クラゲ育成日記(さいかわ日記番外編)
今は七月の終わり、仕事がかつてないほど忙しい。
こんなに仕事が嫌いなのに、毎日毎日残業三昧。
日が長くなっているのか短くなっているのかもわからず、私は客先に向かっては真昼のてっぺんから降り注ぐ光とコンクリートからの照り返しに焼かれ、それがとっぷり暮れた頃にエントランスから吐き出される。夜になっても下がらない気温をたっぷりと含んだ風に、脳の暴走と睡魔のため熱を帯び朦朧とする心身がなぶられていく。
何かで気を逸らしたい。一時しのぎでいい。嘘でもいい。
あたらしいゲームでも始めようかな。
ちょうど、iPhone6sからiPhoneXsに変えた時だった。6sは二年以上使っている内に容量が圧迫され、新しいゲームなどインストールできない状態だった。
今なら512GBある。いくらでも新しいデータが入れられる。でも、既にツムツムとどうぶつの森を抱えているし、なるべく構わなくてよくて、癒しの、現実を忘れられる……
これか。
うたい文句は以下の通り。
4日に1回の餌やりと1週間に1回の水交換で半永久的に育つ
私は高校生~大学生の頃、クラゲになりたいクラゲになりたいとうわ言のように呟いていたことがあるが、まさに私のためのゲームではないか。
早速ダウンロードし、起動する。クラゲに名前を付けられるほかは特に設定もなく、ぽんと水槽とクラゲが現れる。名前は思いつかなかったので、とりあえず「クラゲ」のままにする。
iPhoneのアラームを21時にセットし、準備完了。
クラゲは果たして私に癒しを与えてくれるのだろうか。
一日目
これが私のクラゲちゃんである。
私がクラゲちゃんにできることは、事前情報の通り右下にある「餌やり」と「水交換」だけである。大きく育てよ。
ちなみに、実は下の広告に出ているアビスリウムも同時にダウンロードしたが、システムが(クラゲに比べると、どれもそうなるわけだが)複雑すぎて頭が痛くなったのであまり開いていない。
二日目
アラームを設定したのはなんだったんだよ、と言わんばかりに早速スクショを取り忘れる。たぶん仕事とツムツムで忙しかったのだ、仕方ないね。
三日目
一日放置したが、クラゲはのんびり生きていた。丈夫で助かる。
これがたまごっちでもデジモンでも余裕で死んでた。そう考えると、昔のゲームって案外ハードなのかもしれない。スペランカーとか魔界村もその類か。
小数点以下が多くて目がちかちかするが、どうやら3ミリ程度大きくなった様子。
ちなみに、この日よりイケメン劇団員育成ゲームをはじめることになるので、私はツムツム・どうぶつの森、劇団員育成と三足のわらじっていうか足足りないよね? という三重生活をはじめている。
クラゲ、ほんっっっとやることなくて助かる。わらじいらないくらいだもん。
四日目
またしてもスクショを取り忘れ、次の日の朝、慌ててスクショを撮る。
右下の一番下のボタン、「ライト」にて照明の色が変えられるのに気づき、ごまかしも含めて照明の色を変えてみたのだが、観察日記として成り立たせるのだとしたら、どう考えても同じ照明で撮る方が望ましい。
(と、思ったけど、ライトのパターン表示は3で昨日と同じだ。なのにこんなに緑画面なのはなぜだ?)
「奇策とは、本来の姿を見失った姿に過ぎない」みたいな、スラムダンク田岡監督の名言をほんのりと思い出す。
五日目
そんなわけで照明の色を戻す。(厳密にいうと、色は戻せているがパターンは4で昨日までとは違う。私は一体何をしているのだ)
クラゲの右側に点々とみっつ続いている白点は、クラゲの餌である。なんとも簡略化された餌のアイコンだ。ただ、プランクトン型の絵を用意されたところで、おそらく肉眼では視認しづらいだろうし、まったく文句はない。
六日目
一週間に一度の水交換、とあったが、パーセンテージが表示されている以上、どのあたりで交換するのが最適なのかを考える。なんとなく、50%近くになったらするようにはしているのだが。
最低限が「一週間に一度の水交換」であって、やはり常に綺麗に保つ方がよいのだろうか。きれいにしてから餌をあげるより、餌をあげてからきれいにした方が汚れるスピードは遅くなるだろうか。
わからないし、わざわざ攻略を見たいとも思わないが、クラゲはかわいい。
七日目
実際の日付だと八月になった。とりあえず七月もまた、乗り切った。と私はまっくらの帰り道に思う。
いつも電車帰りや道すがらぼんやりとアプリを開いていたが、珍しくアプリを家で開く。すると、途端に接続していたBluetoothスピーカーから優美な音楽が流れてくるではないか。
どうやらこのゲームには癒しのBGMがついていて、いくつかのパターンが選べるようだった。びっくりした。
八日目
とうとうクラゲちゃんが30mmを突破した。
腐っても毎日見てるし、ちょっとぱっと見違いがわからないです……とも思うが、そんな飼い主の水槽でも成長してくれる存在に感謝である。
九日目
餌のあげ方がぞんざいになっており、点字のようになっている。
それに、スクショの撮り方も雑だな! なんであんなに端っこに?
たぶん、劇団員ゲームが相当楽しいのだろう。楽しめることがあるのは良いことだ。このクラゲ育成ゲームをはじめた動機にも立ち返ることだが、手間暇かかるゲームは余裕のないときには手を付けられないからね。
十日目(まとめ)
記念すべき十日目のくせにまたしてもスクショを忘れ、次の日の午後にスクショ撮っているのが、私らしいと言えば私らしい。
クラゲはあれからも成長を続け、35mmに達しようとしている(相変わらず見た目ではよくわからないが、さすがに一日目の画像と比べるとわかるようになったな)。
仕事の波も、八月初週を過ぎればひと段落できるところまできた。
このクラゲは最終的には結構大きくなるらしいので、観察日記はこれで一区切りつけ、これからはもっと長いスパンで成長を見守っていこうと思う。
最も、見守られているのは私の方かもしれないが。
to be continued?
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