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9月7日
お腹が痛くて目が覚めて、正直絶望した。
寝たら治るがポリシーのはずだったが、インドに来てからそれが通用しない。
かといってホテルを10時でチェックアウトしたら綺麗なトイレも横になれる場所も簡単には確保できないので、薬でごまかすしかない。
せっかくの旅行を腹痛で台無しにしたくないので、根性で今日1日乗り切ることにした。
食欲はあるので近くのカフェでパンケーキを食べた。
よりにもよって私はヌテラバナナパンケーキにしてしまった。
これでもかというほどヌテラが塗りつけられたパンケーキは鼻血がでそうな甘さで、またご飯選びをミスったと思った。甘党なので食べるけど。
友人たちが今日の予定などを話しているのに、事前に調べるのをサボっていてダメ。インドアだと計画してから外に出ることをしないので、余計な動線が増えてさらに外が嫌いになる。
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今日はそんな感じでずっとストーカーのように友人の後ろをついていった。とんだお荷物。
ホテルの方のご厚意で大きい荷物を置かせてもらえたのはありがたかった。
歩いてすぐのところにある Jagdish Temple を覗いた。
入り口の所で靴を脱がなくてはいけなくて、そこでようやく自分が初めてヒンドゥー教寺院の中に入ることに気がついた。
熱心に寺院のことを説明してくれるおじさんがいたが、何者だったんだろう。
大きな仏塔は改装工事中だったが、壁一面に世界史の教科書で見かけそうな不思議なポーズの神々が彫られている。
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中ではムリダンガムのような太鼓と小さなベルのようなものを叩いている人がいて、その音に合ったり合わなかったり、人々が大きな声をあげて何やら唱えていた。
あまり大きくない礼拝堂に人が押し寄せる中、自分が何か施しを受けると去っていく姿は、街中では見られない秩序を感じさせる。
前へ前へと無数の手が聖職者に伸びていく中、掛け声は一段と大きくなる。
どうしてもその異様な熱気に恐怖を感じてしまうのはなぜだろう。
寺院の外では無料の食事配布も行われていた。
ヒンディー語を勉強している癖してインドの宗教事情を踏み込んで知ろうとしたことがなくて、呆気に取られているうちに参拝が終わった。
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その後今日のメインの目的地であるシティ・パレスに向かった。
お土産屋さんに囲まれた坂道を上っていくと立派なゲートが出てきて、石畳が隙間から覗く。
18歳の設定で子ども料金で潜り込むと、タージマハルともシンデレラ城とも違う、白くて不思議な形の大きな城が出てきた。
中に入ると様々な展示があったのだが、今ひとつ覚えているものがない。
というのも、とにかく長い。
世代ごとに増築しまくったのだから仕方ないが、デカすぎてたくさん歩くしかない。
しかも人が多く、暑かった。
G20 効果なのかいつものことなのか、係員が整列を促すくらいには人がごった返していて、小さい子供は皆ぐったりしている。
私は人混みが苦手なので、それだけでストレス値が急上昇して余計にお腹が痛くなった。
友人は知らないインド人に一緒に写真を撮ってくれと頼まれてもきちんと笑顔で対応していて偉かった。
私はイライラしてひたすら無視し続けていた。薄情だろうか?
観光地で見かけた日本人と写真を撮りたがるあの感覚は私にはどうしても理解できない。
少なくとも外国人を外国人であると必要以上にアピールすることに躊躇を感じないデリカシーのなさだとか、素知らぬ他人の顔面を勝手に記録しておそらくばら撒くであろうリテラシーのなさだとかに、余裕のない私は腹が立ってくる。
面白いなー、で終われない私はやっぱりインドに向いていないんだろうなと思う。
建物自体はとても綺麗でそれこそインスタ映えしそうな感じのかわいらしい造りだったのだが、私は体力も精神力も足りず、途中で写真を撮るのをやめてただ歩くだけだった。
タージマハルはこの比にならないほど混雑しているというから、基本的に行かないことにした。私には耐えられない。
ようやく出てきて外から城を眺めて、ディズニーシーみたいだったな、とクソみたいな感想を抱いた。
もう少し涼しいオフシーズンに1人で来たら、また別の感想が出るかもしれない。
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その後は疲労回復がてら、湖に浮かぶ寺院に向けてボートに乗った。
料金はあまり良心的ではなかったが、遮るものが何もない最前列の席に座ってぼんやりと湖面を滑っている内に疲れや苛立ちもかなり慰められた。
心なしか乗っているインド人も静かで、うっかりしたら眠れてしまいそうなほどだった。
到着した島は南国のリゾート地のような見た目で、外周するのに10分もかからないほど小さかった。
冷たいものが欲しくてソフトクリームを頼んだ。
バニラソフトを頼んだらスプレーチョコがたくさんまぶされていた。今日甘いものしか食べてない。
結局 Jagmandir という寺は見つからなかったが、もう心理的にお腹いっぱいだったので船でホテルのある方に戻ることにした。
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流石に友人たちもシティパレスで消耗していて、残りの時間はゆっくり過ごすことにした。
ホテルの近くのレストランに入って長いことぼーっとしていた。
私はお腹の調子が相変わらず良くなくてペットボトルの飲み物しか頼まなかった。
友人のチーズナンを少し分けてもらったら美味しくて少し後悔。私も頼めばよかった。
店内では何かのインドのCMが流れていたが、音声もないし普通にシチュエーションが謎でなんの話かわからなかった。
ホテルに戻ってシャワーを借りた後、夜ご飯を食べに昨日と同じレストランに来た。
シーザーサラダが食べたい、と漠然と思ったけど、インドで生野菜を食べるのがいまだに怖くて、Veg. Chow mein を頼んだ。
見た目が真っ赤でビビったが、食べるとそんなに辛くない。この旅行で初めて食べ物選びで正解したかもしれなかった。
キングフィッシャーを一杯飲んだらほろ酔いになって、なんとなくモヤモヤしていた全部がどうでも良くなった。やはり私がご機嫌に生きるためにお酒は必要。
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食事後、なんとかリキシャーを捕まえて、割高だったけど夜行バスの出発地点まで送ってもらった。
デリーではあまり気にしたことなかったけど、細い坂道をリキシャーで下るのはかなりスリリングだった。
ウダイプルの旧市街は坂道が多くて、それが余計箱根とか熱海とか、温泉街っぽいのだった。
旧市街を抜けると一気に景色が寂しくなる。
夜行バスが集まっていた場所は夜9時手前なこともあって怪しさ満点だった。
予約していたのとは違う名前の会社に変わっていたが、一応ジャイサルメールには行くらしい。不安。
バス車内がまた怪しすぎる。
全体的にデコトラみたいにギラギラしていて車内の照明は紫がかっている。
ネットでベッド2つ分になっていた私と友人の座席は、それがまとまって1部屋のようになっていた。
寝台バスなんてそんなもんなのかもしれないが、ヤバいかもしれない、と今更思い始めた。
発車してからその不安は確信に変わった。
想像以上の揺れ。これをタイプするのも厳しくなるほどで、眠れる気がしない。
後ろの座席からは子供の声が聞こえてくるし、斜め前からはヒンディー語のポップスが爆音で聴こえてくる。
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果たしてラクダに乗る前にどれほど眠れるのか?
この先どうなったのかは、明日の自分に語ってもらうことにする。