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連載「司法書士の契約書作成権限を考える」Vol.1 行政書士法と司法書士法の規定と福島地判郡山支部平成8年4月25日

一度、ひとつの記事として公開した内容と基本的に同趣旨です。長すぎるので連載として分割することにしました。既に以前の記事をお読みの方は、本記事はスルーされてください。

前提

昨今、「司法書士は契約書作成業務ができる」と殊更に主張する一部の司法書士のグループが存在する。しかし、法文上、司法書士の業務は、

第3条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第4号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成16年法律第123号)第6章第2節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第8号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五 前各号の事務について相談に応ずること。
六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
(イ〜ホ 略)
七 民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。
八 筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第123条第3号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の2分の1に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること。

と規定されている一方で(但し、六〜八については認定司法書士に限る)、行政書士法は、

第1条の2 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
第1条の3 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第3号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

と規定しており(但し第1条の3に掲げる業務は特定行政書士に限る)、一般的には権利義務に関する書類であると解される契約書については、それが依頼を受けた時点において法務局や裁判所又は検察庁に提出されるものであることが当時者の認識により明らかであるときは(例えば不動産所有権移転登記における登記原因証明情報としての契約書)、司法書士の独占業務になると解されるものの、それ以外の場合においては、契約書の作成は、行政書士の独占業務になるものと解される。

判例も同様に立場に立っており、最判平成12年2月8日の最高裁調査官解説でも、

登記原因証書となり得る書類は、一般的には、権利義務に関する書類として、行政書士が作成することができる書類に該当するが、初めから登記原因証書として作成される場合は、登記申請の添付書類として法務局又は地方法務局に提出する書類に該当するから、司法書士が作成すべきものと解される。

法曹会・最高裁判所判例解説 刑事篇(平成12年度) 1頁

との指摘がなされている。

つまり、契約書をはじめとする権利義務に関する書類は、原則としては行政書士が作成するべきものなのであるが、例外として、「初めから登記原因証書として作成される場合」は、法務局又は地方法務局に提出する書類に該当するから、司法書士が作成すべきものとされるのである。

このことは、前記最判の原審でもある福島地裁郡山支部平成8年4月25日判決が、行政書士法及び司法書士法の沿革を丹念に研究した上で、

以上の沿革、就中、裁判所が取り扱うものとされていた当初の登記事務について、提出すべき書類の代書及び申請の代理は、代書人の業務とされていたこと、司法代書人法及び代書人規則の制定により、登記申請書の作成は裁判所に提出すべき書類の作製として司法代書人の業務とされ、非司法代書人が登記申請書を業として作成することは代書人規則による取締りの対象となったこと、かかる司法代書人法及び代書人規則の制定により、司法代書人とそれ以外の代書人の職務範囲は、代書する文書の提出先が、裁判所であるかその他の官公署であるかにより区別されるに至ったこと、司法書士法は、従前の司法代書人法及び代書人規則と同様に、登記申請書の作成を司法書士の業務とし、また、非司法書士による登記申請書作成業務を取締りの対象としてきたこと、昭和26年の司法書士法改正により司法書士法19条1項但書が削除されたこと、他方、登記申請手続の代行ないし代理は、従前これを司法書士又は行政書士の業務として定めた法律は存在しなかったが、昭和42年の司法書士法改正により、司法書士の業務として明文化されると同時に非司法書士による登記申請手続の代行ないし代理業務が取締りの対象となったこと、行政書士の作成した書類の提出手続代行ないし代理は、昭和55年の行政書士法改正により行政書士の業務とされたが、対象となる書類は行政書士法1条の規定により行政書士が作成することができる書類に限定されているところ、前記のとおり登記申請書作成業務は、司法代書人法及び代書人規則の制定以来、従前の代書人の職務領域から分れて司法代書人の業務とされ、代書人が右業務を行うことは取締りの対象とされており、これは昭和25年の司法書士法全部改正以降も変りはなく、さらに現在、行政書士に登記申請書作成及び申請代行業務を認める明文が存在しないこと等に照らすと、法は、代書人として起源の同じ司法書士と行政書士が原則としてその職域や守備範囲を分業化した上で、専門的知識の必要な登記等に関する業務に関しては、原則として司法書士の排他的専門領域としていったものとみることができる。

と判示していることからも明らかであろう。

検討

しかし、冒頭に述べたとおり、「司法書士は契約書作成業務ができる」と殊更に主張する一部の司法書士のグループが存在するので、こうした「見解」の問題点について考察していきたい。

同グループは、司法書士が契約書作成を行うことができる理由として、多岐にわたる論拠を挙げるが、いずれも根拠が乏しいものと考える。
次回以降の記事で、詳細に見ていきたい。

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