種族解説:トレント
この世界が生まれてこのかた、その様相を変えながらも一度たりとて滅ばず、その勢力圏をむしろ増し続けている勢力がある。それこそが、ハルクウーベン全土で栄える植物の眷属に他ならない。気候や地形を問わずありとあらゆる場所に繁茂し、その種類たるや、動物のそれをはるかに越える多彩ぶりだ。
植物は生えた場所から動けず、我々のように見聞きしたり、考えたり、話したりすることはできない。だがそれは、彼らが我々と異なる生き物であるからにすぎず、植物には感情も、記憶も、意思疎通の手段もしっかりと持っている。彼らは大地を介して互いに繋がり、我々には聞こえぬ声で歌い、互いに話し、周囲にある物を目ならざる目で見、耳ならざる耳で聴いているのだ。
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トレントが暮らすのは太古の昔から佇む大陸各地の深い森だ。彼らの興味は騒がしい外界ではなく、静謐なる故郷の森にこそ向けられている。トレントは「森の牧人」とも呼ばれるが、それは実際彼らの生き方や在りようを的確に表現していると言えよう。彼らは森を自らの足で耕し、草木から託された種をふり蒔き、伸び過ぎた枝を落として回り、食物連鎖の営みに安っぽい憐憫を感じることもなく、ただひたすらに見守っている。
トレントは、自分の暮らす森に生える樹木とよく似た姿形をしており、じっとしているトレントを一目見ただけでは、樹木と区別がつかないだろう。普段トレントは足先から根を伸ばして樹木のように腰を落ち着け、土から水と養分を吸い上げながら過ごす。そして折を見ては森の中をゆっくり歩き回って鳥獣と対話し、節ばった太い腕を伸ばしては、草木の世話をして回っているのだ。
トレントは、我々とは全く性質を異にする存在である。トレントはいわゆる生命体ではなく、樹齢数百年を経た老木に大自然の精髄が宿ることで生じる木霊だ。トレントとなった樹木はやがて姿を変じ、枝を腕のように動かしたり、根を自ら引き抜いて歩けるようになる。また、エルフや人と似たように聞き、見て、話すこともするのだ。
我々は、背の低いトレントほど若いと考えがちだが、必ずしもそうではない。トレントの大きさや形は、精霊の宿る老木の樹姿次第である。トレントが実際にどのくらいの年齢であるかは、その幹に刻まれた年輪を読まねばならないが、自分の胴を切り離してまで自分の正確な齢を伝えたがるトレントなどいない。
一つの森に複数のトレントがいることは稀で、複数のトレントが暮らす森は、太古から存続するわずかな樹海のみだ。だが、森に暮らすトレントが孤独や寂寥に苦しむことはない。トレントには森という家があり、鳥や獣、虫に草木と、話し相手に事欠かないのだ。必要であれば、鳥獣に問うだけで、森の内外で起こっていることをたちどころに理解できる……トレント自身が望めばの話だが。
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