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オープンソースを象徴するエンジニア/リーナス・トーバルズ Linus Benedict Torvalds (1969-)

自分はLinux以後の世界でインフラエンジニアとしてのキャリアをスタートした。だからずっとリーナス・トーバルズにお仕事をさせてもらっているという感覚がある。まあ現代にLinuxのお世話になっていないITエンジニアなどいないだろうけれども。

彼があんなことを言っていた、あれを断固として却下した、というニュースを見聞きしてエンジニアとして育った。Linuxという巨大なオープンソースを支えているものは、彼のあの力強いギークスタイルだろうと思えてならない。


はじめに

Linus Torvaldsは、オープンソース文化を象徴する存在だ。Linuxカーネルを開発し、IT業界に大きな革新をもたらした。ここでは、UNIXライセンス変更からMINIX、そしてLinuxへと至る経緯を簡潔に振り返りつつ、Torvalds自身の生い立ちや人柄、功績を紹介する。

幼少期とヘルシンキでの学生時代

Torvaldsは1969年12月28日にフィンランドのヘルシンキで生まれた。幼いころからコンピュータに強い興味を抱き、祖父が持っていたコモドールVIC-20でプログラミングを始めた。10代で基礎を独学し、ヘルシンキ大学に進学したあともOSの構造に強く惹かれ、学内にあったUNIX系システムを積極的に触った。

UNIXライセンスとMINIXへの影響

もともと大学などで比較的自由に使われていたUNIXだったが、1980年代にライセンスが厳格化され、ソースコードの扱いが難しくなった。そこでアンドリュー・タネンバウムは教育向けにMINIXを開発し、1987年に公開した。TorvaldsはこのMINIXを通じてOSの内部構造を学び、自分でカーネルを書きたいという意欲を強めた。

Linuxカーネルの誕生

1991年、Torvaldsは自作のカーネル開発に着手し、同年8月25日にインターネットで最初のアナウンスを行った。当初は「勉強がてら作ったもの」という位置づけだったが、公開直後から世界中のプログラマが参加してあれこれ改良を施すようになった。1992年にはGPLライセンスを採用し、誰でも自由に利用・改変できる仕組みを整えたことでコミュニティが一気に拡大する。

オープンソースへの貢献とIT業界への影響

Linuxはサーバ運用で成功を収め、組込みシステムやクラウド基盤など多彩な領域へ普及した。ライセンス費用を気にせず使えるうえ、UNIXライクな安定性と拡張性を備えていた点が受け入れられた。これを機に、多くの企業や研究者がソフトウェアを共有しあう「オープンソース」という考え方が広がり、業界の革新を後押しした。
さらに2005年、TorvaldsはLinuxカーネルのソースコード管理を効率化するためにGitを開発。分散型のリポジトリ管理という仕組みが、GitHubなどのプラットフォームで標準的に使われるようになり、ソフトウェア開発のスタイルを大きく変えた。

Torvaldsの人柄とエピソード

Torvaldsは率直な物言いとユーモアで知られる。自分を「先見の明のある天才」とは思っていないとたびたび言及し、「気づいたらLinuxが広がっていた」という感覚を持っているようだ(引用元: 『Just for Fun: The Story of an Accidental Revolutionary』 Linus Torvalds, David Diamond)。一方でコードレビューでは激しい指摘を行うこともあり、厳しさと寛容さの両面をあわせ持つ人物として知られる。
自宅のPCがクラッシュした際、その場でカーネルコードを修正して再起動にこぎつけたという逸話が有名で(引用元: 『Rebel Code: Inside Linux and the Open Source Revolution』 Glyn Moody)、驚異的な集中力とスピード感を象徴するエピソードだ。

現在とこれから

Torvaldsは今でもLinuxカーネルの開発を統括し、世界中のオープンソース関連イベントに登壇している。技術の進化スピードが速い時代でも「変化を楽しむ」という姿勢は変わらない。自分を「ただのエンジニア」と呼び、コードを書くことを何より楽しんでいるようだ。そのフラットな姿勢が、大規模コミュニティのモチベーションを支える原動力になっている。

おわりに

UNIXライセンスが厳格化された結果として生まれたMINIXと、それを踏まえて登場したLinuxという流れは、歴史的に見ればオープンソース文化の画期的な飛躍点となった。Torvaldsが切り拓いた道は、世界中のエンジニアが互いに協力しながらソフトウェアを磨き上げるという、新しい開発モデルの手本となった。
この協調と共有の精神はIT業界だけでなく、多くの分野に波及している。Torvaldsの存在は、常に新たなイノベーションを生み出そうとする人々にとって、大きなインスピレーション源であり続けるだろう。

ヘッダ画像:Krd, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で


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