
Loki Technology, Inc.に対する間接強制、差押えについての論考
課題
「5ちゃんねる」は、Loki Technology, Inc.というフィリピンの会社(以下「Loki社」という。)が運営していることになっているが、同社は、日本における代表者を登記していない。
Loki社は、「Loki Technology Inc.を名宛人とする裁判所の決定については、原則として従う。」としているが、なぜか、実際には弁護士以外の者が本人訴訟で得た決定・命令・判決には従わず、電子メールを送り決定等の履行を求めると、「弁護士を介してほしい」と返信してくるとされる。
このため、弁護士に依頼するのも選択肢だが、単に決定後の謄本の受送達の窓口になるという依頼であっても、弁護士としての責任を伴う以上、どんなに安くとも1件当たり11万円〜は見なければならないと思われる。
そうだとすれば、「5ちゃんねる」を利用して誹謗中傷をする者は、単に違法な書き込みをするだけで、毎回、どんなに安くともフィリピンの登記簿(GIS)の市価3万3千円と弁護士費用の合計約15万円〜を被害者に負担させられることになる。
また、掲示板の管理者は、違法な書き込みについて削除義務を負うことは「2ちゃんねる」時代の裁判例で定着した判断になっているが、これを怠る一方で、「5ちゃんねる」の有料閲覧サービスUPLIFTや広告収入といった利益を得ることが可能ということになる。
ところで、裁判所の決定等に従わない者に対しては、間接強制命令や差押えといった手段で対抗することが考えられる。これについては、「5ちゃんねる」ないしLoki Technology, Inc.についても妥当する。
そこで、本稿では、弁護士に依頼しない前提で、弁護士に依頼しなければ受け付けないという理由で裁判所の決定等に従わないLoki Technology, Inc.に対し、どのような対抗手段が取り得るか検討する。
UPLIFTの販売収益に対する差押え
「5ちゃんねる」には、「UPLIFTで広告なしで体験しましょう!快適な閲覧ライフをお約束します!」との記載があり、UPLIFTという名称のサービスを販売し、購入すれば「快適に閲覧」できるとして、収益化していることが伺える。
販売ページのURLも「https://uplift.5ch.net/」であり、同じ5ch.net傘下である。
ただ、「サービスプロバイダー」として
Steven Morales
Synic Inc. Representative
227 E Caesar Suite A
Kingsville, Texas. USA
+1 361 332 1317
sales@synic.org
との社名を明記しており、この会社が「UPLIFT」の運営者だとして、責任追及を回避する意図であると思われる。
もちろん、「Synic Inc.」についても、日本における代表者は登記されていない。
ただ、「5ch.netの運営支援 5ch.netを安定して利用できるように運営を支援できます。」とあることから、Synic Inc.⇒Loki Technologyへの何らかの資金の還流はあるものと思われる。
ここで、Synic社を第三債務者、Loki社を債務者とする差押えの可否が問題となるが、最高裁は、
民事訴訟法に規定する裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは,我が国において裁判を行うことが,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念に反するような特段の事情が存在しない限り,当該訴訟事件につき,日本の国際裁判管轄を肯定するのが相当であるが、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、我が国の国際裁判管轄を否定すべきであると解するのが相当である。
との判断基準を示している。
日本の消費者向けに事業をしており、日本における代表者を登記する義務があるのに、これを怠っている事業者同士が債務者・第三債務者になる場合には、債権が日本に存在する(持参債務としての損害賠償義務が日本国民を債権者として存在する)場合は、「民事訴訟法に規定する裁判籍のいずれかが日本国内にある」といえるのではないだろうか。
つまり、Synic社が日本国内に財産を有していれば、Synic社を第三債務者とする差押えができるのではないだろうか。
決済サービスはStripeを利用しているみたい。同社も米国企業であるのと、UPLIFTの代金もドル建てと徹底しているので、差押えは容易ではなさそう。
広告収入に対する差押え

「Ads by Google」との表示から、この5ch上の広告の配信元はGoogleであることが伺える。
そうすると、Google⇒Loki社へと広告収入が還元されるのが通常であるから、Googleを第三債務者として差押えができることになる。
調べたところ、新潟の弁護士が公表している事例が存在するものの、国際送達を要し、実際の取り立てはできなかったようである。
この事例で問題とされている「スパチャ」と異なり、広告収入は日々確実に発生するものと思われるが、国際送達が必要ということはくれぐれも念頭に置かなければならない。
令和4年7月に、Googleが日本における代表者登記を完了し国内で送達可能になったという情報もある。新潟の弁護士の事例は10月だというが、行き違いになった可能性もありそうだ。

「AdChoices」が広告元と表示されるケースも存在する。この場合、広告の配信元はAmazonであると思われる。
「AdChoices」自体は欧州における広告の共通規格にすぎないようだが、ChromeのDevToolsで「AdChoices」となっている広告の画像の配信元を検証すると、
https://m.media-amazon.com/images/S/al-jp-eb5039ce-f881/68dee56e-a1db-40cd-a983-4eb91f9bf0b0.jpg
…のように、Amazonのサーバーが特定される。
AWSのようにあくまでも利用者がデータを蔵置しているURLであれば広告主はAmazonとはいえないが、「media-amazon.com」についてはAWSのサーバー領域とは思われないので、Amazonが広告主ということになるのではないか。
Amazonはワシントン州シアトルの会社である。あくまでも米国法人が広告を提供しているということになれば、アマゾンジャパンへの送達ではなく、Amazonへの国際送達が必要であると思われる。