創作者の気になるコト_1__170827

小説家・漫画家になるためのルート、ツールの活用法【創作者がぶっちゃけ気になるコトを、編集者にぶつけてみた(1)】

 プロの漫画・小説・書籍編集者が所属会社の垣根を超えてWeb作品を褒めちゃう活動をしている「覆面編集者プロジェクト」では、作家志望者の方に役立つ情報を定期的にお届けします!

 今回から3回にわたり、「創作者がぶっちゃけ気になるコトを、編集者にぶつけてみた」というテーマで連載。自身も小説を書く、覆面ライター“とっちー”と見習いライター“みっきー”が、創作に役立つ話を覆面編集者の“ツッツー”に聞いてきました。
 第1弾は、「小説家・漫画家になるためのルート、ツールの活用法」。最近は昔とずいぶん変わってきているのです。(取材:とっちー&みっきー 執筆:みっきー)

小説家・漫画家になるためのルート―旧来型のルートとWebデビュー

――小説家・漫画家志望の人が小説家になるためのルートには、どのような種類がありますか?

 まず旧来型の、新人賞受賞でデビューというパターンと、漫画なら編集部への持ち込みというパターンがあります。雑誌に「持ち込み募集中」と書いてあるものもありますよ。小説の場合持ち込まれても短い時間で判断できないので、基本的には新人賞のご案内をすることになります。
 それから、知り合い経由なんてパターンもあります。出版業界内や隣接した業界で編集者と直接やりとりして実現することも。例えば、ゲーム業界のライターさん・シナリオライターさんに編集者から声をかけたり、逆に小説を書きたいと企画を編集者が受け取ったりする場合があります。これらの業界の人ではなくても、チャンスはゼロではないでしょう。知り合い経由は持ち込みに近いルートですが、こちらは小説も漫画もあり得ます。
 さらに、前回の記事にもある通り、Web経由でのデビューがかなりの割合で増えています。今後の主流と言ってもよいでしょうね。

――Web経由でのデビューの話は以前の記事にもありましたが、今回さらに詳しくうかがいたいと思います。Webデビューにはどのような形があるのでしょうか?

 ブログ、投稿サイト、ツイッター、いろいろな形でデビューされる方がいます。
 ツイッターの場合、連作短編のような形で連載されることもありますが、一回の情報量が少ないので、キャッチーで引きがあって、みんなが知りたい情報が載っていることがすごく重要です。一回バズるとリツイートが何万にもなり、注目度が一気に高まります。
 某社の『ニンジャスレイヤー』という作品は、おそらくツイッター小説という形でデビューして、バズって、書籍化もアニメ化もしました。
 こういった形でツイッターデビューもあるとは思いますが、投稿サイト経由の方が圧倒的に多いでしょう。

Web経由は旧来型よりもデビューが早いが、プロモーション力も必要

――Web経由と旧来型のルートでは、デビューするまでにかかる時間はどちらの方が短いのでしょうか?

 Web経由ですね。旧来型のルートでは、作品を見てもらってから結果が出るまでに時間がかかるんです。新人賞では、受付してから編集部で選考して結果発表するまでに半年から1年かかります。それから改稿したりすると、デビューするまでに1年ないし1年半くらいかかることもある。複数の賞に応募しても、各社が同じようなスケジュールで動いているので、最短でも結局1年はかかると思います。
 これは、場合によっては1000を超える作品を精査する作業を、少人数の編集部が人の目で行っているので、下読み(※注釈 編集部が外部の協力編集者などに選考作業を委託すること)を通して絞ったとしても、時間がかかるのは仕方がないでしょう。
 それに対してWebでは、ランキングなりフォロワー数なりを指標として、非常に早く作品を絞り込むことができるんです。それが本当に売れる作品かどうかは、人間の目の介在が必要ですけれど、それでも最終選考近くまではキュッと絞れる。
 だからこそ、旧来型のルートであれば1年から1年半かかっていたところを、Web経由で、早い人だと3か月から4か月でデビューすることもあると思います。これは、作家がWeb上で募集されている賞に応募する場合もあるし、編集者側から声をかける場合もありますね。

――ただ、本人がフォロワー数を増やすまでに、編集者さんから見えないところで時間がかかるのではないですか?

 潜在期間はあると思います。Web経由のデビューを狙う場合だと、プロモーションを自分でする必要がある。書く以外の作業にもリソースを割かなければいけません。だから、その人の状況に応じて、デビューするぞと決めてからどういう戦略をとるか、いろいろなやり方があるでしょう。例えば、ネットは苦手でコツコツ書いていきたいという人は、実は新人賞の方が早いかもしれないですよね。
 けれどもやはり、Web経由の方が、早くデビューできる確率が圧倒的に高い。それは、小説家・漫画家志望の人が実力を付けるために何をするべきか、という点に関わってきます。

Webで自分の作品をロジカルに分析し、実力をつける

――Web経由と旧来型のルートで、実力の付き方が異なってくるのでしょうか?

 対比的にお話ししましょう。旧来型の新人賞の場合、フィードバックをもらえないことが多く、もらえても数が限られています。ライトノベルの新人賞などでは、希望者全員に応募作品の評価シートをお送りする場合もあり、例えばキャラクター造形力や構成力、オリジナリティなどについて評価し、また編集部の5行程度のコメントが書いてある。ただ、結局それは1年に1回程度。複数の賞へ同時に応募していていたとしても、せいぜい数か月に1回程度でしょう。フィードバックの頻度が低いんです。
 それに対してWebでは、例えばフォロワーの数や、ランキングが見られますよね。さらに、自分のある作品が何人に読まれているのか即座に分かる。そうすると、自分の作品の商業的な位置づけが、すごいことに分単位でかなり分かるんです。
 さらに、続き物の場合、投稿している作品や話数に応じて、ボトルネックポイントが分かるんですよね。

――ボトルネックポイントとは、具体的にどういうことでしょうか?

 例えば1話から10話までの続き物の場合、5話でPV数(閲覧数)が急に減っていたら、5話に何か問題があるんだな、と分かります。単純におもしろくないのか、読者をがっかりさせる要素があるのか、とにかく何かボトルネック(※注釈 瓶の細くなった口のように、そこでPV数を減らしている部分)があるんだな、と。だから、5話を改善すればトータルのPV数が増えると考えられる。いわゆるウェブマーケティング的な手法が使えるんです。これによって、作品を完結まで読んでくれる読者の総数を増やせます。
 フォロワー数やランキング、各話のPV数などを見るには、そんなに高度な技術は必要なく、少し勉強すれば多くの投稿サイトで見られます。そうすると、自分の作品を日々、ロジカルに分析できるんですよね。そもそも「自分は感性で書くんだ」という人には合わない手法ですが、感性も重視しつつある程度ロジカルにやっていきたい人には最高のシステムです。
 これを繰り返していると、商業的センスが身につきます。結局、商業世界に出たら、どれだけの人に読んでもらえるか、売れるかということが絶対的な指標になりますが、そのためのセンスをアマチュアの段階で磨けるんです。しかも「本」という形で発売された後では、何章に問題があるのかということは分からない。だから、Webで最終話まで維持できた読者の人数が多い作品というのは、既に多くの人に選ばれた作品になりますよね。
 ただし、作品をWebで読む場合と本で読む場合で、読者が期待するポイントが変わることもあるので、旧来型のルートにおいて、経験を持った編集者が作品に介在することにも意味はあります。

――大勢の意見を尊重するか、編集者の意見を尊重するかということでしょうか。

 そうですね、どちらを選択するか、ということです。
 漫画の場合、編集部への持ち込みというルートがあり、やろうと思えば毎週持ち込みができるので、その人次第で選択をすることができます。ただ、小説の場合、持ち込みという選択肢がそもそもないので、ロジカルにやっていきたい人は統計的なデータを分析するし、感性で書きたい人はひたすら地道に新人賞に応募していくことになりますね。

自分の琴線を大事にし、何にでも興味を持ち、人に会う

――実力を付けるためのWebの活用法をお話しいただきましたが、その他に、小説家・漫画家志望者が実力を付けるためにできることはありますか?

 作品は最終的には喜怒哀楽、何かしらのベクトルに人の心を動かさないと娯楽商品になりません。だから、まず自分の琴線を大事にしたほうがいい。
 何が世間で受けているのか、という外的なものの調査もすごく重要ですが、まずは内的な、自分の琴線や心が振れるものに敏感になってもらいたい。自分がおもしろい、もしくは悲しい、辛いと思ったときに、なぜ辛いんだろう、何に対して辛いと思うんだろうと、深掘りするのです。
 次に、何にでも興味を持つことです。
 よく言われるように、なんでも作品のネタになります。借金を1000万背負った、交通事故にあったなど、そういった場面に遭わないほうが良いですが、肥やしになる可能性もあります。仕事も同じ。新人賞をとってデビューした人に「本職は辞めないでね」とよく言いますが、作家以外の仕事を持っていた方が人生経験の幅が広がるんですよね。
 今の話と似ていますが、3つ目は人生経験を深めていく上で、人と関わることや、挫折や失敗を一通り経験した方がいいということです。特に小説家の場合は人嫌いが多く「基本的には誰とも話したくない、それよりも作品を書いていたい」という人が割と多くいます。けれども、やはり人と関わり、挫折や苦労をすることで見えてくるものも多くある。
 若いうちはいいんです。ライトノベルやキャラクター小説と言われるものは、読者の中心が10代から20代で、書き手が純粋に読者の等身大なので、読者の気持ちがわかる。だから、今自分と向き合って、自分が好きなものを小説にアウトプットするだけでも刺さるものがあるんです。少女漫画も、若い漫画家さんが多いですよね。高校生の方もいます。しかし、30代、40代になってくると、だんだんと自分よりも若い人が読者となるため、自分と向き合うだけではやっていけなくなる。だから、他者の気持ちを知って人生経験を深め、作家としての引き出しを増やすためにも、人と関わり、挫折を経験した方が良いと思います。

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