【暗闇と想像力】現代の家になくなった暗闇。暗闇こそが想像力を育てる。
昔の家はどこも便所が居室から離れた場所にあった。「御不浄」という呼び方もあったぐらいだから、居室の近くには作りたくなかったのだろう。多くは外に作られたし、長い廊下を歩いた突き当たりに作られるのが一般的だった。そんなわけで子どものころ、田舎の家では便所に行くのが怖かった。特に夜の便所の怖さは尋常ではなく、雨など降っていようものならギリギリまで便所に行くのを我慢したものだ。
昔の家にはあちこちに暗がりがあった。そして古い日本家屋は内と外の境界線が極めてあいまいだ。外と居室を仕切るものは薄い障子だけ。夏ともなればすべて開け放して人間は蚊帳に逃げ込む。だから暗がりに得体の知れぬものが潜んでいるような気がしてならなかった。便所の窓から何かが覗いている、下から何かが出てくる、暗がりの先で何かにさらわれる、そんな恐ろしいことをいやでも想像してしまうような雰囲気が昔の家にはあった。
暗闇は想像力をかきたてる。だから怪談や妖怪映画にもリアリティーがあった。昔、映画館で「妖怪百物語」を観た夜など心底怖くて布団を頭までかぶって震えながら寝たものだ。ところが現代の家や街中には暗闇というものがほとんどない。どこへ行っても煌々と明るく、暗い場所もスイッチひとつで隅々までよく見える。こういう環境で育つと、想像力が育ちにくいのではないかと思う。夜の怖さ、闇の不気味さ、雨や風のもたらす不安、逆に明るい陽の光のありがたさ、火の恩恵といったものを幼少期に感じるのとそうでないのとでは、想像力の発達に差が生まれるような気がするのだが、いかがだろうか。
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