連載「ユニオンリスク」Vol.6 「〇〇さんを録音して下さい」”助け合いの組織”で言い渡された「盗聴命令」
プレカリアートユニオン元交渉員で、判例タイムスに掲載されたプレカリアートユニオン事件原告団長の私・宮城史門が、「ブラックユニオンに入ると、ここがマズい!」とユニオン活動の問題点を発信していく本連載。
第6弾となる本稿では、某ブラックユニオンで横行していた、委員長の指示による、(仲間であるはずの)組合員同士の盗聴、密告の実態をお話ししたい。
「〇〇さんとの会話を録音して下さい」
平成31年1月。
厳しい冬のさなか、ブラックユニオンの執行委員会は、脱退後に、ブラックユニオンでの団体交渉が上手く行かないから起こした裁判で4,500万円以上もの未払賃金を勝ち取った獲得した元組合員から、単に弁護士を紹介しただけなのに、1,000万円前後の「拠出金」を徴収する段取りに色めき立っていた。
委員長の命を受けた男性書記長が「まだ(ブラック)ユニオンの組合員である」という言質を取るべく、脱退届をもみ消し、あれこれと策を弄するも、元組合員は「脱退したはずだ」の一点張り。
結局、この件は、もみ消された脱退届を私が偶然保管していたことで事なきを得るのだが、この話が私の耳に入るまでの間に、恐るべき「盗聴」作戦がユニオンにより試みられていたのだ。
その「作戦」とはこうだ。
まず、元組合員と仲が良い別の組合員を利用して、喫茶店などの場所に元組合員を呼び出す。
そして、「一緒に会社に抗議しに行こう」といった甘言で油断させ、あたかも今現在も組合員で、一緒に組合活動に参加するつもりであるかのような発言を誘引し、とにかく言質を取る。
そして、そのやり取りをレコーダーで盗聴し、判決当時は勿論、今も組合員であるという証拠としてでっち上げ、1,000万円前後の「拠出金」を裁判に訴えて「回収」するというシナリオである。
その為には、既に警戒されている書記長や執行委員長では難しい。誰か、「釣り餌」となる人間が必要だ——
そして、平成31年2月のある日、その「釣り餌」と目されたある男性組合員は、委員長より恐るべき「指令」を言い渡された。
「〇〇さん(元組合員)との会話を、録音してきて下さい。」
男性組合員は、仲間である組合員のなかでも特に親しくしている元組合員に対する「盗聴命令」に困惑。
もちろん、元組合員が、平成30年6月6日にブラックユニオンに脱退届を出した経緯も聞いている。
しかし、男性組合員は、当時、時給1000円でブラックユニオンのアルバイトをしており、それを糊口の途としていたこともあり、委員長の命令には逆らいにくい。
ところが、信義を重んじる男性組合員は、勇気をふるって委員長の命令を断り、そのような「盗聴」はできないと旗幟を明らかにしたのである。
別の記事で詳述するが、この勇気ある男性組合員は、その後ユニオンで冷遇されるようになり、最終的には、「組合活動が労働だというようなことを言うのであれば来なくて結構」と、S執行委員(男性)により解雇を言い渡されたことから、ブラックユニオンに団体交渉を申入れ、それに続く総会決議不存在確認事件でも原告として名乗りを上げることになる。
団交を申し入れると……次なる「録り手」と密告
翻って、私自身の体験をお話したい。
同じく平成31年3月9日、私は、ブラックユニオンに団体交渉を申し入れた。
この申入れのあと、職場の雰囲気は一変し、委員長らユニオン経営陣が一様に私を冷遇していることは火を見るより明らかであったが、その委員長により、私への「盗聴」を命じられていた女性職員がいた。
そのことは、3月18日、私がコピー機を使用して作業中、背後に気配を感じたことから振り返ると、ちょうど女性職員がスマートフォンの録画機能をオンにして私の方に向け、しかも録音機を作動させていた現場を捉えたことで、はじめて明るみに出た。
私が女性職員を問い詰めたところ、女性職員は「盗聴」の事実と、それが委員長の”業務命令”であったことを認めた。
その会話を文字起こししたものが、以下のやり取りである。
労働者が労働組合を立ち上げたことを契機として、使用者の命令で職場での録音を始めること自体が不当労働行為であるが、そのような不当労働行為に、なんとユニオン自らが手を染めたのだ。
「LGBT労働相談」も受け付けるというブラックユニオンだが、この女性職員が録音中に相談に来てしまうと、相談の内容も録音されることになりかねない。
倫理観もプライバシーもLGBTもかなぐり捨てたブラックユニオンによる「組合潰し」の”盗聴行為”については、年末ごろ、5年越しに東京都労働委員会の判断が下される予定である。
おわりに
労働組合は、「労働者同士の助け合いの組織」であるという。
しかし、組合員からは弁護士よりも高額な20%もの「成果報酬」を徴収し、集まったカネを執行委員会の内部で山分けするという不透明なカネの流れもさることながら、前掲の事例からすると、カネ以前の問題として、「証拠保全」のためなら仲間を裏切ることも躊躇わない、北朝鮮あるいはKGBさながらのスパイ活動が内部で行われているのである。
このようなユニオンの姿は、果たして、憲法あるいは労働組合法が描き出した「団結」の姿なのだろうか。ブラックユニオンでいうところの「仲間」とは、一体いかなる意味での「仲間」なのだろうか。
少なくとも私に言わせれば、こんな「仲間」など百害あって一利なしだ。”仲間”など要らないから信頼できる弁護士に依頼させてほしい。
そして、万が一にでも、誤って(あるいは故意に)、「LGBT労働相談」を始めとする秘密性、私事性の高い労働相談を録音してしまった場合は、ブラックユニオンは、どのように責任を取るのだろうか。
性自認や性的志向の話をしたところ、そのテープを弱みとして握られてしまった日には、それこそもう、一生ブラックユニオンには逆らえないことになるだろう。
私は、個人的には、ブラックユニオン委員長らのLGBT問題への熱意は買っているが、あまりにもプライバシー意識が低すぎる現状では、相談は容易にお勧めできない。
労働問題は、信頼の置ける町弁の先生へ。
弁護士は、弁護士法に基づいて固い守秘義務を負っており、違反すれば違法になるだけではなく、弁護士会による懲戒処分などの実効性のある制度的担保がある。
監督官庁もなく、むしろ、労働基本権の観点から基本的に行政は介入できないという労働組合の運営とは好対照だ。
労働問題は、まずは弁護士に相談しよう。