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「文化財運営者の一日 朝の鍵開けから、夜の鍵閉めまで。見えないところでこんなことしてます。」
書いてる人 平野友昭(ひらの ともあき)
植彌加藤造園株式会社 指定管理部 無鄰菴管理事務所スタッフ。
私の所属する指定管理部は、京都市所有の国指定名勝・無鄰菴および国指定史跡・岩倉具視幽棲旧宅の二施設を指定管理者として管理運営する部署に当たります。私自身は、無鄰菴の仕事に携わり、日本庭園に囲まれた環境で日々業務遂行できる事は、嬉しい限りです。生き物好きの私にとって、緑の歩みを感じ、四季折々の景色を観察できる事は、目線に変化を持たせてくれる場所でもあります。
無鄰菴
岩倉具視幽棲旧宅
無鄰菴の開門は9:00からですが、門の内側では皆様をお迎えする準備として室内の整えやお庭のチェック、そして建物の雨戸開け作業などを行っています。開門前の庭園は流れの音と野鳥たちの声、そして風の音が響き渡っているため、スタッフのみのお庭は静寂に包まれ、庭園の季節の変化を感じられる環境下で開園準備を行っています。
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庭園内にある5つの手水鉢の毎日の水替えは、バケツに水を用意して母屋とお庭を数回往復して行っています。昨日の入水や枯葉などを取り除いて入れ替えるのですが、秋が深まるにつれて庭園内にはナンテンやマンリョウ、ヤブコウジといった果実をついばむ野鳥が多くなり、水浴びで取水鉢の利用中に置き土産を置いていかれることで難儀する日もあります。手水鉢は水が縁に水が浸るまで入れて水面上部の景色が映り込むように心がけています。
石畳の打ち水を行うのも日課の1つです。石のくぼみに水たまりやムラができないように注意しながら水を撒いていきます。水たまりができてしまった際には、箒で掻き出していきますが、難所は表門の軒下の石畳。一部くぼみが深い箇所があり、打ち水で一番気を付けている場所でもあります。126年の無鄰菴の歴史の中で、「長い年月をかけて必ず皆さんが出入りする場所のため、くぼみができてしまったのか?」と、想像しながら作業を進めています。
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また、無鄰菴庭園を流れている水はこのまま瓢亭さんへ通じています。枯葉が流れないように網で隔たりをしていますが、常に枯葉が蓄積していくため、早朝とお庭の巡回時に網や箒を使って取り除いていきます。時々、蓄積した枯葉の隙間で休んでいる小魚(ヌマムツやオイカワ)をすくい上げてしまうこともあり、集めた枯葉の中からゴソゴソと音がする時は、探し出して流れの中に戻しています。夏場であれば、赤や青の色が顕著になり、とても綺麗な魚たちです。
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開園時間前に朝礼などを行い、朝の予約状況などを確認し、開園後は各自担当作業を行います。紅葉シーズン到来の11月半ばは観光でのご来場の方も増加するため、カフェの裏方では担当の時間になると常に手首を振っている状態です。実は無鄰菴のお抹茶は、当日裏ごしした抹茶を注文が入った時に茶筅で1椀ずつ点てているのです。器によって香り立ちや泡のきめ細かさが異なるため、お気に入りの器があると、その点てた出来映えで嬉しくなり、またお客様から抹茶の喜びのお声を頂くと心を込めて点てて良かったと思います。カフェの提供時はお客さまとの接点が一番近くなる時である反面、コミュニケーションを取りながら、常に周囲に気を配りつつお庭散策されているお客様にも室内から注意を向けています。
開園中は10分の無料ガイドも担当し、山縣有朋についてや無鄰菴庭園のお話、庭園の散策方法の案内などをお伝えしています。今の季節は全国各地から大勢の方のご来場があり、ガイドをお聞きになられるため、ガイド後に質問や少し世間話をすることもしばしば。時々、私と同じ趣味の方もおられて、とても楽しみながら開催をしています。
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夕刻になり、お客様の退園時間になると、朝に行っていた開場作業の逆の作業をしていきます。秋冬は周囲が暗くなる時間帯が早く、真っ暗な中での閉場作業となりますが、流れの音を聞きながら誰もいない中で、癒しを感じながら「今日もお庭が綺麗な一日だった」と思いながら作業をしています。時々茂みの中でねぐらとして活用していた野鳥が飛び出してくることもあり、また夏場ではフクロウの仲間が飛来してくれている時もあります。
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大きな作業として上記に書き綴ったことは毎日の習慣となっていますが、いつもお庭を見ながら、そして植物たちの変化も観察しながら楽しんで作業をしています。日中は接客がメインとなりますが、1時間ガイドや講座・イベントのMCなども担当しているためか毎日時間が経つのが早く、気がつけば閉場の時間になっています。好きな事を仕事で活かしつつ、とても充実した日々を過ごして一日を終えています。