【第17回】じかんのながれが…
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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「ホント、暇だった!」
退院する日の午前中に、ある高校生が教えてくれました。
「することないんだもん」
そんな言葉を聞くと大人たちは、
「だったら、勉強でもしたら?」
「こんなときこそ、本でも読んだら?」
と子どもに言うのではないでしょうか。
子どもたちも、少しはやってみる気持ちになって取り組むのですが、勉強も読書もあまり長続きはしません。
それは、勉強や読書に取り組むほどのエネルギーがまだ溜まっていないからなのです。
入院したてのころは、体調も悪いですから、動きにロックをかけます。ぼーっとしてしまう、すぐ疲れてしまう、など、身体が治療に向かうエネルギーを消耗しないようにするのです。
ですので、この時期は、「なにやりたい?」 と尋ねても、「別に」とか「先生決めて」と言ってくることが多いようです。身体も、すぐ休憩を欲します。
手術や治療のことを不安に感じて、ある程度の時間集中することができず、何かに手を出したらすぐにやめて次をやりたがる子もいます。
でも、このような行動は、当然です。そのような時期は、無理をせずに休むことも必要です。また、一人では難しいけれど、誰かがいると、取り組める子もいます。
「つまんない」「面白くない」
ある程度治療が進むと、「怒り」を表出してくる子どもたちが多いように見受けられます。
これは、エネルギーが溜まってきた証拠でもあります。それでも、病気になる前の状態に戻ったわけではありませんので、以前と同じことはできません。ただ気持ちは上向きですから、取り組みを始めます。でも、できない。すぐ疲れちゃう。それでも、“何かやらなければ…”という焦りを子どもたちから感じます。それが「怒り」となるようです。自分に対するふがいなさを感じる子どももいます。それが、「つまんない」という表現になるのかもしれません。学習を始めると、わからない自分やできない自分と必ず出会います。そんな自分に出会うと、余計に不安が湧き上がってきて、その課題を続けることができなくなる子もいます。「面白くない」「や〜めた」よく聞かれる言葉です。
「できなくたって、ダメじゃないよ」と伝えますが、実は、そんな姿を見たときは(おっ、エネルギーが少しずつ溜まってきたかな)とこっそり思っています。
子どもたちが〝病気だけど、治療中だけど、できることがあった〟と思えるようなかかわりを、その子のエネルギーに合わせて用意したいと思います。
「えっ!もう終わり?」
病棟に戻る時間のチャイムが鳴ったとき、集中をしていた子どもたちは、ちょっとびっくりしたように、つぶやきます。
「ここでは、時間の流れが早いんだよね」
と伝えてくれた子がいました。ベッドの上では、時間の流れがとってもゆっくりだというのです。
「時計の針が全然進んでない!という学校の授業中みたいな感じ?」と聞くと、
「それよりも、もっとゆっくり」
と教えてくれました。
病棟のベッドの上で過ごす、あの「ひま〜」な時間を「あそび」や「まなび」を使って、少しでも減らすことができたらと思います。それは、きっと子どもたちが治療に向かうエネルギーを溜めることにもつながるはずだと思うのです。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2024年4月号 特集:特集:小児看護技術の学び 後編;多様な実践の場における修得と教育の再考
★2024年3月号 特集:小児看護技術の学び 前編;子どもの権利擁護の実践に向けて
★2024年2月号 特集:子どものけいれん対応;地域から病院までのシームレスな看護をめざして
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