文化財運営の裏側、ほんの少しお見せします。指定管理者になった私たちが、6年間で経験し、学んだコト その②
マルチタスク=苦行?
前回の私のコラムでは、無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅の指定管理運営では、お客様と文化財を繋ぐ「場」づくりを大切にしており、それはスタッフのマルチタスクの賜物である、というお話をさせていただきました。
もちろん、個々人のスキルや強みは活かし、適材適所で業務を進めてはいるのですが、基本的には施設の清掃から巡回、HPの更新などのシステム業務から経理まで、ほぼ全ての業務をマルチタスクで担っています。
とはいえ、マルチタスク、結構大変です。
当然私たちには得意、不得意がありますし、時には未経験のことにも取り組む必要があります。私自身30代半ばを過ぎてからillustratorなどのアプリを使うことになり、必死で勉強しつつ、作業を進めています。
他にも未経験で分からないことがあるとそこで止まってしまったり、ついつい後回しにしてしまったり・・・。
このように一見大変なことだらけに見える、マルチタスクをするメリットとは一体何なのでしょうか?
マルチタスク=お互いを知ること
業務効率化という視点からマルチタスクのメリットを考えると、分業制に比べ、チームの作業スピードがあがる、などがあるかと思います。
しかし、無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅でのマルチタスク導入を通じて、私が実感している一番のメリットは、相互理解が進んだことです。
マルチタスクで他の人が担当している業務を経験することで、お互いの業務を知ることができます。お互いの業務を知ることで、無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅での業務全体を知る視点を持つことができます。
また、初めての業務は分からないことが多いため、必然的に周囲の経験者とコミュニケーションを取り、お互いの知識や経験を共有することにも繋がります。
マルチタスクを導入する前は、担当外の業務の課題や遅れについて、スタッフ間で中々提案や意見を言うことができなかったこともありましたが(担当外の業務についてイメージが湧かないため)、導入後は一人で課題を抱え込んでしまう、という「孤立感」の解消にも繋がっているように感じます。
変化する状況の中でマルチタスクを導入すること
スタートからの数年間はオペレーションや人員配置などの体制を整えることに多くの時間を費やし、また課題解決にスピーディーさを求めたため、スタッフにとって非常に目まぐるしい、嵐の中の船のような日々だったと思います。
漸く体制が落ち着いてきたと思えば、今度は新型コロナウィルス流行拡大の対策を取った運営をしなくてはならない、など運営の状況が落ちつくということはありません。
このような日々変化していく状況に対し、運営コンセプトをどのように適応させ、オペレーションに当たっていくかは運営の現場にとって重要な課題です。
この課題解決のため、無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅では「従業員エンゲージメント」を高めることを目的とした全体MTGを数年前から定期的に実施しています。
エンゲージメント構築では組織と個人の関係性を重視しており、それを高めることで、スタッフがその組織の方向性を理解・共感し、誇りをもって自身の業務に携わり、成長できることを目的にしています。エンゲージメントを高めるために何より大切なのは、「組織の理念やそれにそった方向性をスタッフが理解・納得し、その中での自身の役割を見いだせること」です。
変わりゆく状況の中で、いかに組織の理念(庭に集い、庭を育む)に沿った運営を実現していくのか、を繰り返し、丁寧に共有することが不可欠だとこの6年間の業務を通じて私自身強く実感しています。
今回は無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅のスタッフのお仕事について、ご紹介しました。
次回のコラムは、文化財施設を運営する上でとても大切な、学芸員スタッフのお仕事について無鄰菴・岩倉具視幽棲旧宅 主任学芸員の重岡さんに紹介していただきます。重岡さん、よろしくお願いします!
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