【酒呑みエッセイ】ワクチン接種後に家系ラーメンをキメる30代独身男性の末路
嘘だろ…。
「お大事になさってくださいね~。」
愕然として処置室を後にした。
明日は休みだ。
にも関わらず、晴れないこの気持ち
いつか行ったロンドンの空のようだ。
私は今日、コロナウイルスワクチンを打った。
もう何千人、何万人と注射してきているのだろう
機械的な話し方で医師は言った。
「はい、左腕を出してください。腕はダラッとして~」
「はい、チクっとしますよ~。3、2、1~。はい終わりました~」
「お風呂は入っても良いですけど、こすらないでくださいね~」
「あと、今日はお酒は控えてくださいね~」
「お大事になさってくださいね~。」
嘘だろ…。
お酒は控えてください?
明日は休みだぞ?
休みの前日、仕事終わりの晩酌
それだけを楽しみに1週間働いてきた。
そのために、冷蔵庫をしっかり潤してきた。
グラスだって冷やしてある。
愕然とした状態のまま、ワクチン接種後の経過観察の待機所に座る。
どうすればいいのだ。
休みの前日、飲めなくても良い時間を過ごしたい。
明日は家から出ない、人と会わない。
お酒という選択肢を失った私の脳内に、一つの欲望が生まれた。
家系ラーメンが食いたい
無事経過観察を終え、私は車を走らせた。
目的地は家の近所にある家系ラーメン屋だ。
今日は、こってりギトギトのラーメンを頬張り、
胃もたれしながら、全身からニンニクのニオイを漂わせることにしよう。
店内に入ると券売機が出迎えてくれる。
野口英世を2枚入れ、晩餐のメンバー編成をしていく。
まずは、ラーメン
これはすべてのトッピングがすべて乗った「MAXラーメン」を選択。
続いて、追加トッピング
「ほうれん草」と「のり」を選択。
「MAXラーメン」には、すでにすべてのトッピングが乗っている。
しかし、これらを追加購入したのは
私は家系ラーメンの主役は、「ほうれん草」だと思っているからだ。
家系ラーメンというカロリー爆弾の中で
「ほうれん草」は唯一の栄養素と言ってもいい。
その栄養素がこってりギトギトのスープでコーティングされている。
この背徳感がまたウマイのだ。
「のり」の魅力は、また後で話そう。
券売機でのメンバー編成は、まだ終わらない。
家系ラーメンを食べるに当たって必要不可欠、エースで四番でキャプテン、
「白ご飯」を選択。
そして、最後に「焼きギョーザ」を選択する。
家系オールスターチームの完成だ。
食券の束を持って、カウンター席へと向かう。
店員さんに食券を渡し、一言伝える。
「良い天気ですね」
嘘である。
「かため、濃いめ、多めで」
麺の固さ、味の濃さ、油の量を指定する家系ラーメン界の文化である。
この一言を合図に、厨房では威勢よくラーメンが作られ始めた。
しばらくすると、「白ご飯」と「焼きギョーザ」が運ばれてきた。
「焼きギョーザ」を一つ食べる。
パリパリの皮から肉汁が溢れ、ニンニクとニラが香ってくる。
うまい。
これは本来ビール案件なのだが、今日は残念。
一口「白ご飯」を頬張る。
「焼きギョーザ」と「白ご飯」もよく合う。
そうこうしていると、目の前に緑豊かなアルプス山脈が出てきた。
「MAXラーメン」のお出ましだ。
乳白色のスープに何層もの油が浮き、
普通盛りでも多い中太麺の上に、チャーシューと煮卵が乗せられ、
さらにその上に山盛りの「ほうれん草」
そして、その「ほうれん草」を囲むように「のり」が並べられている。
まずは、スープを一口いただく。
うますぎる。
一口で口の中がニンニクに支配され、
超こってりスープが潤滑油として空腹の身体を巡る。
そして、麺をいただく。
私は基本的には細麺のラーメンが好きだ。
しかし家系ラーメンは、中太麺の方がスープがよく絡みうまい。
啜った時に口の周りに散ったスープの油、
1週間はリップクリーム不要だ。
それでは、トッピング類をいただいていこう。
スープにくたくたに浸した「ほうれん草」を「白ご飯」に乗せる。
そして、「のり」を一枚取り、スープにくたくたに浸し、
「ほうれん草」と「白ご飯」を巻いて食べる。
これがうまい、うますぎるのだ。
家系ラーメンは、これを食べに来ていると言っても過言ではない。
ラーメンという炭水化物に、「白ご飯」という炭水化物は有り得ない
と思われている方もいるかもしれないが、一度食べてみてほしい。
家系ラーメンという沼にハマってしまうかもしれない。
すべて食べ終わり、水を流し込む。
油でギトギトの口が潤される。
最後に飲む水のうまさは異常だ。
これがビールであれば、尚更だっただろう。
うまかった。
本当にうまかった。
ワクチンのため、お酒を飲むことができなかったが、私の胃袋は大満足だ。
さて、家でコーラを飲みながら映画でも見ようか。
良い休みの前日だった。休みはまだまだこれからだ。
期待に胸を膨らませながら帰路に着くのであった。
この夜、ワクチンの副反応による発熱に苦しむことも知らずに。