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旅に向かわせるものは?
十九歳の夏。沢木耕太郎のノンフィクション「深夜特急」に憧れ、バイトしてタイ・マレーシア・シンガポールを一ヶ月縦断する旅を計画した。
1995年はまだ携帯電話も今のように普及しておらず、ネットも自由に使えるものではなかった。
旅の情報源の旅行ガイドブック「地球の歩き方」を穴が空くほど眺めた。
トラベラーズチェックを含む全財産は緊張する身体に全て身に付けた。
今なら旅前にネットを通じて最新の情報を仕入れ、行きたい宿などに予約を入れることも簡単なことだ。
しかし当時はそんなことが可能になるとは夢にも思わず、ノートに貼った宿の住所や地図、それだけが唯一の旅情報。
今なら現地で聞けば何とかなると腹をくくれるが、当時はそんな考えすら浮かばず。
到着したタイのドンムアン空港は気だるいくらいの暑さと湿気に包まれ、すでに夜。
もたもた両替していたら、同乗していた日本人客は皆空港の外へ吸い込まれていった。
目をギラギラさせた現地のタクシーの客引きたちが大勢こちらに睨みを利かせている。怖さで震えた。
なんとか街へ。その後も良き出会いあり、苦い経験ありと起伏に富んだ時を過ごした。
ベジタリアンの北欧の親子の車に同乗させてもらい、野菜しか食べない人がいることに驚いたことも今となっては貴重な体験。
四十代の今も旅に向かわせる原動力はこの時に感じた旅の喜怒哀楽だろうか。
(北海道新聞みなみ風「立待岬」3/9掲載)