Del Closeの哲学
前回は、Del Closeの人物像について投稿してみましたが
今回は彼の哲学についてです。また、これはDel Close三部作の第二弾となります。こちらの投稿が気に入ったらスキとフォローをお願いします。
気をよくして、その後にキース・ジョンストンやUCBの創立メンバーについて投稿するかもしれません(o^―^o)ニコ
それでは以下、本編です。
1. 即興演劇の背景と意義
即興演劇はアメリカの演劇界において20世紀中盤に大きく発展し、特にシカゴを中心にその文化が花開きました。その中でDel Closeは即興演劇を単なるスケッチや演習手法ではなく、「完全な演劇形式」として位置付けました。彼は即興演劇を「Theater of the Heart(心の演劇)」と称し、その中で真実を追求することを重視しました。
スピリチュアルな側面:即興を古代ギリシャのディオニュソス祭やフランケンシュタインのような創造行為になぞらえ、演者が「生きたモンスター」を生み出す行為だと考えました。
普遍性:即興はプロ・アマ問わず誰でも取り組めるものであり、演劇経験の有無に関係なく、全員が平等な基盤で参加できる点が魅力とされました。
2. 即興の「真実」への探求
Closeの哲学の核には、「真実性の探求」がありました。
キャラクターの創造:即興演技は単なる心理的分析ではなく、演者同士の相互作用やその場の空間との関係性からキャラクターが自然に生まれることを目指します。
感情の優先性:Closeは感情を伴わないシーンは致命的であり、無感情は即興の敵であると指摘しました。愛、怒り、憎しみ、欲望といった感情が演技を活性化すると説きました。
3. 「ハロルド」という形式の革新
即興劇の中でも特に注目されるのが、Closeが開発した「ハロルド(The Harold)」という形式です。
構造:ハロルドは、複数のシーンやアイデアが並行しながら、最終的に全てが一つの物語に収束する形式です。この形式は、個別の要素が全体の中で意味を持つ有機的なアプローチを求めます。
目的:ハロルドは観客だけでなく演者自身にも気づきを与える手法として設計され、即興をより深い表現芸術へと昇華させる試みでした。
4. 「恐れないこと」の本質
Closeは「恐れるな(Don’t be afraid)」というフレーズを繰り返し、生徒たちに即興でリスクを取ることの重要性を説きました。
創造的なリスクの奨励:失敗を恐れずに挑戦することで、新しいアイデアや思いがけない発見が生まれる。Closeは「完璧さよりも人間らしさ」を重視しました。
社会的な抑圧からの解放:日常生活の中で培われた社会的な制約を取り払い、自分の「真の声」を表現する手段として即興を位置付けました。
5. 集団の力を引き出すハロルド
ハロルドは、形式として以上に、即興演劇の可能性を広げるための哲学的なアプローチとして捉えられます。
カオスの中の秩序:複数の異なるアイデアやテーマが最終的に統合され、一つの有機的な物語を形成することを目指します。これは「カオスの中に潜む秩序を探る試み」です。
偶然の価値:「偶然の出来事は、正しい準備がなされているときに起こる必然」という考えが即興を哲学的な次元に引き上げます。
6. 感情の活用と「真実」の表現
感情の重要性:Closeは「感情がシーンの命だ」と考えました。シーンは強い感情を伴うことで記憶に残りやすく、観客に強いインパクトを与えることができます。
瞬間の共有:彼は演者同士がシーン内で互いの感情に深く入り込み、リアルな交流を表現することを強調しました。
7. シーンの即興的構築
テーマの選択:Closeは観客や演者が共通して関心を持つテーマを選び、それをシーン全体の軸とする手法を提案しました。
動きと空間の活用:物理的な空間を最大限に利用し、台詞だけでなく動作や位置関係で物語を展開する技術が重要とされました。
8. ハロルドを超えた哲学
社会との関係性:即興演劇を単なる娯楽ではなく、社会や文化に対する批評や考察の場として位置付ける視点が重要でした。
個人と集団の融合:Closeは、演者が個人の枠を越えて集団として一つの作品を作り上げることを即興の究極的な目標としました。
結論
Closeの哲学は、即興演劇を新しい次元へと引き上げ、観客や演者に深い洞察と感動を提供しました。「ハロルド」はその中心的な象徴として、単なる演技形式を超えた人間のつながりや存在の探求を具現化しています。
次回は「Del Closeの即興演劇哲学と技術:Theater of the Heartへの道」という、なんとも大仰な内容について投稿予定です。