「恋を知らないより、失恋を知っているほうがましよ」/ひとり交換日記
「原因がわかった!」と男友達がはずんだ息で教えてくれたのは6月のある日のこと。
石垣島での生活からあんなに持ち帰ってきたはずのきらめきは、今月起こった二度の警察沙汰によって泡のようにしゅんと弾けてしぼんでしまっていた。
何をしても上手くいかない、どうやっても上手くいかない、どうしよう、苦しい、苦しい。頭と心の中が、100パーセントそんな感情で支配されてしまっていた。
「天王星人は今月まで大殺界らしい。」
そう言って送ってくれた六星占術のサイト。わたしはいつから地球人じゃなくなったんだ‥と思いながら開いたそれは、確かにここ最近襲ってきた不幸たちの理由を裏付けるのに充分だった。
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大失恋をした19歳の時。愛してくれた人を失った代わりに手に入れた音楽たちがたくさんあって、それを作った一人がcharaだった。たまたま本屋で見つけた本の帯に書いてあった言葉に強烈に惹かれてしまったのだ。
恋を知らないより、失恋を知っている方がましよ。
と。
人生で一番がっかり と 一番希望だった人を見失ってしまった。
と。
かなしいと同時に優しいそんな言葉を7年ぶりに思い出したのは、大殺界の極め付けに、7年後のわたしも一番希望だった人を失ってしまったから。
そんな予感はしていた。していたからずっと違和感と戦っていた。言わなくてもいい台詞ばかりを投げつけて、すがってくれることに安心して、無意識のうちに試すようなことばかりして。それでも腑に落ちないことだらけだったし、もうどうにもできなかった。だって気力を失った今のわたしは、それどころか自分まで見失なっていたんだから。
ご飯が食べられなくなって、胃痛が日増しに大きくなって、吐き気と咳がとまらなくなって、上手く息ができなくなくなっていた。
気付けば高校生の頃と同じ体重になって、あんなに気にしていたお腹もぺったんこになって。
鏡の中の自分を見てこれは誰なんだろうと思う度に、相手のことも「この人は誰なんだろう」と考えるようになった。どこに行ったんだろう、わたしがすきだったはずのあの人は。
「ひよりちゃんは僕以上に僕のことをわかってるよね」といつも言ってくれていたはずなのに。わたしはもう彼のことがなにひとつ、わからなくなってしまっていたのだ。
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恋がはじまる時、わたしは自分と一つの約束をしていた。
「もしどうしても、どうにも、上手くいかなかったら、自分のことをすきになってくれて、自分とのこの先の人生を望んでくれた人がいるってことだけ持って帰ろう」と。
家族どころか、とうとう恋人にすら、なれなかったね。
「どうにもならないこと」に負けるしかなかったんだね。
恋愛への希望なんて、家族への希望なんて、もうとうの昔に手放したはずなのに。ああ、また望んでしまっていた。
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今日、初めて会った女の子に「ひよりさんの言葉がだいすきなんです」と泣かれて、びっくりして、「本当に嬉しい」と答えて二人で泣き合った。
本当にびっくりした。ちゃんと知らないところで届いてたんだ。
今日、久しぶりに会った女の子に「なにも言葉が出てこないんだろうなって遠くから思うことがずっと心配だったよ」と言われた。
わたしもそれが、いちばんこわかった。
希望の一切をなくしてしまったあの日。
彼は「ずっと羨ましかったよ」と告げてくれた。「才能がある子だなってずっと思ってた。だから書き続けて。」と。
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気を抜くと襲ってくる吐き気と過呼吸に耐えながら、パソコンに噛り付くしか今はない。
「愛しいも嬉しいも悲しいもぜんぶ、今日この時のわたしのものだ」と思って作ったグラス。
わたしのすきなひとがすきな色と、わたしのすきな色のグラス。
「こうやっていつも支えてくれたから、だからわたしは小さくまるく自分のすきなことが続けられていた。」そう思いながら作ったグラス。
卒業制作になっちゃったな。
仕事をしながらずっと傍らに置いておけるようにおおきく作ったから、どんなに泣いてひからびても、どんなに苦しくなってえずいても、わたしはこれでお水を飲みながら、しがみつくよ、わたしの仕事に。
きっと上手に伝えられますように。きっと誰かに届きますように。
わたしはやっぱり、笑ったり泣いたりしながら過ごしたい。
一筋の希望を強がりにすることにしたわたしより。