【第9回】ぼくもうれしい
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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小学生の頃からかかわらせてもらっている、今年の4月に大学生になった男の子がいました。このコロナ禍の状況で、大学のキャンパスにはまだ一度も通うことができていません。
想像していたようなキャンパスライフとはいきません。オンラインを使って、大学からの課題に取り組んでいますが、「課題の出し方を考えてください!」と言いたくなる量があります。
体に気をつかいながら、ここまで凌いできたのですが、体調を崩してしまい入院となりました。それでも、大学の配慮は、教授との直接交渉だそうで、
「〜何人の教授と話をしなければならないのだ!負担をかけすぎでしょう〜」と私も大学の教員ながら、思ってしまうくらいです。
まだまだ、病気を抱えながら、学校に通い、学びを続けている子どもたちにとって、自分の持っている力で学び続けるのは辛い状況にあるのだと感じます。どのような状況なのかを知ってもらう必要があると考えます。
彼から、メールが入ります。
「レポートの書き方はこれでいいのだろうか?」
「どうやって資料を集めるといいのだろうか?」
「発表のスライドを作ったから、時間があったら、目を通して欲しいのだけど…」
彼と直接会う許可を、病棟からいただき、病室に行きます。現在は、ご家族との面会も制限がある中で、医療チームの一人として、病院のスタッフの一員として、直接会うことを許可していただけるのは、本当にありがたいことです。
(感染のことを考えると、難しいことだと思うのですが…病院内に設置された学級の先生方が、「外部の人の入室は許可できません」と子どもたちに会うことのできない病院もあるのです。今まで病院と一緒に子どもたちにかかわってきたと考えていた先生方はとても困っているという話を聞きます)
彼との学習を終え、ナースセンターのスタッフにお礼を伝えて、病棟を出ると、彼からお礼のメールが入ります。
子どもたちのがんばりを応援するかかわりができることは本当にうれしいことです。
「でも〜そんなに気を使わなくていいよ〜」と思う時がけっこうあります。他の子どもたちもそうです。
「病気をしている子たちは、お世話されることになれている…」というような言葉を聞くことがあります。確かに、何でも「やって。やって」という子もいます。でも、それは愛情を確かめているのかもしれません。多くの子どもたちは、特に思春期にある子どもたちは、とても気を使っているなと感じます。自分がどうしたいかよりも、相手(親や先生や医療スタッフたち)がどうしてほしいと思っているかを察して、受け身になっている姿を目にします。
AYA世代といわれる、15〜39歳の子ども(人)たちがいます。この世代の子どもたちには、その子たち特有の発達の課題があります。彼ら彼女らが、たとえ入院加療中であっても、その課題に向き合える環境を作っていく必要があるでしょう。
「あなたに会えることがうれしいから」と彼に伝えたところ、
「ぼくもうれしい」
と返事をくれました。
本心だったらいいなと思います。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2023年3月号 特集:子ども・家族と目指す;痛みの緩和
★2023年2月号 特集:おなかが痛い,気持ちわるい:子どもの腹部疾患
★2023年1月号 特集:サブスペシャリティを極める学修;小児看護の実践力を高めるために