【覚え書き】チャイコフスキーの『フランスの古い歌』の原曲を探る

1878年 Old french song (Старинная французская песенка) Op.39-16 ("Album for the young")

P.チャイコフスキー(1840–1893)が1878年に作った『子供のためのアルバム』の第16曲『フランスの古い歌』


チャイコフスキーは1878–79年にこのメロディーを、ジャンヌ・ダルクを題材にしたオペラ『オルレアンの少女』にも用いた。次の動画の2:40から。

このオペラは、ロシア語ではあるがフランスのグランド・オペラに非常に接近した内容を持っているという。


色々なアレンジの詰め合わせ(途中で音が大きい録音があるので音量に注意が必要)

  1. P.I. Tchaikovsky. Children's Album, op. 39 (1878). Old French Song - Mikhail Pletnev, piano.(リンク)

  2. P.I. Tchaikovsky. The Maid of Orleans (1881). Chorus of Minstrels - Chorus and Orchestra of the Moscow Radio, Gennady Rozhdestvensky.(リンク)

  3. Traditional. Mes belles amourettes - Nana Mouskouri, vocals.

  4. Jean-Henry D'Anglebert. Suite No. 2 In G Minor (1689). XIII. Gavotte "Où Estes Vous Allé?" - Christophe Rousset, harpsichord.

  5. Anonymous. "Où estes-vous allé mes belles Amourettes". From Christophe Ballard’s collection “Brunètes ou petits airs tendres” (1704) - Les Musiciens de Saint-Julien, François Lazarevitch

  6. Dmitri Shostakovich. The New Babylon (Novyy Vavilon) (1929) by Grigori Kozintsev and Leonid Trauberg. - SRW-Rundfunkorchester Kaiserslautern, Frank Strobel.(リンク)

  7. Mila Stivrin. Old French Song. Piano improvisation.(リンク)

この動画の解説に次のような有用な情報があったので引用する
“Tchaikovsky took this melody from the first volume of Jean-Baptiste Weckerlin's “Echos du temps passé” (first published 1853-57), a collection containing mostly French pieces, ranging from Adam de la Halle to Rameau (J. B. Wekerlin, Echos du temps passe, 1:73). Weckerlin states in a brief introduction to the piece that he had taken this anonymous “brunette” from Christophe Ballard's early eighteenth-century collection “Brunetes ou petits airs tendres” (Paris: n.p., 1704), 2:145. The melody itself is much older. See Titova, "Starinnaya frantsuzskaya pesenka," for a list of other settings of this melody (this overview is not comprehensive; Lully's setting LWV 76, nr. 13, for example, is not mentioned). Tchaikovsky made his own harmonization, in which he switches to the major mode in the third melodic line, like Weckerlin, and unlike earlier versions.” (“Not Russian Enough?: Nationalism and Cosmopolitanism in Nineteenth-Century Russian opera” by Rutger Helmers)
「チャイコフスキーはこの旋律を、ジャン=バティスト・ヴェケルランの『過ぎ去りし時の響き』(初版1853-57年)の第1巻(アダム・ド・ラ・ハレからラモーまで、主にフランスの作品を集めた曲集)から引用した(J. B. Wekerlin, Echos du temps passe, 1:73)。ヴェケルランはこの曲の簡単な紹介で、クリストフ・バラールの18世紀初頭の作品集『Brunetes ou petits airs tendres』(Paris: n.p., 1704)2:145からこの匿名の「ブルネット」を引用したと述べている。メロディ自体はもっと古い。この旋律の他の設定については、Titova, "Starinnaya frantsuzskaya pesenka "を参照のこと(この概要は包括的なものではなく、例えばリュリの設定LWV 76, nr.13は言及されていない)。チャイコフスキーは、ヴェケルランと同じように、またそれ以前の版とは異なり、3番目の旋律線で長調に切り替える独自の和声化を行った。("Not Russian Enough?19世紀ロシア・オペラにおけるナショナリズムとコスモポリタニズム」ルトガー・ヘルマース著)

https://www.youtube.com/watch?v=l_8IvKNZWF8

ヴェケルランについての情報のソース(の注112)。

Rutger Helmers著 Not Russian Enough?: Nationalism and Cosmopolitanism in Nineteenth-Century Russian opera (2014)


ジャン=バティスト・ヴェケルランのEchos du temps passé第1巻(1853)にMes belles amourettesというタイトルで掲載されている

勝手にタイトルを変えないでほしい。

その1
その2
その3




1704のBrunetes ou petits airs tendres, tome IIに収録されたヴァージョン

ヴェケルランはここから引用した。

綺麗な楽譜はこちら(IMSLP)。

その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8

歌詞と訳(機械翻訳)

(古い綴りをそのままにしてある)

Ou estes-vous allé, mes belles Amourettes,
Changerez-vous de lieux tous les jours?

Puisque le Ciel le veut ainsi, que mon mal je regrette :
Je m'en iray dans ces Bois, Conter mes amoureux discours ;

Où estes-vous allé, mes belles Amourettes,
Changerez-vous de lieux tous les jours?

どこに行ったの、かわいい恋人たち、
毎日違う場所に行くの?

天がそう決めたなら、僕の悲しみを悔やみながら:
森に行って、恋の話をするよ;

どこに行ったの、かわいい恋人たち、
毎日違う場所に行くの?

(Second Couplet.)
A qui diray-je mon tourment & mes peines secrettes ?
Je m'en iray dans ces Bois,
Chanter d'une mourante voix ;
Où estes-vous allé, mes belles Amourettes,
Changerez-vous de lieux mille fois ?
(第二の歌) だれに言おう、この悲しみと隠れた痛みを? 森の中に行って、 かすかな声で歌うのだ。 どこへ行ったの、私の美しい恋人たち、 毎日場所を変えるの?

(Troisiéme Couplet.)
Vous avez emmené l'Amour,
Dans les lieux où vous estes :
Les Oyseaux depuis ce jour,
Chantent dans nos bois, tour à tour ;
Où estes-vous allé, mes belles Amourettes,
Revenez embellir ce séjour.
(第三の歌) あなたたちは愛を連れて行ってしまった、 そこにいる場所へ。 それからというもの、鳥たちは 森で順番に歌っている。 どこへ行ったの、私の美しい恋人たち、 この場所を美しくして戻ってきて。

(Autre.)
La Nature fit ses efforts
Pour vous rendre accomplie ;
Et de l'esprit, & du corps
Vous prodigua tous les thrésors ;
Mais, ne s'en pas servir alors qu'on est jolie,
C'est se preparer mille remords.
(別の歌) 自然は努力してあなたを 完璧にしようとした。 そして、心と体の すべての宝を惜しみなく与えた。 でも、美しいときにそれを使わないのは、 千の後悔を準備するようなもの。


その他の録音




17世紀後半にダングルベールが編曲していた。

ジャン=アンリ・ダングルベール(1629–1691)はリュリと同時代の作曲家。晩年に作品をまとめて出版した中の1曲で、この編曲を作った時期は分からない。

ダングルベールはこれをガヴォットと書いている。ただしよくあるガヴォットとは異なる小節線の引き方をしている。これはおそらく、ガヴォット特有の小節線が定着する前の時期に書かれたということだろう。ダングルベールの残した4つのガヴォットはみな、このような書き方をしている。

当時は、既存の民謡をリズムを整えて踊れる曲に変えるという需要があったようだ。歌のまま舞曲になったものはchanson à danserと言ったようである。


リュリが独立したエールとして作曲しているらしい

作品番号はLWV 76/13となっている。おそらくLWV 76が独立したエールを集めた作品集に付けられた番号で、その13番である。

まだ確認できていない。



1587 J.プランソンのマドリガル

★この録音の詳細が知りたいと思っていたら、コメントで教えていただきました。ありがとうございます。★

フランス人のジャン・プランソン Jehan Planson (1559頃–1611)が1587年に出版したAirs mis en musique à quatre partiesに、Puisque le ciel veut ainsiというタイトルで掲載されている。タイトルが違うのは、Où êtes-vous alléから始まる部分が曲の終わりにだけ出る構成だからだ。

BnFに1693年のヴァージョンがあった。目次には6ページとあるが、楽譜は5枚目の裏に印刷されている。つまり見開きの両ページを6としているわけだ。パートごとに分冊になっている。

.ij.は繰り返しを意味する記号。ここではOu estes vousの後に続く歌詞が省略されていることを示す。この記号はローマ数字のiiらしい。他にもqueやvousなどの省略記号があって興味深い。õやãは、onやanの略記である。

歌詞(と機械翻訳)

Puis que le ciel veut ainsi que mon mal je rerrette,
Ie m'en iray dans ces boys contet mes amoureux discours
Ou estes vous allez mes amourettes
Changerez vous de lieu tous les jours.
Ou estes vous allez mes amourettes.
天が私の苦しみを望むなら、私はこの森に行って恋の話を語ります。
どこに行ったの、美しい恋人たち、
毎日場所を変えるの?
どこに行ったの、美しい恋人たち。

Demeurant en ces desers si ma langue est muette
Ie graueray mon tourment sur ces haus rochers d'alentour
Ou estes vous allez (以下繰り返し)
この荒野に留まるなら、私の言葉がなくても、私の苦しみを周りの高い岩に刻みます。
どこに行ったの(以下繰り返し)

Ie baniray tout plaisir seulement je souhaite
D'auoir peinte aupres de moy la déesse de mes amours
Ou estes vous alles (以下繰り返し)
私は全ての喜びを追放し、ただ愛の女神の絵をそばに置くだけを望みます。
どこに行ったの(以下繰り返し)

I'ay beau contet mou tourment et ma douleur secrette
Rien ne respond à ma vois les abres sont muetx & sours
On estes vous allez (以下繰り返し)
私の苦しみと秘密の痛みを話しても、木々は答えず、沈黙しています。
どこに行ったの(以下繰り返し)

La seulle Echo prent pitié des soupirs que je jette
Et se complaint auec moy redisaut mes tristes discours
On estes vous alles (以下繰り返し)
唯一エコーだけが私のため息を受け止め、悲しい話を繰り返してくれます。
どこに行ったの(以下繰り返し)

Tu n'es plus douce pourtant à ma juste requeste
Ie trouue plus d'amitié dans le cœur des Tygres & des Ours
Ou estes vous alles (以下繰り返し)
私の正当な願いに対して、あなたはもう優しくありません。
私はトラやクマの心の中に、もっと友情を見つけるでしょう。
どこに行ったの(以下繰り返し)

L'as ne reuertay-ie plus ceste beauté parfaite
Donc me faudra il mourir sans esperer aucun secours
Ou estes uous allez (以下繰り返し)
ああ、この完璧な美しさをもう一度見ることができるでしょうか?
それができなければ、私は助けを求めずに死ぬことになるでしょう。
どこに行ったの(以下繰り返し)

Adieu donc legere foy plus qu'vne girouette
Tant que j'auray l'ame au cors vous ne me ferez plus ces tours.
Or adieu vous dis mes amourettes ora adieu vous dis tous mes amours.
さようなら、風見鶏のように変わりやすい信頼。
私の魂がこの体にある限り、あなたは私を再び欺くことはないでしょう。
さようなら、私の恋人たち、さようなら、私の愛。

↓この録音の方が歌詞を聞き取りやすい。



16世紀にフランス王フランソワ1世(1494–1547)が作曲したという伝説がある


La fleur des chansons d'amour du XVIe siècleのp.362に情報

(リンク)。Jean du Tournesは1540年から1564年までリヨンで出版事業を行った人。フランソワ1世はヴァロワ朝の第9代フランス王。晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチを迎えるなど、ルネサンス文化を保護した。

ひょっとしたら関連情報がThe Elizabethan Lyric as Contrafactum: Robert Sidney's 'French Tune' Identifiedから得られるかも知れないが有料の論文。


『フランソワ1世の宮廷における音楽 La musique à la cour de François Ier 』(2002)という本のp.50以降で、フランソワ1世に関する音楽能力についての検証が詳しくなされており、またこの『フランスの古い歌』を王が本当に作ったのかどうか考察がなされている。それによると、詩を作った可能性はあるということのようだ。


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