「食旅脳内メモリーズ」ブータン編
ヒマラヤ山脈の東端に位置する小国ブータン。
国王と女王の来日でこの国の存在を知った人も多いはず。
GNH(国民総幸福量)という言葉も話題に。
期限の決まったネパール旅行の際、後半の旅先を決めかねポカラの町の旅行代理店に駆け込んだ。
ネパールの西側を旅するか、訪れてみたかったチベットまでフライトするか、そう相談したところ、意外な返事が。
「明日カトゥマンドゥまで戻ればブータンも行けるわよ」
飛行機の左窓からはエベレストやマカルーなどの世界最高峰のヒマラヤ山脈、右窓にはヒマラヤからインドへ流れる血脈のような無数の川の水。
飛行機はブータンの空港に降り立った。
首都ティンプー、古都プナカ、僧院やゾンと呼ばれるお城がそびえるパロを廻ったが、見所も料理も人柄も隣国インド・ネパールに比べると派手さはなく、どこもかしこも穏やかで、信心深いチベット仏教の教えが浸透していて、旅人の心持ちも過ごすうちに素朴で落ち着いたものに。
そんな心持ちで山の崖にそびえるタクツァン僧院まで山道を三時間歩いていると、日常の邪心など全て消え去っていた。
僧院の中は涼しく、ここで瞑想していたと言われるチベット密教の開祖グルリンポチェの像やお釈迦様の像に五体投地のスタイルで手を合わし床に伏せ祈る。
旅行というより巡礼のような気持ちになる。
ブータンは唐辛子の消費量が多く、唐辛子を野菜の一つとして多く食べると聞いた。
多くの建物に真っ赤な唐辛子が干してあり、料理にも干したチーズや唐辛子がふんだんに使われていたが辛過ぎて食べられないものは少ないと思っていたら、現地の人が食べている料理が辛過ぎて驚いた。
僕が食べていたのは外国人仕様だったらしい。
数時間かかる峠の山道で、工事中のため数時間足止めに。
何もない山中で通過できない車が一台一台と。
そうこうしていると、どこからか軽食や飲み物を抱えた人たちが現れ、屋台が並んでいく。
見回しても、この界隈に村など無さそうな高い山の中。
ここまで商売に来るブータンの人たちの根性。
短い滞在で国の幸福度を語ることはできないが、根差した仏様の空気に旅人はすっかり満ちた顔付きで帰国の途に着いた。
(季刊誌@h 2019年秋号掲載)
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