上場廃止となった株式の譲渡損益の所得税申告
非上場株式と上場株式の譲渡損益の所得税申告における扱いは、大きく異なります。
譲渡益が出ている場合は、確定申告をする必要の有無だけで税額は変わらないのですが、譲渡損が出ている場合は、損益通算や損失の繰り越しの扱いが大きく異なり、非上場株式の譲渡損のほうが納税者にとって不利です。
上場株式を基準に非上場株式について概要を書くと
・特定口座の制度がないので、売却益について申告が必要(申告不要制度も使えない)
・上場株式の譲渡益、受取配当との損益通算不可
・譲渡損の繰り越し不可(上場株式は3年間可)
大きく異なります。
「ふつうの人は上場株式しか買えないし、買わないのだからそんなことは知らなくてもよいのでは?」そのとおりです。
ただし、「上場株式が非上場株式に変わる」ことがあり、その時に直面することになります。それは上場廃止になった場合です。
上場廃止といっても経営破綻した場合に限らず、最近は「完全子会社化」のための上場廃止が増えています。
完全子会社化のために、まずTOB(株式の公開買い付け)で株式を買い集め、続いてスクイーズアウト手続きを行って少数株主を排除するわけです。
直近の有名な会社では2023年12月19日に東芝が上場廃止になりました。
東芝の場合
・2023年8月8日 公開買付け開始(買付け価格4,620円)
・2023年9月20日 公開買付け終了、成立
・2023年12月19日 上場廃止
この日までに市場で売却していれば「上場株式の譲渡」です。
・2023年12月22日 株式併合
株式併合により、ふつうの株主の所有株式は「1株未満の端数株」に変わります。これを公開買付け主体に譲渡することにより、公開買付け主体が東芝を完全子会社にします。
株式の併合の場合に交付すべき株式につき1株に満たない部分(端数株式)があるときは、一括して売却し、その売却代金を株主に交付することとされており、一括売却する端数株式は端数株主全員の共有に属し、会社は端数株主からその処分を委託されているという考え方です。
これは上場廃止後なので「非上場株式の譲渡」と扱われます。なお価格は公開買付け価格と同額の4,620円の予定です。
東芝の場合、上場廃止後にスクイーズアウト手続きによる現金化がされ、その際の単価は公開買付け単価と同額であることは当初からアナウンスされていたので、「公開買付けについて、何もしなくとも現金になる」という言い方もできます。しかし、所得税申告との関連では有利な点はありません。
なお、現金化の時期も市場売却よりかなり遅くなります。
東芝の場合
・2024年1月下旬「株式併合後の端数株処分代金のお支払いに関するご案内」発送
・2024年3月中~4月上旬 代金発送
株式投資をされる方は「上場株式への投資しかしないから関係ない」と考えず、頭の隅に入れておいてください。
以下は感想です。
東芝の場合の株式併合なのですが
・93,000,000株を1株に併合
・株式併合前の発行済み株式総数432,853,311株が株式併合後は4株になる
・定款の発行可能株式総数も10億株から16株に変更
というものです。
これにより、公開買付け主体以外の株主が保有する株式は全て端数株式になります。
「こんなことができるんだ」と思いますね。
東芝の公表資料でも、「よくいただくご質問」として
「正当な方法なのですか?」「広く一般的に使われている手法です」
というQ&Aが記載されています。