会話の途中で「えっ、何」と、聞き返すことがある。 自分の耳のせいだとは思いたくないが、歳とともに聴力の衰えを感じる。 まだ、普通の会話で困ることはない。だが夜に耳を澄ますとセミがいつも鳴いている。 今年の夏は、朝から異常にたくさんのセミが飛び回っている。 シャーシャーシャーの大合唱だ。 クマゼミばかりでアブラゼミがいない。ミンミンゼミもツクツクボウシもまだ現れない。 庭の金木犀にはビッシリと張り付いている。 このごろは近づいても逃げない。 地上一メートル位のところに、でか
ビリッと強い痛みに、体が足先までぐっと反り返る。 「痛いですか」 先生に左手を挙げて応える。 診察台の上で口を開けたまま、緊張感で腕から足先までカチカチにこわばっている。 逃げ続けてきた歯科治療に五年ぶりで来たのだ。 六年前に取れた差し歯を放っておいたので、まわりの歯までボロボロになった。 それでも痛みがないのをいいことにそのままにしていたら、前歯がほとんどなくなった。笑うと歯欠けジジイでなんともみっともない。 だが都合のいいことに新型コロナ感染症の流行で、マスクを年中