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ひきこもりと車を持っているひきこもり2

私は元ひきこもり経験者。
23歳のときに「ひきこもり」当事者のフリースペースに通い始めて、そこから社会復帰をすることができました。

その私が通っていたフリースペースでスタッフさん達が何人も立て続けに辞めていく事態がおきました。

スタッフ同士の不和を感じた私は、フリースペースのスタッフさん達に絶大な信頼を置いていたので、動揺が凄まじかったのです。


フリースペースには車を持っているメンバーもいました。
その帰り道、私は毎回彼に駅まで送ってもらっていたのですが、事の重大さを感じて車内で彼と話し合いました。

テーマは「我々はどのように今後振る舞っていくか?」

すると車を持っている彼は即決したのです。

「俺は残ったスタッフさん達についていくよ!」

なぬっ!いざって時にこいつは意志が固いタイプか!!一方で私はオロオロと迷いっぱなし・・。

話を進める前に私と車を持っている彼との関係性を説明すると、私は彼のことをライバル視していました。

それは何故か?
「ひきこもり」期間中の過ごし方が私と彼とでは真逆だったからです。

私はこもっている状況に罪悪感を持っており、「楽」だと感じてしまうと社会復帰した後に「ひきこもり」生活に逆戻りしてしまう恐れがあると感じていました。

だから苦しい部分にフォーカスして生活をしていました。

一方で彼は比較的、意識を「楽しい」に向けるスタンスに見えたのです。

だから、これは「ひきこもり」のイデオロギーの戦いなのです。

どっちが先にひきこもりから脱出できるか?そして社会復帰した後もどこまで昇り詰められるか?それが生き方の正しさ(ひきこもり期間中の生き方)を現す指標になると思っていました。

勝手に私はそんなことを考えてライバル視していたのです。

「楽しいことばかりに逃げる奴」だと思っていた彼の意志の固さに怯みました。


私の本来の目的は社会復帰をすることです。
スタッフさんが抜けようとも、自分のことに専念してフリースペースに通い続ければ良いだけの話なのです。
そう思い直すことで気持ちを安定させることにしました。

車を持っている彼は我が道を行くタイプだと思います。
我が道を行く奴は強いと思った出来事でした。

社会を代弁する

車を持っている彼は博識でした。
家にお邪魔することが度々あったのですが、私が読むことは無いような魚や木工や日本建築の雑誌や本などが所狭しと部屋中に積まれていました。

私はプロレスやお笑いが好きだったので、何をどうしたらこのような小難しい本を読んで楽しいと思えるのか、その精神構造が理解できません。きっと頭が良いのでしょう。

そのような彼ですが、フリースペースメンバーに対して足を引っ張る場面がありました。

それはメンバーが何か新しいことにチャレンジしようとすると、決まってそれが大変なことであるということを強調してくるという言動の癖です。

「仕事は大変」「社会は厳しい」「なかなかうまくいかんで〜」的な発言です。

この発言に私も知り合った当初苦しめられました。
自分の考えに自信が持てないので、仕事や社会は厳しいと言われると、乗り越えられそうに無い絶望感に打ちのめされてしまったのです。

しかし、一緒にいる時間が増えていくと彼の発言は体験して得られたものではなく、人からの受け売りも結構あるということに気付くのでした。

新しくフリースペースに入ってくるメンバーは彼の「仕事は大変で世の中は厳しい」という発言の洗礼を受けることがあるのですが、そのような場面を見るとたまに私は陰で「そんなことないよ・・あいつもあまり世の中のこと知らんから・・」と訂正することもありました(半分悪口)。

社会に出てから学んだことでもあるのですが、人を見る時はその人の発する言葉ではなく、行動面に本質が出ると思います。言行不一致の人は結構いるものです。

本音を強要する

いつも彼は余裕があるように見えて、気持ちが安定しているように見えました。

しかし、顔などを見るとすごく肌が荒れていることがあるのです。

体と心はつながっていると思うので、いつも通りに見えても内心ではストレスを感じていると私は解釈しました。

25歳になると「ついにアラサーになった。」「四捨五入したら30だ。」という年齢の話をしましたし、29歳のときには「そろそろシャレにならん年齢になってきたな・・。」という話をしたものです(この時期私はフリースペースは卒業していたのですが、仕事面ではまだ非正規の職員でした)。

現状への危機感を口には出さなくても、ずっと彼もプレッシャーは感じていたのだと思います。

時間を24、5の頃に戻すと、あるとき私は彼に本音で話してもらいたいという衝動が湧いてきました。

きっと私は彼と仲良くなりたかったのだと思うのです。
なかなか鎧を脱がない彼に本音を迫ってみました。

私「悩んでることってないん・・・?俺は現状(仕事をしていない状態でフリースペースにだけ通っている)にすごく不安を感じてる・・・。」

この一言は私にとって、とても勇気のいる発言でした。
フリースペースにいるメンバー同士でも、ひきこもりの現状に対する思いなんて普段は話さないからです。
やはりそこは意地があるので、お互い平気なふりをしていたからです。

彼「特にないね〜・・・」

即答でした。彼はどこまでも平気な人として振る舞おうとしたのです。
途端に私は話を続ける意欲が無くなってしまいました。

私は意を決して本心を出したのに、彼は私を上回ろうとしてきたのです。

荒れました。

この衝撃は私の中で大きく、この日帰宅した後に衝動的に髪の毛を全てバリカンで剃り上げ、眉毛も剃ってしまったのです。そして寝込みました。

しかし今考えると本心は強要するものではないのです。
本心は本人が話たくなった時に話せば良いことなのです。
私が本音を話したからと言って彼も話をする必要はないのです。

その後の話

数年後。久々に会って、2人で海水浴に行くことになりました。そのとき唐突に彼が聞いてきました。

彼「女の子とどうやって話したら良いん?」

私「えっ?う〜ん・・とにかく話を聞けば良いと思うよ・・・」

私は特に恋愛マスターでもないのですが、彼よりは話ができたので無難な返答をしました。

今になって思うと、これは彼なりの腹を割った相談だったかもしれません。
この返答で果たして良かったのか?
翌日髪をバリカンで剃って、眉毛も剃って寝込んでいなかったか・・もうフリースペースにお互い通っていなかったので確認はとれていません。


あれから私は40代になりました。

車を持っている彼とは、もうしばらく会っていません。
いま何をしているかもわかりません。

そこそこ社会に適応したことで、ギスギスした気持ちも消えていき、今ではもし何かフリースペース時代のメンバーに困ったことがあれば、できることは力を貸していきたいと思うようになりました。

そして、どれだけ自分が出世するかよりも、いかに平穏な気持ちで生きていくかに私の意識も変わったのです。



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