今月の1枚 November, 2020〜縁〜
仕事がお休みの日。友達とアフタヌーンティーをする約束があり、出かけた。最寄駅まで歩き、ホームで電車を待っていると、耳慣れないベルの音が鳴り響いた。電車が時刻通りにこないな、とは思っていたけれど。
突如入るアナウンス。
ただいま○○駅で人身事故が発生しました。運転を見合わせます。運転再開見込みは…
あぁ、間に合わない。
恥ずかしながらこの時私の脳裏に浮かんだのは、自分の予定のことだけだった。ひとまず友達に一報を入れる。電車とまったから遅れるね。
さてとどうするか。
①電車の運転再開を待つ
②タクシーを使い電車が動いている駅まで向かう
2秒くらい迷った結果、絶対に②だと決断した。
つい5分前に入ったばかりの改札を出て、駅前のタクシー待ち場へと向かう。すでに列ができているかと憂慮したけれど、杞憂だった。
私の前にいるのは1人。きっとすぐにタクシーもくるだろう。特に何も考えず、スマホで電車の復旧情報を調べていた時だった。
「どちらまでですか?」
私の前でタクシーを待っていたマダムが、話しかけてくださった。少し驚きながらも、返事をする。行き先を伝えると、同じ方向だということが判明した。
これからタクシーも混むだろう。乗り合わせた方が料金も安くすむし、タクシー待ちの列も早く減る。
そのことに一瞬で頭が回るマダムを、素直に尊敬したし、自分の都合と予定のことしか考えてなかった自分自身に、少し後ろめたさのようなものを感じた。
結局そのマダムと、タクシーを乗り合わせることにした。私の方が目的地が遠く、マダムが途中で降りることとなっていた。マダムと乗り合わせたところまでのタクシー代は4000円。そして私が降りる時にはメーターが5800円を指していた。(マダムは最終的にいくらだったのか知らない)
降り際にさらっと千円札を4枚差し出してくださったマダム。いや、多いですよ…と思い戸惑っていると「いや、一人で乗るにしても4000円かかっていたので!」と一言。
さすがだな、と敬服の意を示しつつ「ありがとうございます」とその4000円を頂戴した。
「がんばりましょうね、コロナ。乗り越えましょうね。」
「これも縁なので!」
マダムがかけてくださった素敵な言葉が耳に残っている。
縁。
えん。えにし。
この一文字が、私は好きだ。
縁。
心が温かくなり、思わず顔が綻ぶ不思議な一文字。
この文字を念頭に、様々な友人・知人の顔を思い浮かべると、驚くくらい不思議と、みんながみんな素敵な笑顔だ。きっとこれが、「縁」という一文字が持つ力のなせるわざ。
何をするにしても、縁。
「ご縁がなかった」とか「ご縁ですね」とか。いろいろな縁を聞くけれど、どうせなら、お互いが助け合えるような優しい縁で、世界を満たしたい。
November, 2020
私にこんなご縁を運ぶ結果となった人身事故。あとで聞くと、視覚障害者の方が、反対側のホームにきた電車を、自分が乗る側のホームにきた電車だと勘違いして起きてしまった惨事らしい。電車のとまっていないところに歩いていき、線路に落ちてしまった。こういう事態への備えとしても、ホームドアは必要なんだろうな。想像するにとても痛ましい。ご冥福をお祈りいたします。