新製品情報&アイテムレビュー(2019 4/9)
落ち着いた所作で書状に花押(かおう)をしたためたギルドナッフェ元帥は、直立不動の姿勢で待つ新任の副官を見やる。ヴァイゼル参謀長に頼み込まれて副官に取り立てたものの、落ち着きが一向にない。元帥直轄の第二軍が帝都に戻って半年になる。この若者は、自分が後方に取り残されたと考えているのであろう。彼の滾る戦意を知ってなお、元帥はこの副官に事務仕事ばかりをさせてきたが、どうやらそれも限界のようである。
「早駆けに返書を持たせねばならん。ナージャが愚痴を書いて寄越すとは、相当なものだ。ガルソーグの堅物ぶりをようやく理解したらしい。アグドゥル爺と合流したがっておるわ。ドワーフたらしの爺のことだ。ナージャの第四軍も存分に働かせるであろう」
「御意。では、第四軍に北進許可を出されるのですね」
マシュメトが応じる。すでに老アグドゥル卿率いる第五軍は、不浄ヶ原のドワーフ軍を助けて北上していた。この機に乗じてシャムシール首長国へ攻め上れば、内ヶ海も目前だ。そうすれば、いよいよ大陸北部への橋頭堡が築ける。元帥の返答を待たず、マシュメトはたたみかけた。
「元帥閣下。第二軍への東征勅許はまだでありますか。今は防衛でなく、攻めあげるべき時であります。帝都にはまだ第六軍と第八軍、第九軍がおりますし、第七軍の南方再攻略も首尾よく進んでおると聞き及んでおります。東はガルソーグ卿の第三軍、北は老アグドゥル卿の第五軍。ナージャ師の第四軍が北進するならば、東への増援が不可欠と存じます。モルトランド王国軍も、防戦一方ではありますまい。敵が攻勢に出れば、ガルソーグ卿の第三軍だけでは、東境を抑えられませぬぞ。小官の剣も、久しく敵の血を啜っておりませぬ。陛下にどうぞ上奏を」
頬を紅潮させながら自論を展開するマシュメトであったが、帝国元帥は片手を上げてこれを制した。
「見立てが甘いぞ、若造。東と北ばかりに気を取られすぎるでない。〈マルガドの悪鬼〉のことは知っておるな? メジェド朝にあやつがおる限り、トロール兵団を擁する第七軍をもってしても、取り返された南部城塞群を再奪回するのがせいぜいだ。メジェドは復讐に燃え、手を借りてはならん連中とも結んだという。じきに、第八軍も南進させねばなるまい。それに、二面海を徘徊するシュトラウスの奴隷水軍も忘れるな。この戦況下で第二軍が丸ごと帝都を留守にして、強欲な商人王どもが停戦協定を守るわけもなかろう。水軍で沿岸を荒らし回っては、お得意の“奴隷反乱につき我が軍の統制を離れり”詫び状を、送りつけてくるつもりに相違あるまい」
「よいか。剣を振るうだけが第二軍の役目ではないのだ。盾を持つこともまた我らの役目なり。陛下をお守りするのが至上の勤めぞ。己の出世ばかり考えるでない」
マシュメトは返答に窮した。だが、これでは単なる帝都防衛の飾り物ではないか。第五軍にいる姉は、自分が後方で安穏としているこの間に、最前線で華々しい活躍を重ねている。父にも意地を見せねば。しかし、元帥が続いて口にのぼせた言葉は、この若き騎士を奮い立たせるに十分であった。
「だが、そなたも体がなまってきた頃であろう。そなたがナージャへの返書を持ち、早駆けとして東境へおもむくのだ。その後、儂からの別命あるまでガルソーグ卿を補佐し、東境警備にあたれ。一個兵団をそなたに預ける。陛下の兵ぞ。無駄に殺すな」
「はっ! ありがたき幸せ! 早速準備に取り掛かります!」
喜び勇むマシュメトを送り出すと、ギルドナッフェは顎髭を弄びつつ、窓の外を見やった。この季節特有の螺旋雲が、南から迫っている。あと二、三日もすれば、帝都ツェールザールにも雨が降ろう。
「マシュメト・イルクハーン・アシーラーム・ヴァイゼル。名参謀長の孫とはいえ、取り立てるには若すぎたか。なれど、兵として死ぬもまた、命の使い道であろう。あるいは、学ぶやもしれん。生き抜ければな」
今日俺が君に紹介するのは、黎明期のゲームズワークショップ/シタデルミニチュアで当時の若手デザイナー(ケビン・アダムズやジェス・グッドウィン)たちを育て上げ、自身もミニチュアデザイナー兼ペインターとしてシタデルブランドの発展に尽くした伝説の男……チャズ・エリオットの作品群だ。彼は80年代後半にゲームズワークショップを去り、その後はフリーランスデザイナーとして、世界各地のブランドで腕を振るった。現在チャズは高齢により引退しており、新作を見ることはかなわない。しかし、彼がミニチュアシーンにもたらした功績は、今なおキラ星のように輝いている。
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