福祉施設は、ディズニーランドだ。
「ディズニーランド」に訪れたことはありますか?
と聞かれれば9割が「はい」と答えるのではないだろうか?
「福祉施設」に訪れたことはありますか?
と聞かれれば9割が「いいえ」と答えるのではないだろうか?
4歳上の兄が自閉症という先天性の知的障害があったこと、母親が福祉関係者の集まりに顔を出していたこと、いろいろなことが合間って、僕たち双子はいつも福祉現場に足を踏み入れていた。
「いつかは特別支援学校の先生になりなさい。」
余りにも顔を出していたものだから、双子揃ってとても可愛がられていた。自分自身もいつかは「福祉」の仕事に就職するのだろうなあと漠然と感じていた。それは使命感というものでは決してなく、ある種の必然というか、部屋が汚いから片付けるくらいの生活に当たり前に存在しているナチュラルな動機だった。
あそこはディズニーランド、夢の国だ
誤解を恐れずにいうと、僕は「福祉施設は、ディズニーランド」だと思っている。みんなおんなじだよね、とか、みんな人間だよね、とか綺麗事ではなく、そこには確かに違う空気を感じる。異世界に近いと思う。
歌っている人もいれば、頭をガンガン叩いている人も、ヘッドホンで外界の音を遮断している人もいる。均一化された社会の中で、人ってこんなにも多様で、人ってこんなにもおもしろいんだ、「普通」に染まってしまった人にとっては、人間の「こだわり」が抑圧されることなく、そのままはみ出している人の新しい可能性が凝縮された場所だと思う。
「スプラッシュ・マウンテン」で心臓がバクバクするように急に近づいてきて生年月日を聞かれたり、「イッツ・ア・スモールワールド」のように例えあなたが社長でもバイアスはなく友達のように話しかけられるはずだ。
人生で一度くらいは重度の知的障害のある人と握手をしてみて欲しい。きっと、ディズニーランドでは得られないくらいに不思議な感情になるから。
「こだわり」が存分に発揮できるちいさな世界
昨年、新潟のグループホーム(障害のある人が住むところ)に訪れる機会があった。いたるところの壁にダンボールが貼ってある。
「なぜですか?」
彼は、壁を噛んでしまうらしい。壁を噛む?考えたことありますか?余りにも歯がボロボロになっていることを見兼ねて、職員のみなさまが話し合い壁中の壁に噛んでも大丈夫なように厚手のダンボールを張り巡らせていたのだ。
それ以降、彼は存分に壁に噛む生活をエンジョイしている。
※すごい勢いで噛んでいた
洗面所の紙をなくなるまで何枚も何枚も使ってしまう女の子もいた。嵐の大野くんに「吹き出し」がついた手作りのA4用紙が貼ってある。そこには、
「紙は2枚まで!!お願いね♡」
と記されている。それ以降、彼女が使う洗面所の紙は2枚になったという。アイドルは福祉の現場でも力を発揮しているのだ。
創意工夫が文化として、息づいている。ひとりひとりの強烈な「こだわり」を抑圧することなく、存分に発揮させる、小さな夢の国がそこに確かに存在している。
福祉施設をおもしろがる代弁者が必要だ
「すげー」「やべー」福祉の現場、リスペクト!が、あんまり知られていないのは、いったいぜんたいどうしてなのだろう?
障害のある人は、自らSNSで主張を展開したり、コロナウィルスがいかに福祉施設を脅かしているのかを発信することは、ほとんどない。すごく分かりやすいのは「コロナウィルス」におけるSOSだと思う。
医療従事者がいかに切迫している現場かをライブ中継・配信、ツイッターフェイスブックを駆使しているのに対し、福祉従事者のSOSは限りなく少なかった。そこに対してぼくは、強い焦りを感じている。それは社会との関係性の作り方、仲間づくりがうまくいってなかったことが結果として現れていると感じたからだ。
「#福祉現場にもマスクを」ちいさな声を、おおきな声に
実は、福祉現場でマスクが圧倒的に不足している。マスクが必要なのに、なかなか声を上げられない福祉施設や、看護・介護等の在宅サービスの現場がとても、とても、多く存在している。
一枚でも多く、一カ所でも多い福祉現場にマスクを届けるために。一般社団法人障害攻略課、NPO法人D-SHiPS32、一般社団法人Get In touch、株式会社ヘラルボニーがひとつになり、「#福祉現場にもマスクを」プロジェクトを発足した。
発足からもうすぐで2週間、これまでに35,870枚のマスクを、福祉現場にお届けしている。
福祉施設は、あたらしい感情に出会わせてくれる場所だ。
福祉施設は、アトラクションだと思う。
福祉施設は、デートスポットになっても良いと思う。
今は「こいつ何いってんだ」と、偏った意見に聞こえるかもしれない。だけど、5年、10年先の未来で、そんな世界があたりまえになっているかもしれない。
「いま」だからこそ、福祉現場と社会がつながるきっかけになるのではないか、誤解を恐れずにいうと、ぼくはそんな風に考えている。ぜひ、「#福祉現場にマスクを」繋がってください。