『TS転生した私が所属するVtuber事務所のライバーを全員堕としにいく話』を読んで
■はじめに
この記事は「HJ文庫公式レビュアープログラム」に基づいて執筆されています。
では、さっそく8月1日発売の新作を見ていきましょう!
今回、読んだのは『TS転生した私が所属するVtuber事務所のライバーを全員堕としにいく話』です。
■作品紹介
まずあらすじを確認してみましょう。
文庫本巻末のあらすじでは、以下の通りです。
近年ぽつぽつと見られるようになってきたVtuberものですね。そこに百合要素が入ってくるのはめずらしいかもしれません。
正直なところ、筆者はこのジャンルにまったく関心がなく、事前知識は皆無でした。まず「てぇてぇってナニ……?」というところから始めました。
ちなみに「てぇてぇ」とは、以下のような意味だそうです。
■本作の魅力
かつて職業ものというジャンルがありました。特定の職業を取り上げ、その職業の実態をよく知らない読者に対して、業界の常識をチュートリアル的に懇切丁寧に説明しつつ物語を進めるというジャンルです。
当然ですが、ラノベ作家はラノベ作家という職業に詳しいので、ラノベ作家ラノベなどは多くありましたね。
筆者は当初、この作品もある種の職業もののようなもので、Vtuberになじみのない読者をターゲットにした作品かと思っていました。
しかし、この想像は木っ端みじんに砕かれることになります。
というのも、この作品では、Vtuberがいかなる存在であるかについて、どのような文化であるかについて、詳細な説明はほとんどなされません。
居て当然、知っていて当然、とでも言わんばかりに、特に説明もなくTS転生し、特に説明もなくVtuber活動を行います。
作中の配信において視聴者から寄せられるコメントには、あたかも実際にありそうな生々しさがあります。
もちろん、前述したように、筆者はこの文化にまったく詳しくありません。したがって、これらの描写もリアルなものなのかは判断しかねます。しかし、これらの描写に感じたのは、Youtubeでランダム再生されたVtuber配信動画に迷い込んだ時の場違い感、理解不能な内輪のノリ感そのものでした。その意味での再現性は高いと感じました。
この作品がおもしろいのかおもしろくないのか、筆者には全然わかりません。理解が追いつきませんでした。
色々なラノベを読んできましたが、こういう感想を持ったのは初めてです。
逆説的ではありますが、こうも言えます。
本作の魅力は、あらゆる描写がハイコンテクストなところでしょう。
(ハイコンテクストとは、文化や価値観、文脈の共有度が高く、お互いの共通認識や知識、文化的背景などを前提として会話が進むコミュニケーション方法です)
知っていて当然、と言わんばかりに、前提やチュートリアルをスキップし、美味しいところだけ物語る……。
こうした手法は現代的なエンタメであればめずらしくありませんが、旧時代的な保守性が残る活字コンテンツでこうも自然と成し遂げ、そしてコンテスト受賞にコミカライズとパブリッシャーにもユーザーにも評価され受け入れられている点から、技術的特異点となっているのではないかとすら思えます。
高度に専門的で、明らかに人を選びますが、だからこそ選ばれた人にとっては魅力的な小説なのでしょう。
筆者はハルヒシリーズかラノベを読み始めた古い人間ですので、これほど尖った小説がありえるのか、と衝撃を受けました。
新時代のライトノベルがここにあります。
■リンク
HJ文庫 公式ページ
https://firecross.jp/hjbunko/product/1892
Amazon 製品ページ
www.amazon.co.jp/dp/4798635960