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小泉小太郎民話 (4/4) ~泉小太郎との関連は?~
はじめに
今回は小泉小太郎民話を考える4回目、最終回です。
山を西に越えた松本市にも主人公の名前がそっくりな、「泉小太郎」民話があります。第1回で簡単に触れましたが、名前はそっくりですが、ストーリーは全く異なっています。名前が似ているのは地域性でしょうか、それともこの2つの話には関連があるのでしょうか....。
泉小太郎民話との関連
人と蛇との子。こうして生まれた子どもは神様というのが定番です。有名な海幸彦山幸彦の説話では、豊玉姫が大蛇となって出産し、生まれた子どもがウガヤフキアエズノミコトといって、神武天皇の父親になります。僧と蛇との子である小泉小太郎も例外ではなく、この民話から神や妖怪等の通常の人間ではない存在であることをうかがわせます。
松本地域に伝わる泉小太郎の民話では、小太郎は白龍王と犀龍との間に生まれた子どもで、八峰権現の生まれ変わりとも、穂高見命の生まれ変わりともいわれ、大活躍します。
松本地域の泉小太郎民話が神様が活躍するストーリーであることと、名前がほぼ同じこと、上田と松本という地理的要因が合わさって、それぞれの民話が元は同じ伝承だろうという説があります。上田地域のものが生誕譚、松本地域のものが成長後の活躍譚であるとすれば、物語としてスッキリするというわけです※。
※民俗学の大家・柳田国男は『桃太郎の誕生』[1]の中で、「元は一つであつたらうことが注意せられる」と書いている。
ところが、これまでみた通り、小泉小太郎の民話自体も別な伝承がつなぎ合わされた可能性がありますし、上田、松本それぞれの民話は、たとえ片方がなくともお話として成立する内容を持っています。ということは、元が同じ伝承である必然性は低いのではないでしょうか。
また、「上田地域のお話が小太郎の生誕譚、松本地域のお話が小太郎が成長後の活躍譚である」ことは、なぜ上田地域で後半の活躍譚が抜落ちたか、松本地域で前半の生誕譚が抜落ちたかを説明できることが必要かと思います。
両方の伝承をひとつなぎにみた時、ストーリーとしての一体感がかなり高くなるのは確かですが、別な伝承が合わさって成立した可能性が否定できない分、それぞれが別な形で残ったという、その理由の考察が必要となるでしょう。
その「何らかの理由」とはなんでしょうか。もしかしたら、上田地域に伝わる蹴裂(けさく)伝説が影響しているのかも知れないと考えています※が、この点は改めて検討することにします。
※ 蹴裂伝説とは、元々湖や池だった場所を、水を抜いて人が住める土地にした、という伝説。似た伝説は日本各地だけでなく、世界中にあります。
上田地域には唐猫伝説という蹴裂伝説の類型の伝承があり、そちらとの関係があるかもしれません。
総まとめ
上田地域に伝わる小泉小太郎民話の内容について、いろいろな視点で考えてみました。一連の記事を要約すると、次のようになります。
・小泉小太郎民話に似たストーリーは全国的に見られる。
・小泉小太郎民話は、2つの別な伝承が合わさったものではないかと思われる。
・上田地域と松本地域にそれぞれ伝わる小太郎伝承は、現状では別の伝承だったと考えたい。
結構考えたんですが、こうして見ると、ありきたりでつまらない結果ですねぇ(笑)。
他の伝説や伝承と同じく、小泉小太郎民話にもいくつかのバリエーションがあります。
例えば、上田市川西地域ホームページによると、鞍ヶ淵の蛇が抱いていた赤子が小太郎になること、薪取りに出かける歳が7、8歳であること、といったように細かい点に差異があります。
時代が経るにつれて、細かい差が生まれるのは仕方ないでしょう。語り継ぐために分かりやすく変更したり、あるいは伝承の受け手の思いが新たに込められるなどの作用が働いていき、後世に残っていくのですから[2]。むしろそれが自然なことかもしれません。
その意味でもオリジナルを知っておくのは意味のあることだと思っています。
参考文献
[1] 柳田国男. 桃太郎の誕生. 三省堂, 1942.
[2] 上田市デジタルアーカイブポータルサイト. "電子紙芝居 小泉小太郎物語", (cited 2020.5.29)