【お題】信号機、カーテン、花火 【場面】東京 【制限時間】30分 高校生のころに使っていたペンケースは,あれ、どの段ボールに閉まったんだっけ。この部屋は、富山の実家の物置程度しかない。20平米のワンルームなのだから、どこかにあるはずなのにな。別にどのペンでもいいのだけれど,高校生のときに使っていた、あのペンがよかった。翔太が教えてくれたゲルインキボールペンは120円にしては書きやすくって、私と翔太は授業で配られた藁半紙の裏に数式と落書きを交互にしていた。このまま、明日の大
募集要項# 純文学チックなので面白くはないです。 # 30分執筆チャレンジ お題海苔巻き・酒・太陽 本編たしか雨の日だった。 最初に父が言葉を発した。 「おまえは、このあとどうすんや。高い金はろうって、附属いれたんやぞ」 酒もまだ二合にも満たない中で、父がそういった。 まさか、ぼくの進路相談が、雑賀崎の肉屋とはおもってもいなかった。 和歌浦の海は3月らしく、落ち着いている。いくつかの漁船も、明日の出港にむけてだろうか、紐で頑丈にくるまれている。3月の夜風は気持ちいい。父
もう何百回も、貧相なこの借家の薄汚い浴室でシャワーを浴びているはずだった。それでも私は、その時々で、いったい自分が何を考えてていたのか、何に追われて、何に悩んでいたのかをまったく覚えていない。絶対に、毎日、何かを考えながら髪を洗っていて、剥がれていやしないかと「爪」のマニキュアを丁寧に見ていた。きっとそういう日々だった。そうなのだと思う。 思い出せないということは、私にとってそんなにも、とるに足らないことを考えていたのだろうか。いや違う。やっぱり、コウちゃんと一緒に、この浴
今年もたくさん本を買いました。 積ん読も大量にありますが、ちゃんと読んだ本もあります。 さらに、年末には、下記が出版されるなど、まだまだ買わないといけない本があります。どこかに、ぼくを待っている本がいるのです。 もちろん所属事務所でも大量に書籍や雑誌を買っていますが、ぼく個人でも(数えたくないですが)今年もnn万円以上は書籍を買っているように思います。このnoteは、普段は「純文学」の習作場所なのですが、他に公表の場がありませんので、ここで今年買って良かった書籍の私的ランキ
新大阪駅から 西から薄らぼんやりと見えてきた特急列車は、僕を避けて別のホームに入っていった。 午前八時三十分を少しすぎた頃である。 僕は、新大阪駅の四番ホームで金沢行きの特急サンダーバード八号を待っていた。国鉄がJRに変わったときのように、最初はたいそう奇異に思われた「サンダーバード」という名称も、あたかも当初からこの名前でしたよ、と言わんばかりに感じられるようになってしまって、いつの間にか「雷鳥」とは呼ばなくなった。 まさか路面電車に乗るかのように簡単にサンダーバード
★重要★ あくまでも創作(Sukoshi Fushigi)です。 コロナウイルスに関する正確な情報は厚労省等のページをご参照ください。 1 彼女の顔はきれいさっき夢から醒めたのだけれど、夢の内容なんてほとんど覚えていなくて、夢の続きさえも見たいとは思わなくて、それでも、肌寒くなってきた10月だというのにシーツが寝汗で少し湿っていたのだから、たぶん悪夢を見ていたのだと思う。わずかに覚えていることといえば、私が綺麗な車を盗もうとして、入るはずもない鍵穴に、高校を卒業する昨年まで
#1些細なことで喧嘩をしてしまったから、彼女は家を出て行ってしまった。それでも、ちゃんと僕らのベッドにはスマートフォンの充電器があって、戸棚を探る様子もなかったものだから、彼女には家出をする気持ちなんてなくって、だからこそ高校時代のプリクラ帳とか昔の通電するかしないか分からない携帯電話も置きっぱなしなのだとおもう。きっと、彼女は買い物に出たのだとおもう。 彼女の置いていった古い携帯電話には、プニプニと膨らんだシールが貼られていて、さも自分だけは歳をとらないでいるかのように張
# 純文学チックなので面白くはないです。 # 30分執筆チャレンジ お題「猿股、虹、スリランカ」 京都の夕闇をコウモリが舞う。 数十の仲間たちとともに群れているのか、踊っているのか、あるいは餌場を探しているのか、それは知らないけれど、僕には、何かに追われて逃げ回っているように見えて仕方がなかった。冬眠から目覚めたばかりかもしれない貪欲なコウモリたちは、ちょうど就職活動に追われている僕と同じで、幼児の落書きのように無意味でありながら、彼らなりに意味のある形をさまよっていた。い
1 SS(ショートストーリー)その1 久しぶりに氷見の蟹を食べた。昔は殻の半分が割られてなどおらず、上手に殻を割って綺麗に身を取り出すことは難しかった。父は、蟹の関節を適度な強さで押して蟹身をとりだし、得意げに僕に見せたものだった。そんな父も、今は殻を割る力すらない。ちょうど、屋根から雪が落ちる音がした。 その2 3度目の緊急事態宣言がでた。2度目は慣れたと強がってたが、さすがに3度目となると、誰もが、この未知のウイルスを止めようがないことを悟っていた。ラジオでは国連事
# 純文学チックなので面白くはないです。 # 一時間執筆チャレンジ お題「猫、コスモス、半島」 木村聡。 小学生のころの僕らといえば、ひたすらにあだ名を付け合っていた。数日で変わるあだ名もあったし、ずっと変わらないあだ名をもあった。そのころの僕らの中で一番の最悪は、あだ名がないということだった。校庭に住み着く猫でさえあだ名をもらえるのに、あだ名すらないことは、学校中の一番の格下で、スーパーファミコンをもっていないとか、毎日同じ服を着ているとかよりも、ずっと恥ずかしいことだっ
約1900文字・読了15分程度 1 ボレロのあの子彼女は、どこにいってしまったのだろう。 いまは、何をしているのだろう。 Mr.Childrenの「BOLERO」が発売されたのは1997年3月5日。 このころの僕はというと、ちょうど小学校4年生から5年生にあがる間近でさしてCDには興味がなかったのだけれど、このCDは家にあった。3つ上で、やはり中学校1年生から2年生になる年の兄が購入したものだった。 もちろん、この頃の僕は、「深海」と「BOLERO」の奇妙な関係など知る
★重要★ あくまでも創作(SF)です。 正確な情報は厚労省等のページをご参照ください。 約3500文字・読了20分程度 1 コロナの頃に。 あの3月。 あの3月は最悪だった。 あの3月はコロナの罹患者が見つかるたびに臨時ニュースが流れていた。 そして、4月になると傾向が変わって、死者数・有名人の罹患・政府要人の発言だけが臨時ニュースではいるようになった。 日が経つにつれて、臨時ニュースの深刻さは増していって、あの臨時ニュースの目覚まし時計のような何ら愛情のない機械音が鳴る
1 本文 (約1700文字)さっき、友人の浅野とたらふく、もつ鍋を食べてきた。 久しぶりに会った友人なんだ。 僕の大切な友人なんだ。 いつもは並ぶ店だけれど、新型ウイルスの影響で、今日はすんなりと入れた。 もつ鍋の味を、味噌と醤油、どちらでも選べるらしい。 たった2つの選択肢を見せられただけで、僕らの心は、大海に向き合うかのうような気分になる。僕らはなんでもできる。誰も、僕らの選択を止められやしない。この広大の海の前では。そう、実に自由なのだ!っていう気分にさせる。 二つ
本文約1500字・読了10分程度 1 涙の行方僕が4歳の時、おばあちゃんが死んだ。たしか、その時、僕は不思議と悲しいと思わなかった。「死」ということが何なのかよく理解できなかったのかもしれない。季節が順を追って過ぎるように、おじいちゃんも死んでしまった。その時、そのときにはもう小学校三年生だったからだと思う、僕はさめざめと泣き、泣き明かしたことを覚えている。 おじいちゃんの危篤状態が数日続く間、僕は平然と学校に通っていた。学校に行き、家に帰るとそこからすぐ近くの滋賀の病院
1 途端にトタンと雨が打つ (約1800文字)僕の住む町にも商店街がある。 僕は仕事場に自転車で通勤しているのだけど、いつも通る道は、実を言うと決まっていない。 時短だの、効率化だの、リモートワークだのが賛称される令和だ。 通勤ルートは、距離、時間、交通量を勘案して決めるのがデキるビジネスパーソンなのだろう。彼らは、たぶん通勤路が決まっているのだと思う。 僕だって昔はそうだった。 小学生のころは、グーグルマップなんてなかったけれど、目に見えない導線が教員によって敷かれてい
1 エンドロール「震源地は淡路島北部。地震の強さを示すマグニチュードは4.0…」 神戸でこれだけの揺れなのだとしたら。 そう思って、僕は震源地が気になった。普段はつけないNHKをつけてテロップを待った。午前7時を少し過ぎに流れたニュース速報のテロップを見て、僕は少し安心した。生まれ育った徳島でなくてよかったと思って、僕はほんの少し安心したのだった。地震のたびに、幼少期の出来事が思い出さされる。ちょうど、僕が小学4年生になったときのことだ。 * 僕はその頃から徳島に住んでい