連載「ユニオンリスク」Vol.7 「ドライバーに戻れないと死んでしまう」故意に商品壊し解雇、その責任を街宣で"チャラ"にしようと試みた元ドライバーの末路
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」という問題点を発信していく本連載。
第7弾となる本稿では、プレカリアートユニオンに加入し、解雇撤回を求め団交、ひいては街宣活動を会社に仕掛けたものの、大きすぎる「代償」を支払うことになった元ドライバーの末路についてお話ししたい。
「ドライバーに戻れないと死んでしまう」
令和3年冬。
いつ終わるとも分からない裁判が続く中、元ドライバーの男性は、慣れない立ち仕事に従事する空調も効かない工場の片隅で、かじかむ指を震わせながらツイートした(現在は削除)。
「あの時、ブラックユニオンに依頼する以外の選択肢はなかったのか」——それから2年後の今、裁判の結果を踏まえ、男性がこう思ったとしても全く不自然ではない。
令和2年7月1日、あるドライバーが葛飾区の中堅トラック会社、スワロートラックを解雇された。
その理由はこうだ。
5月30日、倉庫内で突如暴れ出し、商品の荷物を故意に床に投げつけて破壊した。その他、従来から問題行動が多かった——。
実はこの男性、このプレカリアートユニオンで執行委員を務めたこともある労働運動家の佐々木和義氏という。
以前にも会社を「求人詐欺」として裁判闘争を闘ったことがある佐々木氏だが、この日、ついに、「解雇」として会社を追われることになったのだ。
もちろん、解雇されて黙っている佐々木氏ではない。
執行委員こそ、ブラックユニオン内部でも問題を起こし「降りてもらった」(委員長談)ということで、「引退」させられた”前科”のある佐々木氏だが、組合員としては健在だ。
早速、会社に団体交渉を申し入れた。
「語気荒く会社を責め立てる」団体交渉も不調、舞台は裁判所へ
意気揚々と団体交渉に乗り込んだS氏と委員長。相変わらずというか、大声で会社を怒鳴りつける、いつもの「団体交渉」を展開したようだ。
しかし、佐々木氏が荷物を投げつける瞬間のビデオテープという決定的証拠を握るスワロートラック社の強気は崩せず、やはり「いつもの」弁護団に依頼することになり、舞台は裁判所へ。
ユニオンは、ブログで会社を非難する記事を掲載したほか、佐々木氏の自家製という街宣車(シルバーのエアウェイブ)も動員し、本社だけでなく立川営業所にまで押しかけて連日のアピールに出た。
普通の会社であればこの辺りで屈服しそうなものだが、「求人詐欺」裁判でも煮え湯を飲まされたスワロー社、今度こそはとびくともしない。
ユニオン側も、佐々木氏が故意に壊したという経緯や過去のトラブルを棚に上げ、(結果として)破損した商品の定価が1,550円だったことから、「たったの1,550円分の商品を壊したら解雇」と事実を切り取ってのプロパガンダを繰り返し、(団体交渉では会社側を怒鳴りつける一方で)SNSでは同情作戦で大衆の気を引く作戦に出たが、そうこうする間に、東京地方裁判所で、起こしていた裁判の判決が出た。
「解雇有効」下された厳しい判決、過激な団体交渉も不利な結果に
提訴から約一年半も過ぎた、令和4年1月17日。しかし、東京地方裁判所で言い渡された判決は、なんと「解雇有効」だった。
佐々木氏・ブラックユニオン側の請求、主張は一切認められず、高額な弁護士費用だけを支払うことになる「完全敗訴」判決といえる。
判決の内容を、掻い摘まんで紹介しよう。
まず、「1,550円だから良いじゃないか!」といわんばかりの原告(ユニオン、佐々木氏)側の主張について、裁判所は、
「原告が、約4分間に渡り継続的に、故意に、本件倉庫内に積まれた積荷を衝突させて崩し、台車を強く床に投げつけ、積み荷等を強く蹴り飛ばし、また、強く放り投げるなどしたものであって、執拗かつ強度な粗暴行為」
と認定した。
「顧客から預かった商品を損壊することなく輸送するという、運送会社である被告が顧客から当然に最低限求められている業務を遂行不可能にしかねないものであり、顧客に対する被告の信用、体面を著しく失堕させることにもつながるものであることが明らか」
で、しかも、
「放り投げるなどした積荷等が他の従業員に衝突するなどのおそれも皆無ではなかった」という。
それらを踏まえ、裁判所は、佐々木氏の行状全体を踏まえて、「本件積荷崩し行為等は相当に悪質な行為」と結論づけた。
さらに、今回の問題行為だけに留まらず、過去にも社内で突然大声を上げるなどの問題を入社以来何度も起こし続けてきたことを勘案し、更生の見込がなく、結論として解雇を有効とした。
都労委、控訴審も完全敗訴。ユニオンは「職場改善のために闘った意義は変わらない」とうそぶくものの……
男性は控訴したが、控訴審でも地裁判決が維持され、男性は何も得られないままスワロー社を追われることが確実に。
ユニオンも、件の「団体交渉」での会社の対応が不誠実だと都労委に提訴したものの、こちらも全面敗訴の結果に終わった。
ちなみに、判決では、ブラックユニオンでの団体交渉について、
「本件組合側の人物が大声かつ強く荒い語気で被告側を責め立てていた様子もうかがえることからすれば、同団体交渉でのやり取りからなんらか本件解雇が無効となるような事情が認められるとはいえない。」
と認定しており、ユニオンに加入して、自らの非は棚に上げて会社側を一方的に責め立てた結果、それが裁判では不利に働いたことが明らかになっている。
ユニオンは、控訴審判決後、ブログに新たな記事を掲載し、「スワロートラックで労働条件向上のために闘った意義は変わらない」と強調。
他方、男性は、勝訴に一縷の望みを掛けて厳しい工場労働で食いつなぎ、前掲のツイート(現在は削除)からも伺えるように厳しい3年間を過ごしたものの、高額な弁護士費用と組合費だけをブラックユニオンとその顧問弁護士に支払い、非常に高く付いた敗訴判決2通だけを握りしめ、会社からは”レッドカード”にて退場という運びと相成ったわけだ。
前回の「求人詐欺」裁判の結果、スワロー社では、他社ではあり得ない好待遇を獲得していた佐々木氏。
いっときの衝動に負けて事件を起こし、自ら問題を起こしたにもかかわらず会社に押しかけ、「大声かつ強く荒い語気で被告側を責め立て」る”団体交渉”をおこなった挙げ句、最後は街宣車に乗り込んで会社を攻撃するという暴挙に出た結果、ついには雇用を失い、その後の和解の選択肢も失われてしまったというわけか。
ちなみに、ブラックユニオンのブログを見ると、今も佐々木氏のフルネームが健在だ。
次の職場でもユニオン活動、裁判闘争を戦う覚悟は十分ということか。あるいは、ユニオンが名前を消してくれないのか。
先のツイートを見る限り、前者とは思いにくいが……。
個人情報流出事件を含め、ブラックユニオンに名前を知られることのリスクはここでも計り知れない。
会社に悪意をぶつけ、その悪意の発散をやめることを条件に「解決」を引き出す手法の限界と「悪意の代償」
筆者の感想となるが、こうしたケースの場合、会社も相当な覚悟をもって解雇をしてきているので、どうせバレる自分の非を棚に上げて街宣車での嫌がらせを繰り返すより、退職を前提に一定の条件を早期に引き出す交渉をしたほうが生産的だ。
あるいは、粟野興産事件の「街宣をすれば、折れるでしょう」(プレカリアートユニオン・委員長談)同様に、悪意に満ちたユニオン活動、街宣車と嫌がらせのフルコースを喰らわせれば、クロもシロになると踏んだのであろうか。
会社を、ひいては迷惑をかけた同僚や取引先を少し”ナメ過ぎた”佐々木氏だが、「ドライバーに戻れないと死んでしまう」そう吐露していた彼は、全ての裁判で完全敗訴した今、工場から空を見上げ、何を思うだろう。
社会人としての、誠意あるまともな謝罪を軸とした団体交渉ではなく、「団体交渉」に名を借りたユニオンの(広義の)暴力と嫌がらせ——すなわち、誠意の道、人の道ではなく、悪意の道、ケモノの道を押し進んだ3年間。
しかし裁判所は、佐々木氏の行動と選択に対し、社会の代理者として裁判官が審判を下す場所でもある。
その「答え合わせ」の判決で、ユニオンとともに一敗地にまみれ、すべてを失った佐々木氏が支払うことになった「悪意の代償」は余りにも大きい。
労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。
本件では、自らに非があるにもかかわらず、高圧的な「団体交渉」に走り、大声を上げて自己の正当性だけを叫び続けたことが不利な結果につながった。
法曹として一定以上の教育を受けた弁護士であれば、より”まともな”交渉をしてくれることが期待できるだろう。