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1月31日

今朝は一段と寒くて空がどんよりとしていた。しかし寝坊したのでリクシャーに乗るしかなかった。寒い。
数分遅れで教室に駆け込んだらやっぱり半分以上の学生はおらず、毎回これなら走る必要ないかもな、というクズ思考に傾きかける。
しかしそんな甘い考えも吹き飛ぶほど今日は先生がご立腹だった。昨日も授業を休んだ人が多かったようで、おまけに皆宿題をやってこなかったらしい。そこに「電車の遅延」で何人も遅れてくるものだから、朝4時起きでメトロ通勤だという先生がキレるのは仕方のないことだった。
WhatsApp でのやりとりや授業態度などを見ていても思ったが、東アジア学部の学生はあまりやる気がなく、おまけに先生をだいぶなめてかかっている。こういう段階に来てしまうと先生が怒るのは逆効果な場合も多い。
一人ひとりに宿題をやらなかった理由を聞いてくる先生に対して、沈黙する学生ばかりかと思いきや、ごにょごにょと言い訳する学生ばかりですごく嫌な雰囲気だった。

極めつけに、そのお葬式モードの後の授業で先生が日本語の文法問題を間違えてしまった。もちろん私はすぐに気が付いて、でも今指摘したら完全に先生のメンツがつぶれるよな、という場面だった。
しかしそういう他人のミスには目ざといもので、一斉に「先生、模範解答ではこうですけど」と口を揃え、私にも「そうだよね?」と聞いてくる。先生の方も認めざるを得ない状況になってしまい、教室がざわついた。
塾講師をやっていたことがあるからわかる。こうなってしまうとその後の授業はものすごくやりづらい。ましてやこの先生は「こんなことも知らないの?」と上から目線で煽っていくスタイルの授業だったから1回のミスが致命傷だ。

そして自分も学生側にいるから、先生の挑発的な授業スタイルに対して疑問を抱き、反抗したくなる気持ちも分かった。その先生の授業は音読の声が聞こえなかったら個人を指名して何回も読ませたり、問題の答えがあっていなかったら晒上げて馬鹿にしたり、正直私も受けていてしんどいなと思う場面が多かった。教科書通りでなくては許されない、できないやつは馬鹿にされる、という閉塞感がベースにあった。まあありがちな話だけど、そういう授業だと学習意欲がそがれてしまうというのも事実だった。
そんな授業にネイティブ話者である私が来てしまったことで、本来損なわれるはずのなかった先生の威厳を傷つけ、学級崩壊を加速させてしまったかもしれないと思うと、自責の念に駆られた。

くすくすコソコソと嫌な感じのままその先生の授業は終わり、別の先生の授業が始まった。
こちらの先生は日本への留学経験もあり指導歴も長いので、比較的安心して授業を受けられる。そしてこちらの事情も考慮してヒンディー語を使って解説してくれたり、私が日本人であることを最大限に生かして日本の社会文化について質問を投げてくれたり、さすがのお手並みだった。実際やろうと思ってもなかなかできないことだと思う。
年明けなかなか会う機会がなかったので、お正月について聞かれた。日本に一時帰国しなかったというと驚かれた。でも友人らのおかげで餅もたくさん食べられたし変に暇して精神的に病むこともなく過ごせて、例年よりむしろいいお正月だったように思う。
午後のヒンディー語の授業は先生の体調不良でなくなったし、いつもかまってくれるお隣の席の子も先に帰ってしまったので、おとなしく寮に帰ることにした。

寮に着く頃、急に雨が降ってきた。何日、いや、何か月ぶりだろう。呑気に写真を撮っていたらすれ違った寮の子に "○○, Run!" と叫ばれた。最初の数回は聞き取れなくて、ヘラヘラ笑ってキモがられた。

こんな軽い雨でも水たまりだらけになる

夕方、日本で同じ大学に通っていた子が来るので空港まで迎えに行った。
彼女はデリー大学ではなく JNU に留学しに来た。知り合いから JNU の方がもろもろの手続きが煩雑だったり寮が汚かったりすると聞いていたので心配である。そう考えると私の住んでいる寮は値段が高い分快適だし、同性で同年代の友人らがたくさんいて、だいぶイージーモードなんだなと思う。それでも愚痴が止まらないのだから恐ろしい。
早速 SIM を買うのに現地の電話番号と住所が必要とかいう謎ルールに苦戦していたが、なんとか再会できた。半年ぶりと言われると久しぶりな気がするけど、実際会ってみるとそこまで久しぶりな感じもせず、ぼんやりしていたら留学あっという間に終わるなと再確認した。

そこからはぎゅうぎゅうになって Uber のタクシーに乗り、JNU にほど近いホテルに移動した。外から見たらわからないくらい奥まったところにあって、大丈夫か?と最初は思った。インドの Google Map と Booking.com の写真は当てにならない。
しかし予約していた部屋はとても広く、飛行機の遅延もあって思いのほか遅くなったので、ご厚意に甘えて急遽そのホテルに泊まらせてもらった。フロントのおじさんには翌朝パスポートを見せたら何も文句言われなかった。いいんだ。追加料金とか取られるかと思った。

証明写真をその場で撮られてた

流石に疲れているところに押しかけて申し訳ないから帰ろうという気持ちもあったのだが、東アジア学部に関しては「聴講」だし休んでもいいか、とどうしても思ってしまう自分もいて、帰るかどうかかなり迷った。
そんなときに、「先生、天気が悪いし1コマしかないので授業を延期してください」というメッセージが東アジア学部のグループに投下され、事前に打ち合わせでもしたのだろうか、賛成を表す+1が大量に後に続いた。
天気が悪いと言ってもただの雨だし、今日の授業であんなに授業態度について叱られた後なのにこれか、と面食らった。みんな随分と堂々としたものだけど、こういう主張できない日本人が逆に変なのだろうか?
この様子だと明日の授業はないかな、と思っていたら、私によくかまってくれる彼が「俺は1人でも受けるけど、お前らの堕落に俺を巻き込むな」と少年漫画の主人公みたいなことを言い始めた。それに対して「巻き込んだ覚えはない」という反撃が始まり泥沼に。このバトルが始まったころには日付が変わっていた。先生からの返信はない。
午前中の件もあって、私が行かない方がいいのかもしれないという気持ちと、もしこれで彼が孤立していたらどうしよう、という気持ちで揺れたが、深夜1時になっても決着はつかず、朝起きてから授業に行くかどうか決めることにした。
先生が授業を忘れたときに職員室に呼びに行く学級委員的な、そういう立場に若干覚えのある身としては、1限目の先生と授業に行くと宣言した彼のことが気がかりであまりよく眠れなかった。
真面目な人ほど馬鹿をみるよな、と悲しくなった。

♪ 待夢 / GEZAN

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