麻雀と生態学 (5)おまえが要るのさ、キーストーン
概要
ほんの少しのさじ加減で、
絶妙なバランスは保たれている。
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※注意
このコラムに登場する牌姿は、有志の協力のもと採譜したものである。
打牌選択の正誤検討に重きを置いた記事ではない。
誹謗中傷などの無い様、ご理解を頂きたい。
本題
たった一枚の余剰牌や不足牌が、
手牌全体のバランスを大きく決定づける。
麻雀を打っていれば、
そんな経験をしたことは一度や二度ではないだろう。
早速、牌姿を見て頂こう。
6巡目にして、この形。
慎重な性格の方や、条件戦などの特殊な状況下では
中を残すことがあるかもしれない。
中は守備力を確保できる余剰牌だ。
タンヤオは守備力を確保しづらいため、
こういう安全牌を1枚抱えることで、攻守のバランスを保つという考え方だ。
しかし、この場面では
中を切って、この形に構えた。
両面と双ポンをケアして両面聴牌できる形、俗に言う完全イーシャンテン。
……ではない!
そう、この6sは攻撃力をMAXにできる超重要な余剰牌だ。
こう構えることで、タンヤオは確定として
一盃口(ピンフ)ドラ赤のイーシャンテンかつ、
七対子ドラドラ赤のイーシャンテンでもある。
中を残して6sを切った形だと、
2枚目のドラ(7s)を引いた時に超弩級の聴牌を逃してしまう。
表示牌を含めて3枚見えている、双ポン受けとしては薄いこの6s。
しかし、このたった1牌があるだけで圧倒的に攻撃力が跳ね上がるのだ。
飢えた獣のような攻撃性をもつ余剰牌。
ただの索子ではない。草というよりはもはや狼、ワーウルフである。
そしてオオカミといえば、
卓の外・現実の野生でも、同様の働きを担うキーストーン種として知られている。
キーストーン種とは、ある生物群集内において
数は少ないけれど、全体のバランスを保つために超重要な奴らのことを指す。
オオカミは肉食で、シカに代表される草食獣を食べている。
乱獲などでオオカミが激減すると、シカが増えて植物の食害が激増する。
喰い散らかされて草木は消え、昆虫などの多様な草食動物も激減する。
加えて、植物に覆われていた土壌が裸になり荒れることで、土の中に住む生き物にもダメージが及ぶ。
オオカミの個体数だけを見れば、シカよりも少ない。
もっといえば、オオカミより圧倒的に数も種類も多い、
おびただしいほどの草食動物や土中の生き物が存在する。
それらがすべて、オオカミとともに姿を消すことに繋がるのだ。(*2)
このような種やグループを、
アーチ状の建築物の要石になぞらえて、キーストーン種と呼んでいる。
今回のオオカミの様に、食物連鎖の上位層はキーストーン種に当てはまるケースが多い。(*2)
ついでなので、もうひとつ別の場面も見て頂こう。
上家から5mが捨てられた場面。
ここさえ鳴ければ、という絶好の牌だ!
5mをチーしてこの形。
これで6pのくっつきによるスピード感のある聴牌と、
ドラ重なりによる高打点聴牌の絶好のイーシャンテンだ。
しかもこの手牌、西の暗刻が攻撃面でも守備面でも光る。
スピード、打点、守備力。
5mたった1枚のチーで、すべてをうまく兼ね備えたバランスの取れた形になった。
この5mも、間違いなく『キーストーン』だろう。
麻雀牌は石では無く樹脂な気もするが、きっと気のせいだ。
例えるなら、『喰うのが好き』な動物……さしずめラッコといったところか。
ラッコは食欲旺盛な肉食獣で、実は魚も貝もウニもなんでも食べる。
そのため漁師からは害獣と見倣されがちだが、
ラッコがいないとウニの個体数が激増し、コンブが食い荒らされることが調査で判明した。
コンブのような海藻は隠れ家や産卵場所、餌として重要だ。
魚やワレカラなど、非常に多様な生物がコンブの森に関わっている。
結果的に、ラッコを狩りすぎると却って海を荒らす、ということになるのだ。(*1)
オオカミにせよラッコにせよ、こうしたリスクを把握するためにも、
生き物同士の関わり合いを正しく知ることが非常に重要なのである。
それが、生態学の役割のひとつだ。
まとめ
余剰牌のもつ役割を、生き物同士の関わり合いを。
見落とさないようにしっかり考えよう。
もしかしたら、切ってはいけないキーストーンなのかもしれない。
そしてここまで読んで頂いた方々にこそ、
ひとつだけ、ぜひとも実践して欲しいことがある。
しりとりでラッコときたら、コンブと返そう。
それだけで、できるヤツだとすぐに判る。
謝辞
今回も、前回と同じ牌譜を使用させて頂きました。
ご協力いただいた有志の方々、誠にありがとうございます。
参考文献・図書
*1 生態学入門 第2版(編:日本生態学会、発行:東京化学同人)
*2 保全生物学のすすめ 改訂版
(R. B. プリマック・小堀洋美 共著、文一総合出版)
Ecological Effectiveness: Conservation Goals for Interactive Species
(Soule et al., 2003, Conservation Biology)
※正直、概要(Abstract)をチラ見しただけである。
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