短編読物:帝国軍将たちの群像
大広間の窓から見える城外の光景に、ガルソーグ卿は顔をしかめた。泣き叫ぶ民衆をオークどもが追い回し、城下の略奪を始めているではないか。大広間で隊伍を組み直す部下たちへ向き直るや、黒騎士は大音声で呼びかけた。
「皆の衆、ご苦労。城は落ちたが、伏兵が残っているやもしれぬ。まだ予断はならぬぞ。して、ドゥルクスはおるか」
「御前に、閣下」
「第四軍の愚行を今すぐやめさせよ。あのふしだらな女妖術師め、軍将にもなってまだ理を解さぬと見える」
「御意。閣下のお言葉、第四軍将どのに申し上げて参ります」
踵を返し、広間から足早に立ち去る部下の背中を見送ると、ガルソーグ卿は玉座へ腰を落ち着け、その感触を確かめた。ファーベル家の〈紫紺冠旗〉は床で踏みしだかれ、凄惨な血だまりの中に沈んでいる。ファーベル家の統治は終わった。今宵からは、ギルカトラス帝国の御旗たる〈極陽旗〉がこの広間に翻り、皇帝陛下の御威光がこの土地をしろしめすのだ。
「ダレク・ファーべルか。弱き将であったが、椅子の趣味は悪くない」
城門から、オーク兵に集合を促す戦太鼓の音が聞こえてくる。どうやら命令は無事に届けられたようだ。“兵は生かすな、民は殺すな”が卿の信条であった。占領統治はただでさえ困難を極めるのだ。被占領民を手なづけねば、初動統治はすぐに行き詰まる。オークを伴う軍の入城となれば、民衆が帝国編入を僥倖と理解するまで、余計に時間がかかるのは明白であろうに。ガルソーグ卿は兜の奥で唇を歪め、ぼそりと呟いた。
「さればこそ、第四軍の同陣無用と申し上げたのです。陛下」
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