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連載「司法書士の契約書作成権限を考える」Vol.7 司法書士損害賠償責任保険において契約書等の権利義務関係書類の作成が担保されないこと

一度、ひとつの記事として公開した内容と基本的に同趣旨です。長すぎるので連載として分割することにしました。既に以前の記事をお読みの方は、本記事はスルーされてください。


ここまで、同グループの主張に対して一点ずつ取り上げて批判的に検討を加えてきたが、一点、筆者固有の論拠に基づく反論を記しておきたい。

それは、司法書士等の士業者が一般的に加入する損害賠償責任保険において、グループが主張する契約書等の権利義務関係書類の作成が、損害賠償責任保険の範囲内の行為として補償されないことである。

司法書士損害賠償責任保険の範囲

上記の通り、少なくとも損保ジャパンの司法書士損害賠償責任保険においては、補償対象とされる書類作成は「法務局、地方法務局……裁判所、検察庁」と限定列挙されており、「土地家屋調査士・行政書士等の資格を合わせて有する場合にそれらの資格において行なう業務は対象外となります。」として、司法書士と行政書士等の業務範囲が同じものではないこと、行政書士等の他資格がないのに他資格の業務を行う場合は勿論、他資格があっても、その他資格の業務を行う場合は、司法書士損害賠償責任保険の補償の対象外であることが明記されている。

行政書士損害賠償責任保険の範囲

他方で、同じく損保ジャパンが提供する行政書士損害賠償責任保険においては、「権利義務または事実証明に関する書類」の作成及びその相談に応じることが補償対象であることが示されている。

まとめ

もっとも、「全ての契約書は最終的に裁判所提出書類である」との立場からすれば、「権利義務または事実証明に関する書類」は全て「裁判所提出書類」に含まれるから、損害賠償責任保険においても補償されると主張することも理屈上は可能かもしれない。

しかし、そのように解した場合は、「裁判所提出書類」に関する裁判例の射程が及ぶ結果、司法書士は、ほとんどの場面において「法的整序」であって、なおかつ「専門的判断」に至らない範囲内でしか契約書作成ができないことになる。
そして、そのような厳格な制限の中で完成にこぎ着けた契約書についても、「全ての契約書は最終的に裁判所提出書類である」という主張はあくまでもグループ独自の法的見解であり、判例や監督官庁(前記福岡法務局長平成23年2月28日参照)の立場でも保険会社の立場でもない。
このため、万が一、契約書作成に瑕疵があり、司法書士がその資力を超える損害賠償を負う場合は、グループの法的見解に立つ司法書士としては、直ちに損害賠償金を支払うことができず、依頼者に迷惑をかけ、依頼者を(司法書士法の解釈という依頼者とは無関係の事件に)巻き込みながら損害保険会社に保険金の支払いを求めて交渉しあるいは訴訟を提起し、最終的には裁判所の判断を待つしかないということになる。

いうまでもなく、その「訴訟」においては、損害保険会社は請求棄却を求め、その有力な根拠として福岡法務局長平成23年2月28日の懲戒処分例を提出するであろうことは想像に難くない。

他方で、行政書士が「権利義務または事実証明に関する書類」を作成した場合については、保険金の支払対象となることが一見明白である。
我田引水の業際論争ではなく、依頼者の利益保護の観点に立つならば、どちらが契約書等を作成することが適切かはあまりにも明らかではないだろうか。

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