見出し画像

5月20日~5月26日

5月20日
・「~ている」「~てある」の違いについて議論になった。事前に用意していた説明(意図的な行動か単なる事実か)では納得してもらえず、自動詞と他動詞を用いた例、「窓が開いている」「窓を開けてある」を出してみると、そもそも自動詞と他動詞の違いが感覚として理解できないらしく、混迷を極めた。何かを説明するときにすぐに新しい具体例に逃げてしまうのをやめなくてはいけない。

・対面でクラスに参加する学生が減る一方なので教室を小さいところに変えてもらった。なぜかZoomでパワポのスライドショー共有ができなかったり、表示しようと思っていたPDFのデータがなかったりというトラブル続きだった。社会人の受講生も多いので私よりよほど機材の扱いにも慣れており、助言をもらいながら解決した。先生、と呼ばれるたびに、そんなふうに呼んでもらう資格はないのに、と申し訳ない気持ちになる。

5月21日
・記憶なし

5月22日
・私が一番尊敬しているアーティストが、卑劣なTwitterアカウントが垂れ流した根拠のない噂のせいで、見るに堪えない誹謗と中傷を浴びせられていた。悔しくて仕方がなかった。情報はみるみる拡散され、「元から嫌いだった」だの「いつかやると思ってた」だの、後出しで匿名を盾に言いたい放題。所属事務所の対応でおおよそ鎮火されたものの、一度貼られたレッテルはなかなか剥がれないし、何よりその悪意ある言葉が本人やその大切な人に届いてしまったのがやるせなかった。ただのファンである一個人がこれほどつらかったのなら、当事者はどれほど心を痛めただろうか。言葉が人を殺すこともあるのだと、肌身で感じたのは初めてのことだった。

5月23日
・私の部屋でも1日に1回は見かけていた蟻だが、とうとう教室やダイニングテーブルにも大量発生するようになった。全長1ミリメートルでも集団で蠢く様は非常に不快感があるし、得体のしれない生き物が知らない間に同居しているのは不気味。小さすぎてどこから侵入しているのかは特定できず、学校をあげて大掃除をすることになったようだ。蟻を見ると、指先でいかようにもできる命だなあといつも思うが、別にそれって人間にも言えることだった。

5月24日
・使っている教材の会話文のテーマがインドの食事についてだったのだが、読んでいる途中で学生が "Fake news" だと言い始めた。インドでは豚肉はあまり食べず、代わりに鶏肉や羊肉が使用される、といった内容だった。豚肉は確かに鶏肉ほどは食べられないが、それなりの店に行けば必ずある。そして羊肉についてだが、学生曰く「羊は可食部が少ないから山羊を食べる」とのこと。では、マトンカレーの Mutton とは何の肉なのか。Lamb は子羊の肉で、Mutton は大人の羊の肉とネットでは書いてあるが、インドで羊が飼われているのは見たことがない。反対に山羊は牛や鶏同様に路地裏で何回も見たことがある。学生にじゃあ山羊の肉は英語で何と言うのか、と聞いたら Mutton だと言われた。その場は???で終わったが、要するにインドでは山羊の肉も Mutton というらしい。特に南インドだとうさぎを食べる人もいるらしく、骨が多くて調理が大変だと言っていた。実家にうさぎがいる身としてはあまり考えたくないが、まあ伴侶動物と家畜の境界なんて人間が恣意的に決めただけだし、動物を飼うという行為自体人間至上主義的で気持ちが悪いよなとも思う。

いっぺんに解決しようとしてるのおもろい

・映画 "Inception" を英語字幕で観た。日本語字幕で観ればよかった。カラオケで深夜バイトしていた頃、シフトが被った人が「3回観ても面白い、発見がある」と言っていたのでどういうことかと思ったけど、確かにこれは1回で理解するには複雑すぎる構成。「夢のまた夢」って言葉を考えた人すごい、とそれが映像化された本作品を観てそう思った。正直英語力なさすぎて物語は半分くらいしか理解できなかったけど、単純に画として面白すぎるシーンが多い。どうやって撮ったんだろう、そればっかりに気が行く。レオナルド・ディカプリオがかっこいい。

渡辺謙が出てるの知らなくて驚いた

5月25日
・眠れなくて久しぶりにラジオを聞いた。本当は深夜ラジオをリアルタイムしたいのだが、ここはインドなので Spotify で過去の放送を聞く。フワちゃんのANN0は初めて聞いたが、2時間ずっとあのテンションだし、トークがやたらうまいし、番組スタッフの態度に信頼関係が現れていてとても元気をもらえた。渡辺直美の英会話ポッドキャストは、「間違ってもいいから話す」を実践して実際にコミュニケーションを楽しんでいる人もいるのだなと勇気づけられるし、内容が本当にくだらなくて下品で面白い。ラジオは自分の性格では一生関わることのなかったであろう人々の価値観や体験談を、まるで友だちになったかのような距離感で盗み聞きできるからいい。それはパーソナリティの実力あってこその感覚だ、というのもわかっているつもりだ。私には面白くリスナーを巻き込んで話せるトーク力なんてさらさらないから、こうやって書いては消しができる文章で一方的に発散する方が向いている。

自動生成字幕でもわかる口の悪さ

・チェンナイの新しい総領事が日本語学校にいらした、らしい。一日中ラジオ聞いたり、留学の報告書作ったりしていたら会わずに終わったけど。窓から雨が降っているのが見えた。頭が痛いのはスマホの見過ぎじゃなくてそのせいだということにした。

5月26日
・やっぱり眠れないので映画を観た。何が観たいのかわからないままサブスクのアプリをスクロールしている時間、なんだかとても惨めで馬鹿馬鹿しい気分になる。そんな時に偶然目に入ってきたのが ”Good Will Hunting” という作品だった。観てよかった。終盤、訳もわからず泣いてしまった。天才ゆえの孤独なんて私には縁のない話だと思ってたけど、端から対話を諦めて心を閉ざして人を小馬鹿にして何もかもわかった気になって、そういう気持ちはわかる気がする。単純な What do you want? の疑問が私の胸にも迫る。理解してもらいたいならまず自己開示をしなくちゃいけない。わかってる。わかってるけど、それがどれほど怖くて勇気のいることか。主人公は理解はできずとも、受け入れてくれる人たちと出会えて良かった。MVPは男友達。余計なことはいらない熱い友情、憧れるなと思った。音楽もエリオット・スミスの曲が多くてなんか落ち着く。インパクトはないけど、ちゃんと心に残る作品。

登場人物みんな好きだな

5月26日
・パソコンのフォルダを整理していたら一日が終わった。Windowsを11にアップデートしてからあったはずのファイルがなくてパニックになることやパソコンの動作が重くなることに悩まされてきたが、今日ようやく理由がわかった。One Drive に全てのファイルが勝手に同期されていたのだ。それを解除して、ドライブ上にあるファイルを全部ダウンロードしてあるべき場所に戻す作業に時間がかかった。そして留学関係の書類をきちんとフォルダにまとめる作業もした。ダウンロードするときに適当に保存場所を選んでいるせいで何がどこにあるかわからなかった。そして大学と個人のアカウント両方に同じ書類を作っているせいで過不足が出てしまっていた。最後に留学終了後の提出書類のフォルダを作っていたら、この前何時間もかけて書いた報告書のコピーが消えていた。大学側にはもう提出したが、手元にその原本がない。悔しい。こんなんで社会に出て働けるんだろうか。

帰国が目前に迫っているというのに、相変わらず英語は話せないし、ヒンディー語からは逃げているし、昼夜逆転してエンタメに浸ってばかりいる。正直帰ってからの生活で頭がいっぱいで、心ここにあらずの状態。荷造りなんてするほど荷物もないし、チェンナイに関してはほとんど出歩いていないのであまり思い入れがない。あんなに早く帰りたいと嘆いていたのが嘘みたいに、終わるときは呆気ない。ぼんやりと留学生活を振り返ると、なんだか全部悪い夢だったような気がしてくる。意味があったとかないとかじゃなくて、ただ生活拠点がうつっただけだったな。読む価値のある振り返りは、また別に書けたらいいなと思っている。

♪ Say Yes / Elliott Smith

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?