種族解説:ヒポカンポ
ハルクウーベン大陸を離れ、二面海の南洋へ乗り出した先には、南方大陸……あるいは熱極密林とだけ呼ばれる恐ろしい大地が広がる。そこは悪意に満ちたおぞましい土地であり、海岸線まで張り出した密林を分け入れば、猛毒を持つ動植物、未知の悪疫、言葉の通じぬ未開人、ジャイアントよりも巨大な恐竜たちで溢れかえっているのだ。
大陸南部諸国…モルトランド王国であれ、ギルカトラス帝国であれ、あるいは滅びゆくメジェド朝の残滓であれ…を君が訪れることあらば、一晩を過ごすよりも早く、熱極密林のどこかにあるという黄金郷伝説を耳にすることになろう。かの地には古代より人ならざる者の文明が今なお栄えており、そこには黄金が溢れている…家の屋根は黄金の瓦で葺かれ、街路には黄金板が敷かれ、人々は黄金の皿で食事をとっている…という噂だ。
だが、海流のせいか、あるいは何らかの魔法がかけられているのか……いかに熟達した航海者であろうと、船を壊すことなく熱極密林の沿岸に近づくことさえできない。途中嵐に見舞われるか、おぞましい海獣に襲われるか、あるいは突然座礁するか、船底に穴が開けられてしまう。結果、熱極密林はハルクウーベンの民にとって今なお遠い秘境であり続けているし、ゆえに黄金郷伝説は数々の探検家や冒険者、そして強欲な貴族たちを魅了し続けてやまぬのだ。
海岸線までせり出す密林に覆われた灼熱の南方大陸にいかなる異文明が栄えているかは、伝説や風聞の域を出ない。少なくとも事実としてわかっているのは、ヒポカンポと名乗る古代文明の末裔たちが太古より栄え、彼らなりの正義と秩序をもって、熱極密林を治めているということだ。なぜそれが事実とわかるか? それは、ヒポカンポに関する明確で信頼できる記録が、ケイポン国のギムレス大書庫に残されているからである。
***
それは今を遡ること300年以上前、新暦1106年のことだ。神聖アルフモート王国の南境をなす霧の平原のただ中に、ヒポカンポを自称するカエル人間らの居留地を見出し、無事に生還した冒険者たちがいる。歴史学者レキメスがくだんの冒険者らと会見し、彼らの持ち帰った遺物や聞き取り内容を精査した結果、細部はともかく、ヒポカンポの存在自体は信頼に足ると証立てたのだ。
特別にヒポカンポ神官との謁見を許された冒険者たちの(いささか誇張された)滞在報告によれば、霧の平原を作り出したのは他ならぬ彼らの祖先であり、〈大調和〉の一環として執行されたものだという。居留地にいるヒポカンポたちは、交代で守護を担っているというのだ。船さえ使わずに、遠く熱極密林と大陸西方内陸部を往来できる手段は明かされなかったそうである。
ヒポカンポが霧の平原を創ったかどうかの真偽はわからないが、霧の平原があるからこそ、大陸南部に拠点を持つさまざまな邪悪の陸路北進が長らく阻まれていることも、また事実だ。
なお、くだんの冒険者たちは生還こそしたものの、二度と近づかぬよう警告を受けた。彼らの冒険譚を聞きつけ、ヒポカンポの居留地を目指した冒険者や軍隊を差し向けた地方領主もいたが、いずれも居留地の発見はできていない。
***
ヒポカンポたちは直立したカエルのような姿であるが、その外見からは想像できないほどに高い知性を備える。彼らには独自の言語と文字が存在し、他種族と全く異なる哲学、倫理、社会、文化を育んできた。
ヒポカンポの社会は、計画的に建築された神殿都市群からなる。神殿都市はその名の通り神殿を中心としたヒポカンポの街だ。神殿都市の周囲は鬱蒼と茂る密林に覆われており、かなり接近しない限り、そこに都市があることすら判然としないだろう。
ここから先は
寄せられたチップは、ブルボンのお菓子やFUJIYAケーキ、あるいはコーヒー豆の購入に使用され、記事の品質向上に劇的な効果をもたらしています。また、大きな金額のサポートは、ハーミットイン全体の事業運営や新企画への投資に活かされています。