【第19回(最終回)】よかったね
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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退院の日が近づいてきます。
子どもたちにとって、退院は、待ちに待った念願の日です。その日を目標に、つらい治療や痛みやさびしさに向き合ってきました。本当にうれしい日です。
でも、何度も入退院を繰り返している子どもたちは、簡単に「退院」ということは口にしません。
なぜなら、せっかく仲良くなった友だちが先に退院をしてしまったり、自分の退院がまた延びてしまったり…。そんな心のぐちゃぐちゃを何度も味わっている子どもたちは、簡単に「退院」とはいわないのです。
どちらかの退院がわかった瞬間に、あんなに仲が良かったのに、ふっと疎遠になる中学生の女の子たちを何組もみてきました。
教室のドアを開けた瞬間に、
「先生!退院決まりました!」
という子は、たいてい1回目の入院の子です。
当時病棟には大部屋がありました。その男の子は5人部屋にいたのです。ドアから入ってすぐ右側のベッドでした。一人ひとり退院が決まっていきます。ベッドが一台一台きれいになっていきます。
窓側のベッドにいる4歳の子の退院が決まったそうです。教室で学習をしているときに、彼がぼそっとつぶやきました。
「さびしくなるねえ〜」
彼の気持ちをたくさん聞きました。
すると、彼の表情がふっと変わり、
「退院はいいことだよね。だからよかったよね」
と言いました。
前述の詩は、彼が戻る学校の担任の先生が道徳の授業で使ってくれたそうです。彼もスムーズに学校に復帰していきました。
私は、退院が近づいた子どもがいたときは教室で、
「そろそろ退院決まったかな?」
とみんなに聞こえるように尋ねます。
黙って誰かがいなくなったりすると、子どもたちはとっても傷つくからです。別れることはつらいことですが、お別れができないことでの傷つきはその後の人生に大きなダメージを残します。“あいまいな喪失”と呼ばれるものです。
そのような状態に子どもたちがならないようにかかわり方を考えます。
だからといって、退院は必ず告げなければならないということではありません。子どもたち一人ひとりをよくみてかかわる必要があることは読者の皆様もご存知のことでしょう。
子どもの退院があると、担任である私のなかにも、寂しい気持ちがわいてきます。
だから、子どもたちに伝えます。
「退院は、うれしいけどさびしいよ。そして、さびしいけどうれしいからね」
子どもたちも実は同じような思いを抱いているようで、この言葉を伝えるとほっとした表情をしてくれます。
「またどこかでお会いしましょう」
「しんどいときはいつでもおいで」
“あなたはひとりじゃないよ”というメッセージを伝えて見送ります。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
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