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1月16日

結局3時過ぎに寝て、7時半に起きた。おかげで一日中あくびが止まらなかった。
今朝はクレープだったからやっぱり食べすぎたけど、おかげで起きて頑張ろうという気になれた。やっぱり朝起きる理由がないのが問題なのかもしれない。
ごはんの後は授業の課題の続きをやったり、ヒンディー語と英語で日記を書いたりした。添削してほしいけど、書いてるんだよねって周りに言いふらすほどきちんと取り組めているわけでもないので、とりあえずはインスタの公開垢にしれっと投稿しておこうかなと思う。
11時くらいからは日本舞踊の練習もした。私にしてはわりと早く大体の振り付けを覚えたけど、多分ここから先の繊細さが求められる部分が苦手なので引き続き練習が必要。

課題出して放置プレイされるだけなら行かないと脅したが、どの先生も授業があるとの返信だった。
半信半疑になりつつも学校まで歩いて行こうとしたら、寮の目の前でおじさんに呼び止められた。何かと思ったら、同じ寮に住んでいる目の見えない方の介助を求められた。
本当に正直なところを言うと、咄嗟に「なんで私が」と思ってしまった。なんというか、人間としての底が見えている。我ながら最低だ。
困惑している私を他所に友人はさっと彼女に駆け寄って腕を組んだ。どうやら近くの部屋に住んでいることもあって、何度か話したことがあるらしい。
以前から何度も見かけていたが自分から話しかける勇気は持てず、大変そうだなぁとどこか他人事のように思っていた。
私たちと同じ Faculty of Arts に行くことがわかったので、一緒にオートリクシャーに乗った。

彼女はサンスクリット語の博士課程を修了したそうで、普段は自室で勉強しているが今日は手続きの関係で大学に行かなければならなかったらしい。
遠目に見ていた時から思っていたが、彼女はとても明るい。食堂ではいつもたくさんの人に囲まれて楽しそうに談笑している。リクシャーの運ちゃんにも逞しく値段交渉し、Siri を使いこなして先生や友人に電話をかけている姿は、本当に「普通」だった。
道中はそんな彼女に「なんでそんなに静かなの?」と何回も聞かれた。何を話していいかわからないから黙っていただけなのだが、たしかに見えていない状態で、隣に座っている初対面の人間が黙っているというのは不安だろう。かと言って話そうとするもヒンディー語が出てこず、ごめんなさいと言うほか何もできなかった。
去年留学していた同大学の先輩とも仲が良かったようで、先輩の名前を出すと嬉しそうだった。ヒンディー語を使いながらうまく介助する友人もそうだが、やはり寮の人と仲良くなる努力をしなかったことを今さら悔やんでいる。自分がいかにコミュニケーションから逃げてきたのかを思い知らされた。

Faculty of Arts の敷地内に着いてから、彼女は驚くほど正確に目的の部屋まで私たちを逆に案内してくれた。
自分の歩数なのか壁の手触りなのか、ピタッと「ここで曲がって」「このドアの向こう」と言い当てる。何度も通っているうちに体で覚えたのだろうけど、自分にはとてもできる気がしなかった。
小学生の頃に目隠しをして他人の介助で歩く体験をしたことがあるけど、あれであんなに怖いのなら、インドのガタガタで障害物だらけ、信号もロクに機能していない道を行くのはどれほど勇気のいることだろうか。
サンスクリット語のオフィスにはおじさんしかおらず、書類はどこかと彼女が尋ねると「そこのファイルの中にあるから探せ」とぶっきらぼうに言い放った。
少しくらい手伝ってあげればいいのに、と、自分のことを棚に上げて腹がたった。
「私は目が見えないのよ」と怒るでもなく悲しむでもなく淡々と返事をする彼女を見て、こういうことばかりなのだろうなと想像した。
私たちも探したが見つからず、結局ヒンディー語の授業の時間になったので解散した。
今度見かけた時は勇気を出して話しかけてみようかなと思う。

ヒンディー語の授業は意外にも4コマ中3コマ実施された。
1限目は政治に関する語彙の復習と、経済に関する語彙のインプット。この先生は英語もできるしシラバスに沿って授業をしてくれる。資本主義の定義を説明しろと言われて、返答に窮した。そもそも日本語でも自信をもって説明できない。
2限目はないと連絡が来て、3限目までにお昼ごはんを食べようと思っていたら、韓国人のお兄さんと出会って話し込んでしまった。
年末ダラムシャーラーに1週間以上滞在していたのでその感想を聞いたり、試験や学位についてお互いに情報交換したりした。
ダラムシャーラーに関してはベタ褒めで期待度が高まったし、いつもより英語で会話できて嬉しかった。本当にただの日常会話だけど。
あと、どうやら学位を修了した証明書の発行に最低でも2ヶ月、長いと2年以上かかるらしく、対面で受け取らなくてはならないと聞いた。これで単位互換や奨学金受給の道は消えてしまった。他の留学生はどうしているのだろう?

話もひと段落してごはんを食べに行こうとしたら、10分遅れで3限目の先生に呼び戻された。
シラバスの都合で भाषण(speech) についての授業だったが、正直中身はほぼなかった。
せめてヒンディー語の有名なスピーチを紹介するとか自分でスピーチする練習にしてくれればいいものを、ひたすら「भाषण とは何たるか」について先生が語るだけ。
4限目の先生はもう既にシラバスの内容を一通り終えてしまっているので、テストに向けて作文の練習をすることになった。何かテスト用に難しいお題を出されるのかと思ったら、自己紹介文を書けというもう何十回もやったことのあるものだった。この先生は優しいしとても私たちのことを気遣ってくれるけど、基本授業は先生の言ったことをディクテーションするだけだったから、テストが思いやられる。

そんな感じで今日も作文課題ばかりがいたずらに増え、テストがどんなものになるのか全く想像がつかなくなった。とはいえここ数週間の中では1番マトモに授業が実施されたのはありがたかった。
リクシャーは寒いので歩いて帰った。結局お昼ごはんを食べ損ねたので我慢できずマックでフィレオフィッシュを買った。
寮に帰った後は特に何もしなかった。授業で出た課題をやろうと思ったが、睡眠不足であくびが止まらなかった。
明日は授業がないのでいくらでも眠れるが、なるべく朝起きて課題を終わらせ、できれば映画の1本でも観ようと思って眠りについた。

♪ 今世紀最大の夢 / Tempalay

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