稼ぐ文化財ニュース(2021/12/20-2022/1/3)
稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。
◆今日のトピック
市小売市場 年内に廃止 岩国城下町で戦後復興期から営業 跡地活用 町並み配慮し検討へ(中国新聞 2021/12/20)
【記事概要】
岩国市は年内にも、戦後の復興期から城下町で親しまれた市小売市場(同市岩国)を廃止する。開会中の市議会定例会に廃止条例案を提出した。施設が老朽化し、営業していた2店は既に廃業した。施設は国の重要文化的景観(重文景)に選ばれた城下町にあり、跡地をどう活用するか町並み保全の観点からも慎重に検討する。
【市小売市場の歴史的価値を考えてみる】
市小売市場が位置する岩国城下町は、2021年10月に重要文化的景観に選定されたばかりですが、2021年3月策定の「錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観 保存活用計画~近世城下町から続く暮らしと錦帯橋への物見の生業が生む景観地~」には、市小売市場に関する記載はいっさい見られません。
保存活用計画によると、市小売市場のある「岩国地区」は江戸時代から経済の中心地として栄えており、現在も町割を示す街区構成が維持されているようです。また昭和40年代までは拠点性を持つ商業・業務機能が集積しており、看板建築等の形で残されているとのこと。
これらから、戦後に整備された卸売市場も、岩国地区の商業・業務機能を支える施設として、この地域が江戸時代から昭和まで継続して栄えてきた歴史の重層的断面を示す一つの生き証人だったとも言えます。
【跡地活用のポイント】
写真で見る限り、建物そのものはどこにでもある古臭い公共施設のようでもあり、決して万人受けする魅力的なものとはいえません。
ですが、二階の窓と市場の看板のリズミカルな配置や、ぬりかべのようにどっしりとした外観、なんともうらびれた昭和感満載の内装など、何とも言えない魅力もあり、あと30年もすれば「築100年の昭和文化遺産」として価値が再考される可能性もあります。
同じような印象を持つ施設として有名なのが、尾道市にある旧県営倉庫を改装してホテルにした「ONOMICHI U2」。2014年に広島県が築70年の倉庫の活用事業者を募集した公民連携事業で、「しまなみ海道」に隣接する立地を生かして日本初の「サイクリスト向け複合施設」を提案した企業が選定され、古い建物の良さを生かすことで魅力を高め、地域再生にも貢献した事例です。
この事例の特徴として、土地建物が県所有のため不動産を担保にした融資が困難なこと、また、前例のない新規事業であり事業採算性が見通しづらいこと、などから、金融機関からの融資が難航していました。
この課題をクリアするため、民間都市開発推進機構の「まち再生出資」を活用することで、運営会社の資本(エクイティ)を増強して金融機関の融資の呼び水としました。また、まち再生出資を受けるには大臣認定が必要となるため、本事業に対する政策的意義を国がオーソライズする形となり、実績のない運営会社に対して有形無形の与信力が付与されることとなりました。
市小売市場の跡地活用において、ONOMICHI U2のような魅力的な再生提案がなされるかどうか未知数なところではありますが、錦帯橋という日本有数の観光名所に近接し、江戸から昭和までの重層的なまちなみが随所に残っている本立地において、既存建物を活かしつつ観光利用を図ることはあながち夢物語と切って捨てることもできないと思います。
【今後の動向】
市小売市場は2021年4月にすでに閉鎖されており、その後の活用方針は公表されていないようです。プロポーザル情報もないため外部コンサルを活用している形跡も見られず、庁内で検討が進んでいるものと考えられます。
すでに老朽化が進み、耐震性能にも不安が残るのは承知のうえですが、安易に「解体」を選択するのではなく、サウンディング調査などでこの建物のポテンシャルを評価したうえで、扱いを決定しても遅くないのではないでしょうか。
◆その他のニュース
武家屋敷に泊まりませんか 臼杵市、城下町の文化財など活用 歴史と食、体験型観光を計画(西日本新聞)
大分県臼杵市が、旧城下町にある旧藩主家の下屋敷や寺を宿泊施設として活用する計画を進めている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「創造都市ネットワーク」に11月、食文化分野では九州で初めて認定された同市。歴史と食を融合させた体験型観光を充実させて雇用創出や地域活性化につなげ、文化財を積極活用することで保存にも役立てる狙いだ。
「文化財」をまちづくりの核に 明石市策定の活用計画、文化庁が認定 明石城周辺など重点区域(神戸新聞2021/12/25)
地域の文化財をまちづくりの核に位置付けて継承していこうと兵庫県明石市が策定した「市文化財保存活用地域計画」が文化庁の文化財審議会から認定された。国に文化財登録を提案できるほか、文化財の保存と活用に国の補助が受けやすくなる利点があるといい、商工・観光業との連携促進など新たな取り組みにつなげていく。
「嘉穂劇場」活用探る検討委設置へ 飯塚市、来月めどに /福岡県(朝日新聞西部地方版 2021/12/24)
飯塚市長は、経営難で5月に休館し、所有権を市に移譲された国の登録有形文化財「嘉穂劇場」について、活用法を探る市文化施設活用検討委員会を「(来年)1月をめどに立ち上げる」と表明した。
来春オープン 富里市に観光交流施設 末広農場 旧岩崎家別邸と隣接(読売新聞東京朝刊 2021/12/23)
富里市で初めてとなる観光交流施設「末広農場」が来年4月、市内にオープンする。国登録有形文化財「旧岩崎家末広別邸」に隣接し、市の特産品の販売のほか、地元の歴史や文化などを学べる。観光客数が県内ワースト2位(2019年)の同市で、観光客の誘致は長年の課題で、施設は観光の目玉として期待がかかる。
施設は「観光・情報の拠点」「歴史・文化を伝える」「飲食・物販による集客」の三つをテーマとした平屋建ての大型施設。建物面積は約850平方メートルで、施設内では市特産のニンジンやスイカなどの農作物やそれらを使った料理を販売するほか、観光紹介や富里市と岩崎家の歴史を学べるエリアも設ける予定。
熊本県/菊池の太田黒家住宅 国登録有形文化財へ 「番所」の歴史伝える(西日本新聞 2021/12/22)
国の文化財審議会は、菊池市重味の「太田黒家住宅」の主屋と蔵を国登録有形文化財(建造物)にするよう文部科学相に答申した。江戸時代に交通の要所に設けられた「番所」の歴史を伝え、格式高い造りが評価された。来年3月に登録される見込み。県内では182件目となる。
敦賀倉庫を舞台に/リノベ通じてまちづくり/港都つるが(建設工業新聞 2021/12/20)
敦賀市の第3セクターである「港都つるが」は、リノベーションを通してまちづくりを行うワークショップ「ハッカソンR」の参加者を募集している。開催日時は2月4日~6日、神楽町1丁目のカグ~ルで行われる。募集期限は1月21日まで。
今回は若狭物流が所有し2014年4月に有形文化財に登録された蓬莱町の敦賀倉庫を舞台として、地域や建物の歴史、エリアの特性を踏まえて活用した事業プランを練り上げ、その斬新さや優れた発想を競い合う。
https://minato-tsuruga.jp/r%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%AB%E3%82%BD%E3%83%B3/
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