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詩を書くように、音楽を作るように、白いシャツを作る。

今作ってるシャツの名前は『私は海を抱きしめていたい』。

これは私が好きな坂口安吾の小説のタイトルだ。

レタルのシャツには一枚一枚名前がある。

一番初めに作ったシャツは『はじめましてのシャツ』。

セーラーなのに大人っぽい、を目指した『ちょっと大人っぽいセーラーシャツ』。

メンズのフォーマルシャツの形をそのままレディスに落とし込んだ『オトコマエなシャツ』。

ビッグシルエットの『ガリバーのシャツ』。

アンティークブラウスのような『追憶のブラウス』。

色々な名前を付けていたけど、ちょっと即物的というか、少し素っ気ない名前を付けていた。

あまりにも詩的な名前を付けるのは、ちょっと恥ずかしかったのだ。

今年のバレンタインのあとにunaさんからお菓子を貰った(※1)。

「自分用に買ったけど、賞味期限が切れそうだから、お裾分けます。」

私もunaさんにチョコをあげた。

「バレンタイン当日に買ったんで安くなっていたやつですけど。」

なんだか愛想のないお歳暮みたいなやりとりだ。

unaさんがくれたお菓子には詩が付いていた。

「このお菓子屋は詩を書いてからそのイメージでお菓子を作るんですよ。」

「…へぇ〜!」

「気持ち悪いよね(笑)。」

お菓子のために詩を書くパティシエも凄いが、気持ち悪いとか言いながら買うunaさんもunaさんだ。

さすがだ…!としか言いようがない(笑)。

確かに詩を書いてからお菓子を作るのは、冷静に見れば気持ち悪いけど、その世界観に浸れれば素敵なことのようにも思う。

「私も詩を書いてからシャツ作ろうかな(笑)。」と言葉に出してふと、それはいいかもしれないな、恥ずかしいけど、と思った。

詩を書くほど大袈裟ではないけれど…もう少しシャツに詩的な名前を付けてみようと思った。

その方がお客様も喜ぶ気がして。

どうせ自分は本当はシリアスでロマンチストなんだから、と。

詩はもともと書いていたけど、詩的な名前を付けるのは、やはり自意識が邪魔をして、うまく考えられなさそうだったんだけど、制作を進めていくと何か見えるものが出て来た。

今作ってる『私は海を抱きしめていたい』はデザイン画を見て付けたのだけど、寄せる波を纏うかのようなイメージを持った。

名前を付けると、坂口安吾の小説の一文のように、白い生地のうねりに包まれるような気分のシャツを作りたいと思うようになるのだった。

ちなみに坂口安吾が好きになったのは、グレイプバインの田中さんの影響だ。

田中さんの歌詞は、深く心にいつも突き刺さる。

そして音と共に鮮やかにその風景を描き出すのだ。

そうか、自分がミュージシャンになったような気分で、音楽のアルバムを作るなかで一曲一曲タイトルをつけるように、シャツの名前を考えてみようと思った。

なんならアルバムを聴くように、一枚一枚見て進むような、シャツの展示を構成してみても面白いな、とか。

何か一通り見たら、静かに感動出来るような展示にしたい。

そして、そのシャツに触れると心が震えるようなものを作りたい。

私がグレイプバインの音楽を聴いて心が動くように。

(※1)unaさんが出てくるnoteはこちら→ひさびさにクラブに行った。https://note.mu/herzensnacht/n/n2ff40100b81e

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