その時のばあちゃんのしあわせそうな顔ったら!!
そんなことを思い出していたら、社内ということにもかかわらず、秘密のかき氷器の、山盛りかき氷食べたーい!という気持ちが、もくもくと湧いてきてしまった。
突如、横にいた同僚が「なんだか、かき氷食べたくなってきたよ!」と呟いた。
「そう思う?私もそう思う!できたら、自分でかき氷器でつくったやつ食べたいなぁ。」などと、100%ありえないから、あつかましい言葉を言ってしまう。
そうこう言っていると、なぜか、同僚が給湯室に走っていった。そして戻ってきたと思うと、なんと、手動のかき氷器を持って現れたのだった。
「マジか・・・??」
「え?知らなかったの?戸棚の上に置いてあったの。お昼時間はまだまだこれからですよ~」と、ニコニコしながら氷をかき始めた。
その様子を見ながら思った。いや?まてよ。かき氷は食べたいけど、みんなの分作ろうとしたらどうなる?とんでもない数になるよね。昼休み終わるじゃんか。え~!どうしたらいいのよ~!と、余計な不安が渦巻いてきた。
「あ、つくるの、ちょっと待って。」
「え?どうしたの?」
「あのさ。」
「だから何だっつーの?」
同僚の手で回すかき氷器の取っ手の回転がどんどん速くなっていく。
みるみるうちに、速すぎてだんだん見えなくなっていく。
眩暈なのか、なんなのか、頭が痛くなって、目の前が見えなくなってきた。
「えぇぇぇぇぇ~!!!!!!!」
気が付いたら、自宅のベッドの上にいた。
窓から入ってくる朝日が、暑すぎて頭がガンガンする。
「なんだよぉ。夢かぁ。」
そう思って、ほっとしたのも束の間。
時計を見ると、とんでもない時間だった。
「ギャ~!!!ちょっと待って!会社~!!遅刻する~!!!」
思い切りドッタンバッタンして、せめて水だけでも飲もうと、
冷蔵庫をあけると、昨夜、コンビニで買ったプリンを発見。
「ちょっと待てよ。あの時、プリンと一緒にカップの苺のかき氷も買ったよね。」
「あぁぁぁぁぁぁぁ~!!!」
私は、茹で蛸のように固まってしまったあと、こんにゃくのように
ペタリと、その場に伸びてしまった。
「今日は日曜じゃないか~~~~~~い!!」
とんでもない暑さのせいなのか。私は完全にどうかしていた。
夢の中から夢の外まで変に気を使ってしまったせいか、変な脂汗が流れてきて、ドッと疲れてしまった。
開けっ放しになった冷蔵庫から、いい風が吹いてくる。
ばあちゃんとかき氷をつくるために、冷蔵庫から、製氷機の氷を取り出した時と同じ風の匂いがする。
私はすかさず、目の前にあるカップのかき氷のふたを開けて、パクついてしまった。朝からかき氷。ちょっと型破りなかき氷。ばあちゃんの牛のマークの練乳かき氷には、かなわないけどね。
ハチャメチャな寝起きになったけれど、苺の冷たいかき氷の甘さのせいか、今日はどこかから風鈴の音がしてきそうな、いい休日のはじまりに変わった。
【小牧幸助さんのお遊び企画「かき氷」に参加させていただきます☆】
よろしくお願いいたします。