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【第10回】エレベーターのところまで!
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
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小学校低学年の男の子が、病棟で仲良くなった中学年の男の子と一緒に教室に来てくれました。
この学級の素敵なところを、お友達に話したくて仕方がないという様子で、紹介していました。
ただ、そのお友達はその日が退院でした。急遽退院となり、この学級には一度も通うことができませんでしたが、学級を見てみたいということになり、退院の手続き後に母親と学級に来てくれたのです。
ひとしきり遊んだ後、お別れの時間が来ました。教室の入り口で、ちょっと寂しげな表情でお別れをしていました。
私は「ここでいいの?」と彼らに言いました。その低学年の男の子は、驚いた表情で「え?」と私の顔を見ました。
(だって、授業中でしょう?)
と思ったのかもしれません。
「お見送りしておいでよ」
「いいの?」
「もちろん!」
「やった!」
「エレベーターのところまで行ってきます!」
二人はうれしそうな顔をして、おしゃべりしながら、歩いていきました。たった数メートルです。数分間です。それでも子どもたちにとって、とても大切な時間です。戻ってきたその子は、とても満足そうな表情でした。
子どもたちは、心のどこかで、自分の退院と重ねるのでしょうか。自分も退院ができる、と希望がもてるようになるのでしょうか。
ほんの数日一緒に過ごしただけの、もう二度と会うことがないかもしれない友達の退院を、わがことのように本当に喜ぶ姿をたくさんみてきました。
一方で、あんなに仲良く過ごしていたのに、どちらかの退院が決まった途端に、ふっと距離を置いて疎遠になる中学生の女の子たちを何組もみてきました。
そんな子どもたちからは、退院をとても寂しく感じていることが伝わります。
そのような経験を何度も繰り返している子どもたちは、退院という言葉を簡単には使いません。せっかく仲良くなった友達が先に退院していったり、自分の退院がまた延びてしまったり…
退院という言葉を口にしなくなっていくのです。
教室のドアを開けた瞬間に
「退院が決まりました!」
と大きな声で伝えてくれる子は、だいたい一度目の入院の子どもたちです。
それでも私は、気がつかないふりをしながら、
「そろそろ退院が決まったかな?」
と、みんなの前で言うことが多いです。いつの間にか友達がいなくなると、心が傷つく子どもたちが多いからです。
「子どもたちに、つらい思いをさせたくないから」と言いつつ大人のほうが、子どものつらさを受け取ることがしんどい場合もみられます。そのために、きちんとお別れをさせてもらえないケースがあるのです。「あいまいな喪失」と呼ばれているものです。
子どもたちが、亡くなったときも同様であると考えています。保護者の許可をもらい、その子の発達に応じた言葉を使い、聞きたいか聞きたくないかもその子が選び…安心できる場所で、信頼できる人から、感情も受け取ってもらいながら事実を伝える…そんなかかわりが増えるとよいなと思います。
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※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2023年7月号 特集:子どもの居場所2023;広がる小児看護の未来
★2023年6月号 特集:小児プライマリケア領域で求められる看護の専門性
★2023年5月号 特集:子どもの“いい顔”を探す旅にでよう
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