令和版 メタルミニチュアのできるまで
よくぞ来た。この記事では、ハーミットインの自社ミニチュア「ゴブリン」を例に、メタルミニチュアがどのように企画され、原型が作られ、製造ラインに乗り、生産されているかを、ハーミットインの自社ミニチュアを例に、順をおってわかりやすく解説しよう。
イントロ:人間の手だからできること
工業化、自動化、高速化、大量生産技術、AI…ものづくりの技術革新はますます進んでいるけれど、俺たちは知っている。手作りの良さを。人の手でつくられたものには、技術や経験のみならず、それを手がけた人の想いも込められるものだ。
大量生産された綺麗なマフラーもいいが、家族が編んでくれた手編みのマフラーはやっぱりあったかい。機械がプログラム通りにキレイに巻くソフトクリームは形もいいしソツのない味だが、熟練した人が手巻きで作るソフトクリームは、芸術品のような美しさで、やっぱりうまい。焼き物なんかもそう。大量生産品が安く出回っているけど、一点物の皿とかには、やはり格別の良さがある。
「手作りのあたたかみ」…それは、いびつであったり、非対称であったり、不完全であることをフォローするための慰めワードではない。世の中には、機械やAIで置き換えられない技術領域が…人がその誇りをかけて取り組むことでこそ作りえるものが…まだまだたくさんある。
メタルミニチュアのデザインと製造はその一つだ。プラモデルやプラミニチュアと異なるのは素材がプラか金属か…だけじゃない。その製造工程も全く異なるんだ。
金型を用いて射出整形機で大量生産できるプラ製品と異なり、メタルミニチュアはひとつひとつが熟練した職人の手によって生産される。それは事業規模の問題ではない。メタルミニチュアの生産は、自動化・機械化できない工程が多すぎるからだ。
この記事で君は、今まで秘密のベールに包まれていた「メタルミニチュアがどう作られているか」を知ることになる。
それじゃあ行ってみようか!
1.ミニチュアのブリーフィングとコンセプトデザイン
「ミニチュアを製品として創る」うえでは、さまざまな段階がある。まず、製品としてのミニチュア製造に必要な人材や予算を確保することも必要だが、そもそも「何の、どんなメタルミニチュアをつくるか」ということを決めることが必要だ。
予算だの納期だのといったことはさておき、自分で原型を作るのであれば、「題材を頭の中でホンワカと考えて、とりあえずパテをこねる」という手法がないわけじゃない。だが、製品としてつくる以上は、そこに何らかのビジョンが必要だ。複数の人間でチームをつくる場合はなおさらである。
ハーミットインでは、ミニチュアデザイナーとまず意識の共有をする。それは「ブリーフィング」と呼ばれるもので、作ってもらう題材を簡潔・明確に説明する資料を共有するのだ。ハーミットインのミニチュアの場合、ハルクウーベンと呼ばれるオールドスクールファンタジー世界に根ざしているので、世界設定の話や種族ごとの説明資料もついている。
ミニチュアのコンセプトデザインで俺が心掛けているのは「詰め込みすぎないこと」。別の言い方をすれば、余白をしっかり空けたデザインをすることである。設定画ではなく、イメージボードであるとも言い換えられるね。
余白を残すことで、ミニチュアデザイナーは全体的なイメージの枠を保ちながら自分自身の創造性を活かせる。どういうことか? 平面の絵を立体化したのではなく、デザイナー自身の作品として魅力的な造形になるんだ。ミニチュアデザイナーが経験豊かな人物ならばなおさらさ。
2.ミニチュアの原型製作
ブリーフィングとコンセプトがミニチュアデザイナーに手渡されると、原型の製作が始まる。完成までそのまま行く場合もあるが、ハーミットインでは、たいてい1体につき数回の監修を入れる。写真を見ながらデザイナーとあれこれ相談する中で、チームのパワーがドカーンし、出来栄えが上がるのだ。
ミニチュアデザイナーのケビン・アダムズは、銅線で骨組を作り、それにグリーンスタッフ(エポキシパテ)で肉付け・造形していく。グリーンスタッフでの造形は、削り込む“彫像”式ではなく、盛り付ける“塑像”式だ。
ミニチュアの原型づくりには、伝統的にグリーンスタッフが用いられてきた一方、ここ数十年は他のパテ(レジンパテや、焼成することで硬化するタイプのパテなど)も使われるようになった。
また、近年はZbrushなどを用いたデジタル原型もある。デジタル原型をメタルミニチュアにする場合は一度3Dプリント出力し、サポートや積層痕を完全に除去してから「タンジャブル・マスター」…すなわち有形の一次出力品を原型として用意し、次のステージへ移る。
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