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3月27日

一人旅だと全部自分のペースでできていいけど、逆に言えば動こうという気にならないと動けない。せっかく起きられたのにグダグダしてたらチェックアウトする頃には9時近くなっていた。
延泊するよう勧められたけど泣く泣く断り、Back Packers Cochin Villa を後にした。普通に値段のわりに綺麗で快適だったし、おじさんに会うためだけにまた来てもいいと思った。
そこから今日泊まる宿に荷物を置きに行った。
道中はかなり混んでいて、着いた頃には昼になっていた。通勤ラッシュらしい。窓からトヨタの大きな支社が見えた。

もりもりしてていいね

次に泊まる Santa Maria Hostel はかなり小さなドミトリーだったから、地図の示す場所に来ても全然見つからなくて困った。
やっとたどり着いてチェックインをしようと思ったら、おばさんに言われるまま30分放置された。
部屋には私の他に欧米系の女性が5人もいた。みなにこやかに話しかけてくるけど、英語なのでつい身構えてしまう。
チェックインを済ませたら、そこにあるの食べていいよ、とテーブルの上を指さされた。鍋を開けたら、米粉でできた薄っぺらいパンとカレーが入っていた。私の知ってるイドゥリの形ではないし、具が入っていないからウッタパムとも違う。よくわからないけど美味しかった。

ケーララは共産党政権らしい

一先ず荷物を置いて海に向かった。それにしても恐ろしい暑さだ。デリーとは違う、南国特有のじっとりと貼り付くような暑さ。
歩いて数分で青い海が見えた。思わず駆け寄ると、ずいぶん懐かしい磯の匂いと穏やかな波音が私を迎えた。
もちろん昔見た石垣島の海と比べればがっかりするくらいの青さではあったが、それでも久しぶりの海に興奮した。意識していなかったけど、島国生まれの血が騒いだのかもしれなかった。
海岸沿いには写真で見たチャイニーズ・フィッシングネットがいくつか並び、その手前で獲れたばかりの魚が売られている。
しばらくは気が済むまでビーチで押し寄せては引いていく波を眺めていた。

買ってもどうにもできないから買わなかった
魚捕るところは見られなかった
あおい

しかしそんなに優雅に過ごしているわけにもいかなかった。
ヴィラット・コーリーに似てるリクシャーのおじさんにお願いして、主要な観光地をめぐるツアーに連れて行ってもらうことにしたけど、その前に休学届を出すためコピーショップと郵便局に連れて行ってもらった。
今回送るのが書類だけだったのもあるだろうけど、郵便局での手続きは思いの外スムーズに終わったし、受付のおじさんも親切だった。ただ、速達便にしたら6枚の紙切れを送るのに800ルピーもかかった上、届くのには1週間以上かかる見込みと言われた。
〆切にはどう考えても間に合わない。しかし出さないわけにもいかない。ダメ元で送ることにした。

無事休学届を出せたので、ようやくツアー開始。
最初に行ったのはSt. Francis Church。インドで最初に建てられたキリスト教の教会。私がキリスト教に全く関わりがないせいで、映画で見たことあるようなやつだなぁとぼんやりした感想しか持てなかった。ふと床を見たらヴァスコ・ダ・ガマの墓があって驚いたけど。
次に行ったのは Dhoby Khana。ムンバイにある Dhobi Ghat よろしく手洗いの洗濯の作業場で、元々はイギリス軍の隊員の服を洗濯していたらしい。来る道でも基地を囲う高くて長い壁を見かけた。やはりなんとなく沖縄に似ている。
洗濯する時間はもう終わったようだけど、代わりにアイロンしているところを見せてもらった。よぼよぼのおばあちゃんが鉄製の8キロ以上の重さがあるアイロンでシャツの皺を伸ばしていた。実際に私も持たせてもらったけどかなり大変で、この重労働を90代のおばあちゃんがしているのがなんだか悲しかった。ここで働いている人はみんな50歳以上の高齢者だという。

しろい
風に揺れる洗濯物たち
笑顔が素敵なおばあちゃん

コチで一番大きいというヒンドゥー教の寺院にも行った。今はオフシーズンだとツアーの前にも言われていたが、どうやら数日前に来ていれば一年で一番大きなケーララ州独自のお祭りを見ることができたらしい。そのお祭りの時だけ寺の横にあるため池に舟を浮かべ、象が道路でパレードするとも言っていた。見られなくて残念。
その後行ったのは Mattancherry Palace。ポルトガルの影響を受けたという建物の造りはどこか日本や中国のそれとも似ていて落ち着く。ただし中は英語の説明だらけで全く読む気にならなかった。荘厳なラーマーヤナの絵物語の壁画や、歴代の支配者の肖像画もあった。画家の技術には圧倒されるけど、もっとイケメンに描いてもらえばいいのにと思った。

誰かわかんない人が笑ってる
黒いカモみたいな鳥がいた
見た目より中身は見応えある

地元の方が利用しているスパイス・マーケットにも行った。店の前の路地に入った瞬間に強烈な匂いに圧倒される。クミン、カルダモン、タマリンドなど、名前は聞いたことあるけど実物と香りが結びついていないものばかりだった。一つひとつ教えてもらったけど、全部忘れた。
Ginger House にも行ったけど、シーズンが終わったとか来た時間が遅かったとかで生姜が天日干しされているところは見られなかった。やはりコチに来るタイミングを間違えたらしい。
途中香水屋さんにも入った。工場見学だけ、と言って奥に進むと、世界一長いお香と、世界一大きい香水のボトルが展示されてあった。それらには取り立てて感動は覚えなかったけど、むしろ香水の原料となる花や作るのに使う道具などを見れたのが面白かった。

これは…なんだっけ。
タイミング合うとここに生姜並べてあるらしい
長いけど、だから何?
でかいけど、だから何?

ユダヤ教会堂である Paradesi Synagogue の辺りは、古いオランダ式の建物の中にアンティークの家具や刺繍の手仕事などを売る雰囲気の良い店が多くて、通りを見ているだけでワクワクした。会堂自体もキリスト教の教会とは違う、カラフルで華やかな造りになっていた。インドを観光しているとは思えないほど、ヨーロッパを感じるエリアだった。
夕方のカターカリ・ダンスのチケットを予約して、次は Santa Cruz Basilika という大聖堂に行った。天井を見るとキリストの逸話が描かれた絵や、かの有名な『最後の晩餐』のコピーも飾られていた。だけど、何か賑やかすぎる感じがする。ヨーロッパや日本の教会を知らないからなんとも言えないけれど、ゴチャゴチャしているなぁという印象だった。

ユダヤ教って六芒星のマークなの初めて知った
こういうのは並べてあるから可愛いよね
途中で見た塩もりもりの寺
またしろい

ようやく観光地巡りが終わった頃には15時をとうに過ぎていたが、昼ごはんを食べた。
Fusion Bay という『地球の歩き方』にも載っている店で、魚や牛肉、ユダヤ料理など、他では食べられないメニューがたくさんあった。同じインドでもこうも違うか、と驚いた。しかしお腹が空き過ぎてじっくり選ぶ気にもならず、メインコースの1番上のボウルを頼んだ。
店員さんに「辛いけど大丈夫?」と聞かれた意味は、食べてからわかった。なんとなくここ数日でインド料理の辛さにはもう慣れたつもりだったけど、辛かった。暑いのでなおさら辛い。ヒーヒー言いながら食べていたらヨーグルト・ソースと合わせて食べるようにアドバイスされた。
美味しかったけど、海の幸や久しぶりの牛肉を堪能するというよりは見た目より多いその丼を平らげるのに必死だった。高くてもシーフード・パスタとかにしたほうがよかったかもしれない。

上のパリパリのやつ、好き

リクシャーのおじさんは最初1時間と言っていたのに3時間たっぷり付き合ってくれた。事前に「今はオフシーズンだから100ルピーしかとらないよ」と言われていたのだが、1000ルピーくらいぼったくられるのは覚悟していた。しかしおじさんはチップ含めて150ルピーであっさり帰って行った。
確かに途中何回か裏で繋がっているだろう土産物店に強制的におろされたりはしたが、私の個人的な用事にも付き合ってくれたし、内容の充実度を考えると安すぎるくらいだった。
やっぱり南インドの方が人が優しいというのは本当かもしれないと思った。

一旦ホテルに戻ってひと休みして、明日のバックウォーターのツアーを予約しに行った。参加するとなると半日以上はかかるので、バンガロールに行く前だと明日朝がラストチャンスである。
適当に歩いていたらインド政府が運営している観光局があったので、軽くアドバイスをもらうつもりで入ったら、ツアーの予約までその場で終えられた。
受付のおじさんがとてもいい人で、1人向けで昼に終わるプランを提案してくれた。価格もぼったくりではなさそうだし、何より政府がバックについているので安心できる。明日朝8:45くらいにホテルに車が迎えに来てくれるらしい。
ちょうどそのおじさんが退勤する時間で、少し待ったらバイクの後ろに乗せてカターカリ・ダンスの会場まで送ってくれた。やっぱり優しい。もちろんこちらが観光客だからというのはあるだろうけど、どの人も温かくてなんだか癒される。

ビーチでサンセットでも見ようかと思っていたが、早めに着いてしまったのでカターカリ・ダンスの演者さんがメイクしているのを見学した。
毎回1時間かけるらしく、公演本編はまだまだ先なのに多くの人が見学に来ていた。アイコニックな主役の黄緑色のメイクは、舞台の真ん中に上裸の演者さんが横たわり、他の人が丁寧に施していた。なんだかシュール。1ミリの隙間もなく塗られた顔に紙で作った装飾も追加して、出来上がった顔はおどろおどろしく、どこか神聖な雰囲気を醸していた。
ダンス本編が始まる前には、生演奏に合わせて衣装を着る前の演者さんが表情を豊かに変化させてみせた。眉毛や目尻を自在に動かし、言葉がなくてもどんな感情なのかが簡単に想像できる。メイクの効果もあってコミカルで可愛らしい。
カターカリ・ダンスは多くのカター(物語)から成るので、ダンス本編でもその豊かな感情表現がふんだんに使われていた。他のインド舞踊とはまた違う面白さがあって、なにより演者の表情の変化を見ているのが楽しかった。

真剣なのが余計に面白い
かわいい〜
嘴どうやって動かしてるんだろ

明日は寝坊できないし、夜ごはんを食べられるほどお腹は空いていなかったのでホテルに戻ってもよかった。しかし戻れば同室の欧米人と英会話しなくてはならない。逃げたい一心でカフェに向かった。
Trouvaille というカフェは座席の代わりに芸術作品がたくさん置かれていて、人も少なくてのんびり滞在できた。北は紅茶、南はコーヒーのイメージなので、本場のコーヒーを飲んでおきたかったのもある。バカ舌なので豆の違いがわかるほどではなかったけど、美味しかった。
その後は夜のビーチ沿いを、片耳は好きな音楽を聴きながら、もう片方は波の音を聴きながら、ぶらぶらと歩いた。なんて幸せな時間だっただろう。勝手に湧き上がってくる誰かと話したい気持ちや、何もしないことに焦る気持ちは一旦脇に置いて、ただゆっくり過ごした。将来は海の近くに住みたいなと思った。

ずっとこっち見てきて怖かった
夜の海すてき

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