良い加減でいこうぜ
あれは確か、中学生の頃だったと思う。扇風機が壊れ、新たにやって来たリモコン付き扇風機にドギモを抜かれた。
いわゆる「弱、中、強」に加え、そこには「森の風、高原の風、砂浜の風」というボタンがあったのだ。
ようは当時流行った「ファジー」というやつで、ランダムに風が強くなったり弱くなったりするやつである。
何にドギモを抜かれたかというと、これらの機能を「ランダム弱、ランダム中、ランダム強」とか「ファジー弱、ファジー中、ファジー強」と呼ばなかったことだ。
「森の風、高原の風、砂浜の風」
なんとも想像力をかきたてられる詩的な表現が、俺の感性を揺さぶった。
今思い返すと、こういうところに、当時のメーカーと顧客がどちらも持っていた「余裕」と「遊びごころ」が出ているように思えてならない。
なんでもかんでもクレームにつなげた連中がいた。やたら大きな主語で、起こってもいない事故の危険を「たられば」で叫ぶ連中がいた。一方、自主規制で自分たちを縛りまくり、ビビりまくった企業が沢山あった。
そして企業が色々回り込んでものを作るようになった結果、冒険心は衰えていった。製品や広告からは誤解しうる要素や曖昧な表現などが極力排除されるようになり、小刻みなバージョンアップと副次機能追加に留まる製品開発が続いた。そして今、家電から日本語表記までも消え始め、家電市場から日本のメーカーさえ消えつつある。
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