企業版ふるさと納税(最大約9割とは?)
大原美術館の「児島虎次郎記念館整備応援プロジェクト」
岡山県倉敷市の企業版ふるさと納税を活用した補助事業として、大原美術館の「児島虎次郎記念館 整備応援プロジェクト」が現在寄附募集中であると知りました。
寄附募集期間が令和6年4月に始まり、令和7年1月末までなので、もうあまり期間がありません。
詳細は以下のリンク先をご覧ください。
大原美術館は1922年に建てられた旧第一銀行倉敷支店の建物を再生し、洋画家・児島虎次郎を検証する新たな展示・収蔵施設「児島虎次郎記念館」として2025年3月の開館を目指しています。その際に倉敷市が補助金を交付して展示施設の整備、収蔵庫等を支援したいというものです。
こちらは倉敷市のウェブサイトです。スクロールしていくと「まちづくり中核拠点整備事業」として掲載されています。
「最大約9割の税負担の軽減」とは
パンフレットを見ていると「寄附に対して、最大約9割の税負担の軽減が受けられます」と書かれています。この表現は企業版ふるさと納税について通常使用されています。
「最大約9割って、具体的にはどうなの?」と思ったので、検討してみました。
寄附金の、税負担の軽減効果は、通常は損金算入によって結果的に法人税等が減少することです。これが通常約3割です。
企業版ふるさと納税においては、それに加えて税額控除が最大6割受けられるため、合計で最大約9割ということです。
「最大約9割」の理解のためには、税額控除の内容の検討が必要です。
①法人住民税と②法人税
①法人住民税について、「寄附額の4割」を基本としつつ「法人住民税法人税割額の20%」という上限が付されています。
②法人税において、「①法人住民税で寄附金額の4割に達しない場合、その残額」が控除されるので、ここまでだけなら①と②の合計で寄付金額の4割が控除できることになります。
しかし、②においては「①法人住民税で寄附金額の4割に達しない場合、その残額」に対して「寄附額の1割が限度(法人税額の5%が上限)」
とされています。この制限がどう影響するでしょうか。
寄附金控除前課税所得をT、それと寄附金額の割合をDとします。Dは、通常は0.01くらいでしょうか。
・寄附額の4割 0.4*D*T
・法人住民税法人税割の20%
法人税が税率23.2%として、法人住民税はそれに住民税率(標準税率7%)を乗じるので、0.232*0.07*0.2*T=0.003248*T
・「①法人住民税で寄附金額の4割に達しない場合、その残額」
0.4*D*T-0.003248*T
これと比較するのが
・寄附額の1割 0.1*DT (D=0.1のとき 0.01*T)
・法人税額の5% 0.232*T*0.05=0.0116*T
の2つの条件ですが、Dが0.116未満であれば、法人税額の5%より寄附額の1割のほうが小さくなります。利益の1割も寄附しないのが通常でしょう。
このため「①法人住民税で寄附金額の4割に達しない場合、その残額」と「寄附額の1割」を比較すると
・0.4*D*T-0.003248*T<0.1*DT
Tが0でなければ両辺をTで除して 0.3*D<0.003248 D<0.108266…
となります。
「寄附金控除前課税所得に対する寄附金の割合が約1.08%を超えると、①法人住民税及び②法人税の税額控除の合計が寄附金の4割よりも減少する」ということになります。
③法人事業税
③法人事業税では、寄附額の2割を税額控除(法人事業税額の20%が上限)となっています。
・寄附額の2割 0.2*D*T
・法人事業税額の20% 法人事業税率を7%として 0.2*0.07*T
・0.2*D*T<0.2*0.07*T
Tが0でなければ両辺を0.2*Tで除して D<0.07
となります。
「寄附金控除前課税所得に対する寄附金の割合が7%を超えると、③法人事業税の税額控除が寄附金の2割よりも減少する」ということになります。
以上を総合すると、「税額控除を最大の6割受けるためには、寄附金控除前課税所得に対する寄附金の割合が約1.08%を超えないようにすべし」となります。利益1億の見通しで寄附金100万円、というくらいですね。
具体的には
数式ばかりではイメージがわかないので、ちょっと試算してみました。
寄附金控除前課税所得1億円に対して、寄附金額が100万円、500万円、1000万円です。
寄附額が500万円(課税所得の5%)、1000万円(10%)と、約1.08%から乖離するにつれ、寄附額に対する割合も低くなってきます。「②法人税」のところで、「①で4割に達しない場合、その残額」が全て控除できず、「寄附額の1割」という上限に引っかかるためです。
なお寄附金額100万円の場合、寄附額との割合が97.58%と「約9割」を上回っていますが、これは損金算入による税額減少効果が「約3割」を上回る36.8%となっているためです。これについては「事業税の損金算入」の説明が必要となるため、この記事では割愛します。
寄附金額は、決算及び税金計算を行う前に決める必要があります。これから決算を迎える企業の方、ぜひ着地予想をしたうえで、課税所得の見積額の1%程度を倉敷市の企業版ふるさと納税にご寄附ください。倉敷市民として、大原美術館のファンとしてお願いいたします。当記事がその参考になれば幸いです。